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二十一話 初仕事

スカイとレメは王都の地下にある巨大ダンジョンへと来ていた。


通称ナッシャーダンジョンと呼ばれるところで、中は大きく4つの区画に分かれている。

2年生の生徒が遭難したのは北エリアだという情報を得て二人はここにやって来た。


ダンジョン内は明るい。壁に光る魔石がところどころ埋め込まれており、視界の面では凄く安定している。

先日スカイがA級の魔物を二匹狩ったのは王都の郊外である。それに匹敵する強さの魔物が出るのが、この北エリアであった。

4つの区画でもこのエリアが一番ランクの高い魔物が出やすいことで知られている。


「2年生の遭難を一年の俺たち二人に任せるってどうなんだ? 」

ダンジョン内を歩いている間、レメが話をしないのでスカイから会話を試みた。

しかし、返答はない。

レメは遭難した生徒が行ったと思われるルートを、地図を確認しながらたどっていた。

スカイは黙ってその後をついていくだけ。


暇なのでスカイはレメを観察した。

平民とは思えないほど髪質が綺麗で、肌もどんな手入れをしているのか透き通ったように白い。

そんなところばかり見るなと自分を戒めて、スカイは他の部分も観察する。


レメは腰の辺りに、いつでも抜くことができるように刀を浮かせて準備していた。一見ただの武器のようだが、レメは魔法使いだ。本当の役割は杖である。

もちろん刀と同様に刃も研いでいるだろうから、近接戦闘で相手を斬ることも可能だと考えられる。


近接戦闘型の杖から推測して、レメは光か土の性質だろうとスカイは推測した。

光と土の性質は近接戦闘が有利になるような魔法が他の性質と比べて多い。それ故、杖を武器仕様にしておく使い手が多いのだ。


二人がダンジョン内を歩いてしばらくすると、他の足音が聞こえてくる。

ダンジョン内にいるのは、他の冒険者。もしくは魔物のどちらか一方である。


足音が近づくにつれて、二人は警戒した。

杖を手に持ち、闇の中から出てきたそいつを視認する。


二足歩行であるく、体長3メートルもある狼男。通称コボルトと呼ばれる魔物だ。

冒険者じゃないと分かった途端、レメは魔法を詠唱し始めた。


光の性質、中級魔法武器強化。詠唱時間3秒。3分間自身の指定した武器に光を纏わせて強化させる。

詠唱を見て魔法を看破したスカイは、いつも通り時間を数える。

コボルトが身構えている間に、レメの詠唱が完了した。その時間、3.75秒。レメの魔力変換速度は80%。意外と優秀な数値だったことにスカイは驚いた。


魔法が発動されて、レメが抜き放った刀に光が集まっていく。

見るからに斬れ味マシマシといった感じだった。


「武器強化をしたから3分間私の杖は斬れ味10倍よ。怪我をしたくなかったら、私の側をウロウロしないことね」

警告通り、スカイはちょろちょろせずレメの戦闘を見守ることにした。


レメの杖の光に警戒感を示しているコボルトは、あえて近づこうとはせず、距離を置いたその場で魔法の詠唱を始めた。

土の性質、中級魔法身体強化。詠唱時間は4秒。

相手のよくわからない魔法に、コボルトはとりあえず自身を強化することで対応するつもりのようだった。


しかし、レメも同時に更なる魔法を詠唱し始めていた。

光の性質、初級魔法光速移動。詠唱時間は1秒。


1.25秒後にレメの魔法が先に完成し、彼女は一瞬で立っていたその場から姿を消した。

光の線が見えたかと思うと、レメは既にコボルトの懐に潜り込んでいる。光速移動は光の性質で、詠唱完了後指定したポイントに光速で移動できる魔法だ。

慣れていないと自分が移動したことに気が付かない使い手もいるし、光速移動で吐き気を催す使い手もいるとか。しかし、レメにそんな様子はなく、まだ詠唱中のコボルトの下方から刀を振り上げる。刀の捌き方にも熟練したものがあった。

コボルトの首が宙にはねる。その顔は未だ斬られたことを実感できている顔ではなかった。


次いで巨体が倒れ、大きな振動が辺りを揺らした。

まだ光り続ける刀を宙に手放し、レメはスカイに向き直る。


「聞こえる? もう一匹来ているけど、それもわたしがやるわ。ほとんどの魔法使いがそうだけど、遅すぎるのよ。どんなに強力な魔法も、わたしの前じゃ意味ないっていい加減理解して欲しいわ。あなた、今日ずっと後方で見守っているといいわ。そっちの方がきっと早く済むし。会長にはあなたもちゃんと働いたって言っておくから」

「はいはい」

コボルトらしき足音がもう一つ近づいていることに、スカイも当然気が付いていた。

会長が先に生徒会にスカイを誘ったため、それ以来レメはスカイを目の敵にしていた。来月は一体一の公式戦も控えている。

今日の仕事を全てレメに任せれば楽できていいのだが、スカイにそのつもりはなかった。


公式戦を控えているにもかかわらず、レメは手の内をさらしたのだ。

ならば、自分もある程度晒しておくべきだろうと考えた。


もう一体のコボルトの足音がどんどん近づいてきて、ようやくその姿を見せた。

レメの武器強化はまだ効果が続いているため、彼女は刀を手にしてまた先ほど同様にコボルトを仕留めるつもりでいた。


光の性質、初級魔法光速移動の詠唱を開始する。

1.25秒後、彼女は指定したポイント、コボルトの懐内へと飛んだ。


先ほど同様、強化した刀でコボルトの首をはねてやろうとしていたのだが、光速移動したポイントではコボルトが既に仰向けに倒れ込んでいた。

見ると、眉間に風穴があけられており、瞬殺されたことが伺える。


レメはその場で振り返った。おそらくこれを起こした男を見るために。

後方にいたスカイは、拳銃型の杖を手にしており、得意げに笑みを浮かべていた。


「悪いな。速いのは俺も一緒だ」

ムッとしただけ、レメは特に何も言い返さなかった。

レメには見えなかった。スカイが何をしたのか。何が起こったのか。


別にスカイは特別なことをしていない。

いつも通り0.1秒で魔力弾を重複詠唱して、2発同時にコボルトの眉間に打ち込んだだけだ。低級魔物であるコボルトには少し高威力すぎたため瞬殺という形になった。

ただ、スカイはあえて光速移動が完成する直前に魔力弾を放った。

光速移動で間もなく飛ぶことを想定して集中していたレメは、自分を追い越す魔力弾を見ていなかった。

それで、飛んだ先にはなぜか倒れ込んでいるコボルトの姿が。こうしてレメをびっくりさせることに成功したスカイはしばらく愉快な気分でダンジョンの捜索を続けることができた。


スカイが愉快になったぶんだけ、レメは不快な気分になっていた。

最速で飛んだはずの自分をなぜかスカイが上回ったのだ。信じられない気分だった。

コボルトを一撃で仕留めるには中級魔法以上の威力が必要になってくる。スカイが遠隔魔法で仕留めたことはわかるが、それにしても速すぎる。あまりに速い。

気になって仕方がなかった。スカイが何をしたのか知りたい気持ちでいっぱいになる。


「……あなた、次魔物が出たら仕留めなさいよ」

「さっき黙って見ていろって」

「はあ? 言いつけを破って手を出したんだから、最後までやり抜きなさいよ」

「はいはい」

今度は何が何でも見抜いてやると決意したレメだった。

しかし、彼女の思惑に反してその後一向に魔物が現れない。


そして、とうとうダンジョン奥のボスポイントまで来てしまっていた。

ダンジョン内には過去のデータから、ボスの出やすいポイントというのが指定されていた。

今日二人が通ったナッシャーダンジョンルート23という道の、ほとんど最終地点とも呼べる場所がボスポイントに指定されている。一人でダンジョンに潜る者は、基本このボスポイントには入らない。

遭難した2年生がここまで来ているとは考えづらかった。


「まさか、こんなところまで潜った訳じゃないよね? うちの生徒ってそこまでアホなの? 」

「どうやらそこまでアホなようだぞ」

最終地点のボスポイントは広いフロアとなっていた。先ほどより天井も高く、開放感がある。平らにならされた地面には謎の魔法陣が描かれている。これはボスがいることの証明だった。


フロアの一番奥に、ボス級魔物が座り込んでいた。

巨大な二足歩行の豚の魔物、通称オークキング。手には巨大な棍棒を。オークキングの後ろには、粘液に絡まれて捕縛されている人間が数人見える。その中に、遭難した2年生の一人がいた。どうやら備蓄食料にされているらしい。





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