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十九話 奇術師からの楽しいお返し

「怪我しても知らねーぞ」

と言い残して生徒会室を去ろうとしたしたスカイだったが、「公式戦は怪我をしませんよ」とレメにすぐさま言い返された。

え、そうなの? と素直にルールとかシステムとか聞けばよかったのだが、それはなんだか負けた気分になるので、スカイは知っている風を装った。

「心の怪我……のことだよ」

「なんですか? 心の怪我って? ねえ、ねえねえ」

「うっ……」

迫り来るレメからスカイは必死に逃げ去った。

危うく言葉攻めでボコボコにされるところだった。


自分の部屋に戻って静かな環境を確保したスカイは早速使い魔の奇術師を呼び出すことにした。

静かな部屋にポンと現れる小さなピエロ風の使い魔。

「よう、早速よびだしてくれたのか」

相変わらず低いおっさん声のままあいさつを述べる。

「ああ、トリックメーカーの構築をしたくてな」

「トリックメーカーについてある程度予習はできているみたいだな。おうおう、可愛さ目当てで俺と契約したんじゃなくて良かったぜ」

可愛さ目当て? と本気で疑問を感じたスカイだったが一瞬表情に出しただけで口にはしなかった。


「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はスカイ・ヴィンセント。当然だけどお前の契約者だ」

「スカイね。それならばこちらも。俺様は人族の使い魔、奇術師だ。能力はトリックメーカー、奇跡と奇怪を作り出す者だ。面白いことは起こしてやれるが、ドラゴンの様に戦うのは無理だぜ」

「充分だ。あんたのことはなんて呼んだらいい? 」

「すきに呼べ」

「じゃあ、ピエロだ」

「そのまんまだな」

「そのまんまだ」

自己紹介が終わり、空間を楽しそうに跳ね回るピエロにスカイは再度トリックメーカーの構築について相談を開始した。


「トリックメーカーについてなんだけど、俺の魔力弾に奇跡と奇怪を起こして欲しい」

「知っているぜ。随分とぶっ壊れた威力の魔力弾を使うようだ。かつて使い魔としていろいろな魔法使いと契約したが、お前さんほど少ない魔力量も、一風変わった魔法の使い手も初めてだ」

「褒め言葉として受け取るよ。それより、トリックメーカーを構築するにあたって限界っていうのはあるのか? 」

「なにも」

「なにもないだと? 」

「ああ、なにもない。要望を言ってみな」

書物で事前に知識は得ていたが、奇術師の起こす奇跡には性質も威力も更には魔法理論の根本をも覆すような力が秘められているらしい。ただし、当然そんな美味しいだけの話ではない。その後に続く、奇術師からの無理難題も飲み込まなければならない。

純粋に威力の底上げ、力の増幅がそこにあるわけではない。しかし、トリックメーカーによって魔法はいかようにも姿を変えることができる。


「例えばの話だが、俺の魔力弾が一発相手に当たるだけで即死させる……なんてこともできるのか? 」

「可能だ」

「すごいな。奇跡を起こしてくれる代わりに、奇怪の面は何が起きる? 」

「そうだな、一発撃った後、生涯お前の魔力を封じようかな」

「なるほど、俺にとっても撃たれる相手にとっても重たい一発だ」

書物での情報だけでなく、こうして実際に接してみることでスカイはピエロのことを知ろうと試みていた。

魔法使いとしての腕をあげるには、使い魔を知り尽くすことは必須だと思えたからだ。


「では、これならどうだ。俺の魔力弾一発でこの大地丸ごと滅ぼすことは」

「可能だ」

「本当にか? 本当に可能なら既に世界は奇術師を使い魔に選んだ誰かに滅ぼされていそうだけど」

「代わりにだが、お前を別の世界にとばしてやろう」

「それまたすごい規模の話だ」

そんなこと本当に可能かと再度聞くのは野暮だろう。奇術師はできると言っているが、それを実際やろうとするものはいないからだ。


「なんだ、なんだ? お前はなにか世界に恨みでもあるのか? 」

「いや、トリックメーカーの限界を知りたかっただけだよ。そんなことを頼むつもりはないから安心して」

「バーカ、そもそもできるけど頼まれてもやってやんねーよ」

ああ、そういう詭弁もありなのかとスカイはだんだんとピエロのことを理解してきた。

信じられないような話をできると言われても、ピエロが承諾しない限りそれは実際には起こり得ない。いかにも奇術師らしい性格だと納得させられていた。


「お前面白いな。頼みたい能力のことなんだけど、魔力弾の威力を高めて欲しい」

「できるが、それはドラゴン系の十八番だぜ」

「ドラゴン系の上げ幅じゃ満足できないんだよ。あんたならもっと莫大な数値をくれるだろう」

「欲張るなら俺様だな。正解だ」

なんだか性格が合いそうだと、お互いに感じた二人だった。


「俺の魔力弾は杖を使った状態で一発500。ドラゴン系ではこれを1.1倍、良くて1.2倍までしかあげることができない。それじゃよくて威力600だ。それじゃ満足できない」

「目標値はいくらだ? 」

「上級魔法の威力を超える、1250だ。そこの威力帯が欲しい」

「いいぜ、くれてやる。ただ――」

続きを述べようとしたピエロの口をスカイが手で塞いだ。


「まだ焦るな。威力が2.5倍に跳ね上がるんだ。ピエロに何を要求されるか分かったものじゃない」

「たっく、強引なやつだぜ。なら続きを言いな」

「威力は段階を踏んで上げて欲しい。それならストレートに最初から威力が高い状態よりも奇怪がマシなはずだ」

「その通りだ。よくわかってやがる」

「次に、威力が上がるには条件をつける、クリアするごとに威力を10%上乗せさせて欲しい」

「条件が増えやがるな。いいぞ、奇怪を恐れるのは良い傾向だ。けけけけけ」

自分のことを理解してくれているスカイに、ピエロは上機嫌な笑いで応えた。


「威力が上がる条件だが、魔力弾が相手に命中したときに10%上乗せして欲しい。相手の魔法とぶつかり合ったときも条件には合致。防具で物理的に防がれた場合、防御魔法で防がれた場合も条件には合致。ただし、相手の魔法で魔力弾を消されたときは条件に合致しない。それと珍しいパターンだが、魔力弾を飲み込まれた場合は条件合致にして欲しい」

「いいぞ、いいぞ。どんどん条件を増やしていけ」

「上乗せする10%だが、これは元の威力500の数値を常に基準とする。一発当てれば、威力は50増えて550。二発当てれば変わらず元の500の10%の50が加算され、威力は550+50で600となる。そしてこの威力加算だが、上限は2000とする。恐らくそれ以上はあまり意味のない威力の上げ幅となる」

「ふむふむ」

スカイからの要望は以上だった。この程度の奇跡、ピエロには容易いことだった。それはスカイもわかっている。初めに世界を滅ぼす一撃でさえできると言われていたんだから。

しかし、肝心なのはピエロ側からの条件、つまり奇怪だった。


「どうやら以上のようだな。スカイ、お前からの要望は分かった。じゃあ、今度は奇術師からの楽しいお返しだ。んー、さてどうしようかな。そうだ、スカイお前、随分と良いニックネームがあったな。なんて言ったかな、ピーピーお腹がなる魔法使いだったか? 」

ビービー魔法使いのことだが、ピエロは分かって言っているようだった。

話が進まないのを望まないスカイは丁寧に訂正してあげた。


「ニックネームじゃない。ただの嘲笑だ。ピーピーお腹が鳴る魔法使いじゃなくて、ビービー魔法使い魔法使いだ。知っているだろう。使い魔ってのは契約主のことは何でも知っていると書物で読んだぞ」

「すまないな。調子が良くてついな。お前魔力量が少なくて随分苦労しているそうだな。よし、ならば俺様がそこを更にえぐるとしてやろう。魔力弾を相手に当てた場合、威力は一割増だ。しかし、外した場合、その戦闘中、以降の消費魔力は一割増しだ。相手に魔力弾を消された場合もかわされたものとみなす。けけけけけ、どうだ、気に入ったか? これが奇術師からのお返しだ」

魔力量の少ないスカイにとって、魔力量を削られることは致命的だった。

外したら外しただけ消費魔力は増えていく。雪だるま式に。

魔力弾は消費魔力が微量だ。それでも積み重なれば大きなものになる。しかも問題は、他の魔法への影響も出てくる。魔力波や、魔力渦なんかはモロに少ない魔力量にのしかかる。


高笑いして飛び話回るピエロに対して、黙り込んで真剣に考えこむスカイ。

そして不敵な笑みを浮かべた。

「上等だ。嫌なところをつつきやがって。当ててやるぞ。俺の魔力弾は全てな! 」

「けけけ、じゃあトリックメーカー構築完了だ。『当てても外しても』をトリックメーカーの一覧に、そしてお前の魔力弾に使い魔影響を反映しといてやるよ。じゃあな、またなんかあったらよんでくれよ」

おっさん声で笑い声をあげながら、奇術師は使い魔の空間へと帰っていった。


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