表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/88

十六話 入会

連れていかれたのは生徒会室。


大きなテーブルが部屋の中心にあり、壁に一枚の絵が飾られたシンプルな部屋だった。

テーブルの側に置かれた椅子に隣り合わせで座った生徒会長と副会長。

スルンはスカイにも好きな席に座るようにと着席を薦めた。


三人が席に着くと、スルンは話に入る。

「早速で悪いのだが、君に重要な提案がある」

「そんなに畏まらなくてもいいですよ。俺はまだ入学したての1年生だ」

それにビービー魔法使い、こちらは言わないでおいた。


「そうかい? なら気楽に行かせて貰おうか。君、生徒会に入ってみないかい? 」

「生徒会に? 」

「そうだよ。今年の新入生には3席与えられている。そのうちの一つを君に薦めたい」

スカイは生徒会について知っていることを振り返る。


まず一つ印象的なのは、突出した学内での権力。

専用で使える教室や、経費を与えられていることなども。

許可のない魔法の使用が罰せられる生徒規則も、生徒会に所属する者には適用されなかったりと優遇されている。

他に思い当たるのは、何やら相当高貴な家柄でないと所属できない事などをスカイは思い出した。それが入学式で伝えられた内容だった。

本当はもっと細かく決まっているのだが、スカイが思い出した点だけで大事なポイントは押さえられている。


「生徒会の一員といえば、学校内の花形だ。悪いけど、そんな目立つようなところに所属するつもりはない」

「君はもう既に目立っているだろう? 」

スカイがビービー魔法使いだということは、調べがついているみたいだった。本当のところは調べるまでもなく学校中の生徒が知っていることなのだが。


「だからですよ。これ以上悪目立ちしたくない。この学校で3年間無事に通って卒業すれば、俺は晴れて実家からの束縛から脱却できるばかりか、領地の一部も貰える。あえて目立つようなポジションに立ち、ここでの生活に波を立てたくないんだ」

「君の実家はヴィンセント家だよね? 領地の一部を貰えるだって? それはおかしいな。私が知る限り、領地の相続は10年後に次男スール・ヴィンセントのもとに全て行くよう、王家に届けが出されているはずだよ。おやや? 何かの手違いだったのかな? 」

スカイには全く聞き覚えのない情報だった。

確かに思い返せば、自分と父親の約束は口約束のものでしかない。反故にしようと思えばいくらでもやりようはあるだろう。

相手はビービー魔法使いの三男坊である。世間的な同情も買えないことちらとしては不利極まりない。

スカイはカーっと頭に血が上るのを実感した。

今すぐ立ち上がり、実家の父親を殴りに行こうかとも思ったほどだ。


「落ち着きなよ」

スカイの怒気を感じてスルンが優しく声を掛けた。

生徒会長の優しい声に、スカイは徐々にだが冷静さを取り戻した。

「……ふう、ありがとうございます。もう冷静ですよ。情報をありがとうございます。ならば、なおのこと俺は生徒会には入らない。それどころか、この学校生活ともおさらばです」

「領地を引き継げないからかい? 」

「その通りです。もう通うメリットがない」

「他の生きる道を探すんだね。それはいいけど、ヴィンセント家の力を舐めていないかな? 君は」

生徒会長の放つ異様な気に、スカイはもう少しだけ話を聞いてみようという気にさせられた。


「次男スールに何かあったときの為に君はここに通わされているんだ。いわば保険。君がここをやめてしまえば、貴族としての箔がゼロになってしまう。それはつまり、次男に何かあったときにヴィンセント家は後継者探しに支障が生じてしまう。君が勝手にここをやめてしまえば、ヴィンセント家当主はさぞや怒ることだろうね」

「怒ればいいさ。俺の邪魔をするというのなら戦ってもいい」

スカイは自分の杖に触れながら、自身に満ち溢れた顔で言い放った。


「冒険者ギルドで好きに生きるか。それもと商人でもやるのかい? とにかく、怒りに火がついた伯爵家の恐ろしさというやつをもっと想像したほうがいい。もしかしたら、君は一生実家と醜い戦いを強いられることになるかもよ。静かな生活を望む君の夢とは真反対の結果だ」

そこまでのものになるとは思えないが、生徒会長の脅しには少なからず現実味があった。


「だから学校には残れと? 」

「そうだよ。そして生徒会にも入るのなら、君が欲しがるものは全て私が用意しよう。金、領地、可愛い女の子。どれでも用意しよう。公爵家イストワールの名に誓う」

イストワールの名に聞き覚えがあったスカイだったが、そうかと今更思い出す。イストワール家とは巨大なナッシャー王国にある三つの公爵家のうちの一つである。伯爵家のヴィンセント家も世間から見れば膨大な権力を所持した恐ろしい一家なのだが、そのヴィンセント家から見てもイストワール家というのは恐ろしいほど力を持った家だった。


「あんたのもどうせ口約束かもしれない」

「後で書類を作ってあげよう」

「……書類ですらあんたの家なら無効にできそうだけどな」

「そこは信頼して貰うしかない。それに、生徒会に入ればいいことずくめだよ。本来、私に入会を誘われて断るなんて言う選択は普通の生徒にはないんだよ」

なぜならば、と続けて生徒会のメリットを述べる。


「在学時にはあらゆる特権が与えられるばかりか、個別の予算も組まれるほどの待遇。学校に不満があれば、意見を学校側に出しても構わない。それもかなりの確率で採用されている実績がある。更には、卒業後の道も明るい。この学校を卒業した多くの生徒が、政界、軍、研究施設などの重要ポストに就くことになる。ビービー魔法使いの君にはいろいろ閉ざされていた可能性が、生徒会に入るだけで開けてくるんだ。全くといって、デメリットはないと思うのだがね」

「そんな訳ないでしょう。デメリットは在学時に払わされるに決まっている。俺に何をやらせるつもりなんですか? 」

スカイが若干だが、生徒会に興味を持ったことに気が付いたスルンだった。

ここが勝負どころだと決めて、彼女は立ち上がってスカイの側までよって続きを聞かせる。


「君にはデメリットにもならないことだよ。君にやって欲しい仕事はただ一つ。今日の様に、君の不思議な魔法で生徒を制圧して欲しいだよ」

「制圧なんて、穏やかじゃないですね」

「もちろん穏やかじゃないよ。この学校がね。昨年魔法を使った暴力行為が生徒会に訴えられた件数、実に59件。私が生徒会長になってこれでも激減したんだよ? 生徒会に訴えられていない件も含めると3桁には登る暴力行為があると推測される。君も見ただろう? この学校は社会の縮図だよ。貴族がつるんで力のない平民をいたぶる。君はあの光景が醜いから、己の力を行使して阻止しようとしたんじゃないのかい? 」

そんなにあるのかとスカイは驚いた。

届けがないものも確かにあるだろうと理解できる。先日バランガとの一件もスカイは届け出ていない。まあ、ボコボコに叩きのめした側だったからだけど。


「あれはほんの気まぐれだ。俺の中にそんな熱い正義感なんてない」

「そうは思えないな。気まぐれってのは案外無視できない。君の本質がそう行動させたのかもしれないよ」

「そうかな? 俺はそうは思わない」

「私はそう思うよ。是非、生徒会に来てよ。力あるものこそが、力を振るうことができる場所にいるべきだ。生徒会は君の力を存分に発揮させられる場所だと思うよ」

「ビービー魔法使いに何を期待しているんですか」

「君が強いことはもう割れているんだけどなぁ……。学校内で最強の呼び声高いレンギアが、君の魔法を見破れなかったんだよ? それで十分じゃないかい? 」

副会長のレンギアが会長の後方でうんうんと頷いて同意していた。


副会長が相当な実力者だということはスカイも気が付いていた。

機会があれば一度戦ってみたいととも考えた。

しかし、今はそんなことを考えているときではない。


実家の父親に出し抜かれて、会長が新しい道を示してくれた。

どっちを取るべきか。自分で行くか……。しばらく生徒会とやらに付き合うか……。


「可愛い女の子も好き放題用意してくれるんですか? 」

「おや? 君はそこに興味があったのか。意外だ」

「どうなんですか? 」

「スレンダー。巨乳。可愛い系。良妻賢母系。なんでもござれ。イストワール家の人脈を舐めて貰っちゃこまるよ」

「ふーん。全く、すごいな。けど、やっぱりいいや。生徒会には入るよ。飽きたら抜けるかもな」

「おやっ、それは素晴らしい回答だよ。可愛い彼女が欲しくなったらいつでも相談してね。君が生徒会に入れば戦力増大は間違いない。君の将来も明るくなり、ウィンウィンじゃないか」

生徒会入会を歓迎して生徒会長がスカイに抱き着いた。

それを必死に剥がして、スカイは飽きたらぬけること旨を再度繰り返した。

それでもいいと生徒会長はまた嬉しそうに引っ付いた。


「しかも、君は平民の生徒に人気が出そうだ」

「そんな気はしないですけどね」

「なにやら食堂は平民専用のを使用しているそうじゃないか。やっぱり平民の味方なのかな? 」

「あれは金がないだけ」

まだ引っ付いてくる生徒会長を引きはがして、スカイは生徒会室を後にした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 伯爵家の力を舐めているとありますが、他国にまで手を出して問題ないほどなのかが分からないです。敵対しないに越したことはないですが、メリットが無くなったのですから父親に直談判しに行ってもお…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ