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十四話 またあの男が来た

高等魔法学院の特徴として、やたら土地が広いという点がある。校舎も土地の大きさに比例して大きく建設されており、校舎裏といっても一体どこのことを指すのか具体的に言って貰わないとなかなかたどり着けない。

なので、スカイは探しまわった挙句、大遅刻して校舎裏で待ち受けるバランガ・レース一向に遭遇した。


「てめー! 今すぐに来いって言ったよな! 」

大声をあげて怒りを示すバランガ。

「ちゃんと具体的にポイントを指定しろや! 」

一時間探しまわったスカイ側も若干の苛立ちを覚えていた。


「ビービー魔法使いのくせに生意気な口答えを。5年ぶりに会うというのに、相変わらず不快な奴だ」

「5年ぶりだ? こっちはお前なんか知らんぞ」

名前のどこか馴染みがある気がしていたが、実際に会ってみてやっぱり目の前の男を知らないと結論付けた。取り巻きたちも知らない顔だ。もちろん普段から取り巻きなんて見ちゃいない。こういった呼び出され方をするとき、大抵相手は複数だ。頭を仕留めてやれば取り巻きなどすぐに散っていくので、覚えているのは中心人物だけ。貴族の会合で絡まれた回数は数十回にも及ぶ。5年前となれば、覚えていないのも無理はなかった。


「知らないだと? このバランガ・レースを知らないだと! 許せん! この顎を見ろ! 貴様から受けた魔法で顎が曲がりしゃくれたんだぞ」

5年前、スカイを呼び出して水の性質、上級魔法ウォーターウェーブを食らわせようとして反撃を食らったときのことを言っているが、スカイは覚えていない。

「お前のことは知らないが、レース家はなんとなく知っている。レース家は代々しゃくれの家系だろ」

どうやら図星だったようで、取り巻きの一人がくすっと笑いを漏らした。バランガに怒りの鉄拳をくらって取り巻きAは涙目でスカイを睨んだ。バランガが殴ったというのに、スカイに非があるかのような睨み方だった。


「どこまでも失礼なやつだ。しかし、調子に乗っていられるのも今のうちだ。俺はこの5年で憎しみを力にして死ぬほど厳しい特訓を経てきたんだ。もう貴様のインチキな魔法などに遅れはとらん」

インチキな魔法とは、5年前に打たれた魔力弾のことである。実際なんの魔法が使われたかバランガはわかっておらず、しかしビービー魔法使いが自分より強い魔法を使ったことはあり得ないとして、インチキをしたと結論付けた。


あれから何度も仕返しをしようと試みたのだが、機会に恵まれず高等魔法学院のこの場まで持ち越していた。


「くははは、入学早々悪いな。お前はしばらくベッドから起き上がることもできなくなる体になる。安心しろ、ここにるこいつらは加勢しない。こいつらは証人になってくれるだけだ。お前から殴りかかって来たため、仕方なく俺が反撃したとな」

学校内での暴力行為もしくは許可なく魔法での戦闘を行った場合、厳しい処罰が待っている。

しかし、バランガはそこのところ抜かりがなく、取り巻きを偽の承認にしようと決めていた。そこのところはスカイも抜かりがなく、扉の前にあった置手紙をきちんと回収することで証拠を残していた。双方準備よしな状態でこの場に臨んでいる。


「なあビービー魔法使い。俺のことを覚えていなくても、噂を聞いたことはないか? 魔力量10000越えを期待されたレース家長男の話を」

「知らんな」

実際魔力総量の話など7歳の頃から一切興味はなかったから仕方がない。

「どこまでも腹の立つやつだ。いいだろう、教えてやる。15歳を迎えた今年、俺の魔力総量は実に12000に到達した! 使用可能魔法は56種類にもおよび、性質は優秀な水。どうだ、この驚異的な数値! 圧倒的だろう! 」

「今年の首席入学は魔力総量28000って言ってなかったか? 全然大したことないじゃん」

「ぐはっ……!? 」

気にしているところを突かれてしまい、バランガは少しのけぞった。


今年の高等魔法学院は優秀な生徒に恵まれたことで世間では話題になっていた。

例年であれば魔力総量10000を超える生徒が一人でも出れば大当たりだというのに、今年にがぎって10000越えが4人もいた。黄金世代との呼び声も出てくる。しかも首席入学のアエリッテ・タンガロイに至っては歴代最高の魔力総量を誇る。魔力総量12000を誇るバランガの存在が霞むのも無理はなかった。


その点を、見下している存在のスカイに言われてしまったので、バランガの怒りはとうとう絶頂に至った。

「ビービーが、魔力総量が1000にも到達しないやつが、この俺の魔力総量を笑うか! 」

「笑ってはないだろ。ただ俺はお前ほど魔力総量ってやつを重要視していないだけだ」

「その態度が腹立つんだよ。決めた、今日は杖を使うつもりはなかったが、やはり使うことにする」

杖はまずいと窘めた取り巻きはまたもバランガに殴られていた。


「天才である俺は杖との親和性が高い。全ての魔法に対して1.3倍の威力底上げが行われる。もともと病院送りにするつもりだったが、1.3倍ほど多くお前の体にダメージが乗ることになった。お前のその態度が招いた結果だぜ? せいぜいベッドの上で悔みな! 」

バランガは言い終わると同時に、側に浮かせていた杖を握る。

彼の杖は三叉の槍だった。金色に光っており、全てが純金で作られている。レース家の財力の高さがうかがい知れるものだった。

三叉の槍に水の性質、どこかの水の神様でもイメージしているのかとスカイは考えた。

そういう杖の選び方もあるのかと学び、スカイも杖を手にした。

一応相手より後に杖を握ったという、スカイなりの言い訳材料だった。

誰が見ている訳でもないが、そこのところはしっかりしておこうと先日からシミュレーションしておいたのだ。


「なんだ、その安っぽい杖は。ちゃんと威力の底上げをしてくれるのか? 」

「お前の趣味の悪い杖より何倍もしっかりした杖だ」

「趣味が悪いだと? 黄金こそが権力。黄金こそが力。黄金こそが至上だ」

「お前みたいなやつには似合わないって言ってんだよ」

どこまでも言い合いが続くことにスカイは飽き飽きしてきた頃だった。自分からは仕掛けないと決めているので、早く魔法を使ってこいと思っているくらいだ。

こいつを倒して、食堂で夕食を摂りたい時間帯だ。


「もう後には戻れんぞ」

「戻らなくていいから、早く」

「お前は何もわかっていない。5年前は確かにドジをした。使える魔法の種類も少なく、実戦経験も乏しかった。しかし、5年で俺は若輩を卒業した。対人戦において、いきなり上級魔法を放つのは悪手も悪手。まずは初級魔法でけん制し、隙を伺い中級魔法で機動性を奪う。そこに上級魔法を重ねて仕留める。悪いがお前に勝ち目はない」

「悪くないから早く。腹が減って来た」


もう言葉は必要ない、と言い残してバランガは三叉をスカイに向ける。

物理戦闘でも使えそうだったが、そこは杖を介してちゃんと詠唱を始めたバランガだった。


水の性質、初級魔法水連弾。

魔法の詠唱開始と同時にスカイはそれを見破った。

水連弾は詠唱時間が1秒。威力の低い水の弾が10発飛んでくる。有言通り初級魔法でけん制し、それをかわしている間に中級魔法で機動性を奪う作戦が見て取れた。

しかし、隙だらけの詠唱時間をわざわざ待ってやるほどスカイは優しくない。相手の魔力変換速度はわからないが、少なくとも1秒の間はある。


相手の詠唱に合わせて、スカイは魔力弾を2発撃ち返した。顎と、股間に向けて一発ずつ。


ガッガッと鈍い音がして、魔力弾は2発とも命中する。

急所に2発の高威力魔力弾をくらい、バランガは泡を吹いてその場に倒れた。意識を手放したようだった。


バランガはまたも避けられなかった。

5年前は反撃を予想してなかった。今回は、まさか初級魔法のスピードで、上を取られると思っていなかった。わずかに魔力弾を視界でとらえた時はすでに手遅れで、かわすことも叶わずもろに食らうこととなり、前回同様の結末を迎えた。


なんとなくバランガとの5年前のひと悶着を思い出してきたスカイは、啞然としている取り巻きに向けて言葉を残した。

「まだまだ遅すぎだろ」

正当防衛のいい訳をどうしようと考えながら、スカイはその場を後にした。


誰も見ていないはずだった、貴族による陰湿なリンチとその撃退劇。

実は一人だけ見ている人物がいた。始めは助けに入ろうとも思っていたのだが、一人側の生徒に体術の心得があると見破ってどうにかなるのではと思って様子を見守っていたのだ。案の定勝負にもならずに、一人側が勝ってしまった。

校舎の上から見下ろして、いいものを見たと笑う一人の男。

急いで報告しなくては、と彼は生徒会長のもとへと走った。





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