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ゲートについて

「え~っと、俺の世界の常識から信じがたいんだけど、リーゼが言っている事は正しいと前提して、その……枯れ葉とかは何処へ行くの?」

「ゲートですけど……」

「え?」

「所持者の無い物は一定時間経過した後、消失します。その消失した物はゲートの中で見つかることがあるんですよ」

「えっとー……つまり持ち主のいない物は消える?」

「敷地に所有権設定があって、持ち主が所有物と設定していない場合、大体そうなります。もちろん、それ以外の範囲での自然物は管轄外ですが」

「家とかは?」

「長いこと持ち主がいないと風化するよりも早く消失しますね。植物型の家なら別ですが」


 つまり、大地とか川、海、空とか自然物以外の物は一定時間すると消えてゲートへ行くという法則がこの世界にある。

 うん。凄い法則だ。

 枯れ葉と木の違いまでは良くわからないけど、清潔感はあるみたいだな……。


「もちろん、枯れ葉の掃除が面倒と言う事で範囲を決めてゲートに飛ぶように設定しているのですけどね」


 思い出せば、食堂で食事を終えたみんなは皿の上に食べ残しを置いて行った。

 だけどいつの間にか掃除されて、皿だけになっていた事がある。

 皿は持ち主がいるから残っているのか。


「この世界では皆さん、無意識に魔法を使っているんですよ。所持の魔法と呼ばれています。もちろん、意識して使う事も出来ますけどね」

「ゲートに物を取られないようにする為?」

「はい。その代わりに要らないと権利を放棄すれば、アッサリと物を消すことが出来ます」


 便利だな。

 だからか。整頓の常識はあっても掃除の常識が無頓着だなと思ったのは。

 基準はよくわからないけれど、水とかは消えないらしい。

 でもそれ以外の、無機物は所持者がいないと喪失するように出来ると……。


「人工物程よく消えると言われています」

「自然物は残るのが当然なんだよね?」

「はい」


 厄介な法則があるなぁ。

 どうも掴みづらいけど。


「だからゲートでは失われた物が見つかることがあるんですよ」


 なるほど。

 冒険者が一攫千金を狙う意味がわかったぞ。

 志半ばで倒れた者の有名な武具とかが見つかるかもしれないし、誰かが落としたまま、隠したまま所持者が死んだ宝が見つかるかもしれないんだ。


 ゲートって世界のゴミ箱であると同時に宝の山なのね。

 ワールドダスト。なんちゃって。


 となると、長い年月で資料が失われてしまったのもわかる。

 不慮の事故で失った持ち主のいない書物は後を引き継ぐ手続きが面倒臭いから自然と消え去ってゲートの先へ行ってしまう。

 だから後の者が見つけることが困難になる。


「なんとなくわかったよ。つまり資料が失われていて難航してるんだね」

「ええ、申し訳ありません。大きな図書館へ手紙を出したのですが……失われた物である可能性が高いそうです」

「ううん。ここまで良くしてくれているんだもの」


 リーゼ達は俺の命の恩人なんだ。

 元々そこまで必死に帰りたいと思う程、元の世界に未練も無いし。


「いいえ! 絶対に、帰る手段を見つけて見せますからセイジさんは待っていてください」

「あの……気にしないで良いんだけど」


 リーゼがやる気を見せていて、研究しているだけなんだよね。

 とはいえ……段々と俺はやることが無くて暇を持て余しているのも事実だった。

 何か職業に付くのか簡単だけど、出来れば俺はリーゼ達の力になりたいと思った。

 だから、俺はリーゼにこう告げた。


「ねえ、リーゼ」

「はい。なんですか?」

「俺は使い魔なんだし、リーゼの為、学園の為に、ゲートに資料を探しに行ってみたいんだけど」


 前々から思っていた事だった。

 ゲートには宝が眠っている。

 それはリーゼ達の研究に一躍買ってくれる物も多い。

 ならば俺が出来る仕事はゲートへ赴いて、持ってくる事なんじゃないか?


 危険は承知だ。

 話によると危険な魔物が出るらしいし、命の保証は無い。

 これ以外の仕事も無い訳じゃないけど、一番みんなの為に出来そうなのはこれしかないと思った。

 仕方なく与えられた仕事では無く、俺が何か出来るのか探したい。


「危ないからダメです!」


 と、俺は今までで見たことが無いくらい怖い形相でリーゼに怒られた。


「え……」

「セイジさんにそんな危険な事をさせる為に私は親切にしてる訳じゃないです!」


 うわ……こんなリーゼの顔見た事がない。

 泣いてるとも怒っているとも取れる顔をしている。


「その……」

「とにかく、ダメですよ! 死んだらどうするんですか!」


 死ぬ前提!?

 リーゼの中で俺ってどんだけ信用ないんだろう。


「だけど……」

「絶対にダメ」


 で、リーゼは俺との会話を切りあげて部屋から出て行ってしまった。



 あれから二日……リーゼが怒って、ゲート行きを許可してくれない。

 本人曰く、俺にそんな真似をさせる為に親切にしている訳ではない、というのが理由だ。

 これでは、元の世界に帰るか、この世界でヒモになるかを選ばされているみたいだ。


 いやいや、出来ればみんなの為に何かをしたい。

 ヒモニートはちょっと抵抗があるよ。

 だからリーゼに隠れて、学生達にゲートについて尋ねたり、戦う方法を聞いてみた。

 リーゼ以外で、一番話をするロザリーにも聞いた。


「ねえ、ゲートの先にある迷宮ってどんな場所なんだ?」

「何? セイジはゲートに興味があるの?」

「まあ、リーゼ達が調べている、元の世界に帰る為の資料が眠っているのなら……ね」

「そうね。私もただ待っているだけよりは自分で動くから気持ちはわかるわ」


 ロザリーは俺の答えに納得して色々と教えてくれた。


「迷宮ってのは前にセイジがなんとなく理解していたからわかると思うけど、危険な魔物がひしめく場所ね」

「うん」


 やっぱりそうなのか。

 まあ異世界で迷宮って位だし、いてもおかしくはない。

 そうでなければリーゼがあれだけ反対する理由もないだろうし。

 少なくともそれなりに危険な場所なのは確実だ。


「宝も割と無造作に置かれていたり、場所によっては本棚とかもあって、そういう所にお目当ての資料はあるかな」

「へー……いろんな法則があるんだ?」

「まあね。私達は使い魔に行かせて遠隔操作するんだけどさ」

「遠隔操作?」

「そう、使い魔ってのは召喚者と視界や聴覚で繋がっていて、ある程度は指示を出せるのよ。まあそれも意識してないと見えないし、ゲート内だと通信途絶とかする可能性があるから一概に言えないけど」


 ……背筋が凍りついた。

 なんでか?

 つまり俺が今、見聞きしている事がリーゼに筒抜けになっているかもしれない訳で。


「……セイジさん?」

「う……」


 振り返ると怒った顔のリーゼが俺に近寄ってくる瞬間だった。


「ダメですよ。ゲートの事を調べて勝手に行く気じゃないですよね?」

「あれ? リーゼはセイジがゲートに行くのは反対なんだ?」

「当たり前です。私はその為にセイジさんを使役するつもりはありません」


 リーゼの真心は理解できない訳じゃないんだ。

 だけど、こう……学園の手伝いで居るのは正直に言えば心苦しい。

 雑務も大したことしないし、掃除とかも自主的に生徒がするもので俺ができる事はタカが知れている。

 むしろ俺の為に雑務を用意してくれている空気が苦しい。


「頭固いわねー。私はセイジの考えは理解できるわよ」

「ロザリーまで! セイジさんが死んだらどうするんですか!」


 いや、ゲートに行く=死ぬはちょっと……。

 もしかしたら俺が考える以上に厳しい場所なのかもしれないけどさ。


「それにいくら使い魔の力を使って見聞きする事が出来ると言っても、セイジにして良いの?」


 盗聴=犯罪です。

 と、ロザリーが注意している。

 うん。俺も思った。

 けどそれも俺の心配をする為だから俺は強くは出られない。


「う……」

「いくらなんでも過保護すぎるんじゃないかしら?」

「そ、それは、何を話しているのか興味を持って、聞き耳を立てていたような物ですよ」


 なんか凄い言い訳を始めたぞ。

 まったく意味が変わってない。


「似たようなものじゃない。安易に使っちゃダメでしょ。せめてセイジの了承は得るべきよ」

「それは……そうなんですけど……ゲートの事を調べようと思っているんじゃないかと心配になって……」

「死ぬと決まった訳じゃないでしょ。それに、ただ帰る手段を胡坐をして待っているよりは前向きな発想だと思うわ」

「そんなのはセイジさん以外の使い魔や冒険者の方々に頼めば良いんです」

「それで見つかったら苦労しないわよ。確かに私達は安全の為に使い魔を使うけど、自分達で乗り込む事も出来るじゃない。それは何のため?」


 ロザリーは俺を代弁してリーゼを説得してくれている。

 正直、かなり助かる。

 そりゃあ俺自身、ゲートを舐めているのは承知だ。

 だけど、少しでも力になりたいと言うのは本心なんだ。


「ロザリーまでセイジさんの味方をするんですか?」

「するに決まってるでしょ。ここはゲートの研究をしているドラーク学園よ?」

「はぁ……もう良いです。セイジさん、ゲートになんて挑まなくたって、仕事は見つかりますよ」

「そうだけどさ」

「あんまりゲートにばかり固執しないでこの世界をもう少し見る方が良いかもしれませんね」


 ん? リーゼは何を考えているんだ?


「ちょっと所用で隣町に出かける事になりましたから一緒に行きましょう」

「お? 何かあるの?」

「資料を探しに行くのと、ちょっとした気分転換です」

「じゃあ私も行って良い?」


 ロザリーの言葉にリーゼは疑いの目を向けつつ、ため息交じりに頷く。


「……わかりました。いざって時にロザリーもいた方が対処しやすくなりますものね」

「ああ、セイジが思った事が出来ず窮屈だから逃げる! とかしたら捕まえられる様にって事?」


 そんな疑いまで俺には掛けられてるの!?

 土地勘も無い、知らない場所から逃げるなんて無謀な事はしないぞ。


「違います! なんでセイジさんが逃げるんですか」

「ありえない話じゃないわよー? リーゼが束縛するから自由を求めて旅立っちゃうかもよ」


 いやいや、さすがにそこまでは考えて無いって。

 確かに好奇心はあるけど。


「え?」


 リーゼが俺に対して、震える子犬みたいな目で見てくる。

 お願いだ……その目はやめてくれ。

 助けてもらって衣食住の提供をしてもらって、親切にされた揚句、色々とこの世界の事を教えてくれた君を裏切る様な事は考えていない。


「だ、大丈夫だから! 逃げる事は無いって!」

「そ、そうですか……」

「まあ良いわ。じゃあさっそく、隣町に行くわよ」

「ええ」


 そんな訳で俺達は隣町へと出かける事になった。


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