四つの弱点
「バーンフレイム!」
ブラウンキマイラの足元にバーンフレイムを放って火柱を上げる。
が、特に大きなダメージが入った様子は無い。
効果は薄いか。
「そうだ、弱点!」
アナライズリングでブラウンキマイラの解析をしようと思うが……表示されない。
ああ、リーゼがしてくれないと無理か。
「リーゼ! お願い!」
『あ、はい』
ブラウンキマイラの猛攻を避けつつリーゼに頼む。
く……リーゼ達の動きが遅い。これが★の差なのか。
「ムウウウウ!」
ブウンとフェーリカの声と共に俺に向けて青銅の盾が投げつけられる。
助かった!
フェーリカは現在、★2相当。
この中では一番的確に動く。
青銅の盾で俺はブラウンキマイラのツメを受け止め、反撃に投じる。
「おりゃああああああ!」
バッシュを放とうとした瞬間、ブラウンキマイラはサイドステップの後に大きく跳躍して俺の背後に回り込む。
毎度毎度俺がやっていたら真似くらいして来るか。
「ウッドシールド!」
先ほどのフィールドで見つけたスクロールが役立つ。
ガツンと一瞬だけど、ブラウンキマイラのツメを受け止めて魔法で作りだされた盾が崩れさる。
その一瞬さえあれば俺は体勢を立て直せる。
「なかなか考えているもんだ」
あの時とは色々と違うし、俺も大分強くなったと思ったけれど、ここまで強くなって尚、ブラウンキマイラは驚異的な敵として俺の目の前に君臨している。
「おりゃああ!」
合成剣でフェイントを交えながら斬りつける事で辛うじて前足に命中。
ズルっと言う確かな手ごたえが剣に伝わったのだけど。
「ギャアアアアアオオオン!」
ブラウンキマイラの前足が僅かに出血するだけ、強靭な皮膚に遮られて皮一枚を切ったに過ぎないようだ。
炎の加護によって肉を焼く事は出来た様だけど、決定打に成りきれない。
「ガアアア!」
「おっと!」
ブラウンキマイラの噛みつきを避けると、即座に山羊の頭が頭突きを放ってきた。
盾で受け止めると、同時にツメで斬りつけようとしてくる。
「うお!」
咄嗟に合成剣でガードしたのだけど、衝撃で合成剣が手から離れて飛んで行く。
攻撃の手段が無くなっただろうとブラウンキマイラが俺に笑みを浮かべたので、腰からチェーンロッドを取り出して持ちかえる。
重歩兵のアビリティには鈍器マスタリーがある。
むしろこっちの方が扱いやすい。
「はぁ……はぁ……簡単に俺を倒せると、思うなよ!」
息切れしそうになるのをどうにか抑えて、俺はブラウンキマイラを睨みつける。
『解析完了しました! セイジさん!』
やっとか。リーゼの解析をこんなに遅く感じるなんて……ほんと、★の差って大きい。
ブラウンキマイラと交戦する前に解析しておきたかった。
で、俺は交戦中に解析によって浮き彫りになったブラウンキマイラの弱点箇所を確認する。
「なんだ!?」
思わず声を出したくもなる。
まずブラウンキマイラの弱点箇所。
生物としての弱点は言うまでも無く……脳と心臓、臓器関連だけど、その部位を守るかのように強固な骨と分厚い毛皮の所為で、マーカー部分が暗めの色合いをしている。
さすがは上位の魔物扱いって事だろう。
命中すればダメージが確かに入るのだろう。
ただ、どちらにしても決定打を与えるには少し厳しいか。
上手く攻撃が入れば毛皮を貫く事は出来そうではある。
だけど早すぎて力を入れて狙うのが難しい。
次がコアのある場所。
解析の結果、コアの破損率は20%……だ。
で、問題なのだが、ブラウンキマイラの奴コアが四つもある。
これは倒した場合、四つのコアが手に入るのだろうか?
いや……完全に暗くなった箇所に尻尾の蛇があった。
蛇の頭の部分にあったようなのだけど……、砕けたコアが腹部に収納されて、分解されている様な表現がある。
斬られた尻尾を食ったな。
中途半端に腹部で機能しているっぽい。
他、獅子の頭に一個、山羊の頭に一個……胸、俺が突き刺した槍の僅か先に一個で計四個だ。
四個だったと言うべきか。
ともかく、コアをこれ以上傷つけずに仕留めるなんて、させてくれる相手じゃない。
アレから二週間近く時間が経過している。
あの時とは見違えるほど俺は強くなったし、この世界、ゲートの法則を掴んできた。
その知識を総動員して相手をすべき事なのはわかっている。
「ガアアアアアアアアアア!」
「おりゃああ!」
チェーンロッドでブラウンキマイラの振りかぶるツメを弾きながら山羊の頭と胸目掛けてパワースイングを放つ。
もちろん、当たる事なんて視野に入れていない。
避けさせる事を前提だ。
横にステップした瞬間、俺は盾を持つ手に隠し持ったスクロールで魔法を放つ。
「スノーウォール!」
「ガ!?」
避けようとした先に突如雪の壁が出現してブラウンキマイラは壁を突き破る形で転倒。
「今だ!」
胸に突き刺さった槍の柄の先目掛けてパワースイングを放つ。
ちょうどピックの後ろを叩いて、更に深く突き刺す要領だ!
槍がガツッと勢いを付けて深々と突き刺さる。
バキンと言う音と共に胸にあったコアが砕け散る。
「ガウアアアアアア!?」
ブラウンキマイラが痛みで悶絶する声が響き渡る。
しかし、その痛みで戦闘を放棄するはずも無く、即座にブラウンキマイラは体勢を立て直さんと起き上がる。
解析の結果、胸にあったコアが砕けた事で損傷率が40%まで上昇。
体力も6割まで減っている。
良い傾向だ。
後は獅子と山羊の頭を重点的に狙うのが効果的か。
狙うべき場所が分かっていると、そこの防御が緩い様な気がして来る。
「ガアアア!」
「まだまだ!」
ツメが邪魔で獅子の頭を狙う事が出来なかったので山羊の頭、動きまわっているが、法則があるし、見切ったのでタイミング良く山羊の頭の眉間にチェーンロッドをバッシュを放つ事を意識して振りおろす。
ゴツっと硬い手ごたえ。
やはり頭蓋骨にコアが守られてダメージが入らないか……そう思った直後。
僅かにバキンと言う音が響く。
「ガ――アアアアアアアアア!」
ぶちぎれたブラウンキマイラが獰猛にツメを振りかぶって俺を薙ぎ払おうとしてきたので、飛びのいて避ける。
く、起き上がられたか。
見るとコアの損傷率が47%まで上昇、体力が5割まで低下した。
どうやら、頭蓋骨に守られた箇所は斬撃とかよりも鈍器による衝撃の方が効果的な様だ。
山羊の頭のコアに僅かにヒビが入っている。
しかも山羊の頭の方は脳が揺さぶられているかのように目が回っていて、先ほどよりも勢いが無い。
視覚もわかる。
獅子の頭ほど、焦点が安定していない。
やれるか?
そう思った瞬間。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
大きく、ブラウンキマイラが雄たけびを上げる。
するとブラウンキマイラの周りに魔力が集まり、オーラとなって噴出した。
な、何をする気だ?
雄たけびを上げたブラウンキマイラは血走った目で俺を見据え、先ほどよりも早い速度で俺に接近して飛びかかって来る。
「うお!」
「ムウウ!」
合わせる様にフェーリカがブラウンキマイラに向かってボーラを投げつけ、ブラウンキマイラが僅かに足を取られてもつれるが、居も介さないとばかりに翼を使って方向修正して振りかぶって来る。
咄嗟にバックステップをしたのだけど、俺の居た場所が大きくくぼんでいた。
まともに受けていたらひとたまりも無かっただろう。
直後、羽ばたきで俺を吹き飛ばそうとしてくる。
今まで、翼を使って来なかったのは接近戦で仕留める事を前提に動いていたから……だろうな。
飛んでヒット&アウェイなんてするまでも無い相手だと思っていたか、それとも別の要因か。
更にボーラで足をからめ捕られるなんて思っていなかったんだろう。




