図書館
「魔法使い系のコアがあったら、こういう本を読めば使えるのかな?」
『ありえるかもしれないわよ。魔法習得のアビリティチップがあるし、古代文字を読み取るチップなんて高額で取引されてるのよ』
そうなるととんでもないお宝フィールドに到着したって事なんだろう。
とんだ宝物庫だな。
今の俺って物理系の職業だけど、魔法系の職業コアを探すのも良いかもしれない。
『とにかく、少しでも多く調べて……持ち帰るべき本を選んで行きましょう』
「オイルタイマーの使用は出来そうにないけど……脱出可能な場所の確保も視野に入れるべきだね」
ボスを倒すのも良いけど、今はどれだけの資料を持ち帰れるかが課題か。
『魔物の襲撃には十分注意してくださいね』
「もちろんだって。さ、フェーリカもレイオンと一緒に調べて」
「ムウ」
『了解!』
という訳で俺達は調査を始めた。
「あれ? これは俺も読める文字だ……今日の薬膳?」
なんか凄く古臭い本で、日本語の料理の本が混じっていた。
他にも漫画とか、小説まである。
けど、今の俺には不要な物だし……なんか俺の知る日本とは少し異なる様な気がする。
料理の本なのに常識っぽく何か、火のレイを使って、とか書かれてる。
少なくとも火のレイって技能が何なのか知らない。
調理器具なのか超能力とかなのかすらわからない。
というかゲートって本当に世界のゴミ箱だな。
いろんな世界のゴミが紛れているって事なんだと思う。
『えー……出来るランプ魔術……他者から美の吸収方法、永遠の美への第一歩……ないな』
『セイジ、今の本をもう一回』
ロザリーが先ほど、俺がチェックした本を催促する。
「却下」
『ええ、表紙の一文もそうですが、内容はこの世に残すべき物じゃないでしょう』
迷うことなく、本を地面に置いて合成剣で突き刺して炎の加護で炭に変換させる。
他者から美を吸収って……発想が危険すぎる。
吸われた相手はどうなるんだよ。
そう思いながら別の本を手に取る。
「うわ」
手に取った本が羽ばたいて襲いかかってきた。
ロイヤルパープルマジックブックと言う魔物だ。
チョウの様に本で羽ばたいて、閉じる時に牙を出して噛みつこうとしてくる。
「ムウ!?」
デコボコ合成剣で斬りつけるとアッサリと絶命する。
元が紙みたいだからそこまで強くないし、合成剣が炎属性だから相性が良いお陰で仕留められるな。
ちなみに手に取った瞬間に襲いかかって来るので、フェーリカ達が襲われる危険性は少ない。
これで開いた時に襲ってくるだったら俺がいちいち開いてチェックしないといけなかったけどさ。
「クアアア……」
ゴジョが暇そうにあくびしている。
読めないし、チェックする意味はないもんな。
「しかし……キリがないな」
こんな本の中から俺が元の世界に帰る方法を探さないといけないのか?
一つの大きな棚をひっくり返して調べたけど、使えそうな本は魔法書が数冊だけだったぞ。
しかもロザリー曰く、未熟な者が読むと危なそうな文字が散見するらしいし。
今の俺達には荷が重すぎる場所に出ちゃったか?
うーん……リーゼには悪いけど、ここに辿り着いても見つけられるかどうか。
『そうですね。どれだけ滞在出来るかわかりませんし、宛ても無く調べるのも難しいかもしれませんね』
あ、さすがのリーゼもその辺りは察しているみたいだ。
「そもそもあいうえお順とかジャンル分けされている訳じゃないのが問題なんだ」
手に取って内容を確認するにしても、擦り切れてて開いて見ないとわからないのも多い。
更には魔物まで潜んでいるとなると……。
しかも延々と本棚が続くみたいだし、目的の本が見つかるかどうかわからない。
『図書館フィールドならば禁書のコーナーを探すのも手ですね。もしくは高度な魔法書をロザリーが感知するのも手です。インストール系の魔法書もついでに探せばセイジさんの役に立つかもしれません』
「何それ?」
『簡単に言えば、読めば誰でも魔法が簡単に使える様になる驚異の書物ね。私達基準だと、二級以上の深い階層で稀に見つかる事があるのよ。アビリティチップとも異なる便利な魔法や能力が授かるって言われてるわ』
「相当高そうだね」
『そりゃあね。一冊で三代くらい遊んで暮らせるわよ。それくらい伝説級の代物』
うわー……そんな物まであるのか。
『★が多いゲート内ならもっと高頻度で見つかるかもしれませんね』
期待したい所だけど、どちらにしても膨大な書庫の中で滞在できる時間が分からないにも関わらず探さないと行けないと言うのがな……。
「リーゼの言った禁書のコーナーってのを探してみるよ。さすがに元の世界に戻るなんて変わった物は特別な資料な気がするし」
『そうですね。ロザリーも魔力感知を使って整頓を出来ないかやって見てください。私もしますから』
『はいはーい。そうね。なんて言うか、ここには無い様な気がして来るしね』
先ほどから随分と調べていたけど、出てくる気が全然しない。
もう数時間は本棚を漁っていた気がする。
リーゼの方を確認すると……うん。結構時間が経過しているのが分かるし。
今のままじゃ良くない。
「ムウ?」
フェーリカが行くの? って顔して本を棚に戻す。
「ある程度探索をしてから物色を再開しよう」
「ムウ!」
「クア」
そんな訳でオイルタイマーでゲートのチェックや落ちてる物、リーゼとロザリーの感知を目当てに移動を開始した。
で、移動をしていると魔物と遭遇する。
モスグリーンジェリーと言うスライムの魔物とバトルシップグレイノームと言う精霊の魔物だ。
もちろん、ロイヤルパープルマジックブックも時々羽ばたいて見かける。
何処までも続く薄暗い図書館みたいな所で遭遇する魔物と言うのも結構不気味だ。
どれも合成剣の炎の加護のお陰で割と余裕に戦えている。
属性って馬鹿に出来ないな。
落ちてる物もスクロール系が多い。
ヒールとかシャイニングとか今まで見つけたスクロールが一式見つかるくらいだ。
本とかも無造作に落ちているし……。
「本ってのも武器になりそうだね」
『分厚い本の角で叩いたら、凶器に出来そうね』
ロザリーが俺の言葉に率直に返してきた。
まあ……良いんだけどね。
『魔力の付与が強ければ確かに特別な種類の武器になりますね。ロザリーも悪ふざけしないでください』
『まあねー魔力と書物の中にある文字を調和させて、精霊体にさせて使い魔みたいに攻撃とか、聞いた事が無い訳じゃないわ』
「難しそうだね」
『そうですね……ロザリーなら強力な魔法書を媒体に出来るとは思います』
『セイジじゃ難しいんじゃないかな? まあ魔力感知で見つけたら教えるけどね。それこそコアで使いこなせる職業が出れば良いんじゃない?』
やっぱりそっちの発想になってしまうか。
付け焼刃的なコアに頼らないと行けないのは確かかもしれない。
それこそ、リーゼやロザリーにワンツーマンで教わって習得とかも考えない訳じゃない。
……探索を続けよう。
『反応が時々強まって行くわね。右の道へ行って』
「OK」
目当ての本があるか分からないけれど、指示に従って向かう。
調度ゲートがある方角に符合する。
『ボスの近くに禁書が存在する可能性は十分に高いです。むしろ私達の目当ての書物をボスが所持しているかもしれません』
「ありそうだね。なんていうか特殊な書物って感じなんでしょ?」
『もちろん正しいかどうかは不確定ですが……過去にその辺りに該当する書物を持ち帰った者の証言を見つける事は出来たので』
と言ってリーゼは古びたイラストを俺に見える様に広げる。
分厚い、頑丈そうな装丁の施された書物だ。
俺が召喚される時に見た魔法陣の様な紋様が表紙にある……。
とりあえずゲートのボスを倒してからゆっくり調査するのも悪くない。
なんて思っているとリーゼ達の方から爆音が響き渡った。
「な、なんだ!?」
俺とフェーリカが揃って耳に手を当てる。
ゴジョは……不安そうに俺に寄り添って来る。
リーゼが音の方に視線を向ける。
学園の塀の外……城下町の端の方から何やら煙が上がっている。
警報が鳴り響き、学園の生徒達や国の戦士達が事態の収拾に向かって行く。
そういえば学園の生徒達も一応は国が抱えている者なんだよな。
戦える者達が行くのは当然か。




