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ゲート

 翌日、リーゼは言った通り、城下町を案内してくれた。

 この国はまだ歴史が浅く、小さな国であるらしい。

 ゲートへ入る冒険者の憩いの場としてゲート近隣に作られた村が町へ、町が都市へと成長していく過程で国になったらしい。

 今から、約10年前後前に城が建ったとかリーゼは教えてくれた。


「新しい国なんだ?」


 ゲートの近くにある軽食屋でお茶っぽい飲み物を飲みながら話をする。

 近くで見ると思ったよりもデカイな。


「はい。ここにゲートが出現したのを皮切りにして、開拓者や冒険者が集まって国になったんです」

「じゃあ貿易が基本、なのかな?」


 ゲートからの副産物とかで財を成している。

 だから、農業とか畜産とかはあんまり発展していないとか。


「いえ、近くに川もありますし、畑もありますよ。のどかな国ではありますね」

「平和なんだ?」

「平和かどうかはわかりませんが、あまり大きな争いは経験していない国です。どちらかと言うと少しでも国力を増強しないといけませんね」

「なんで?」

「大国の間に出来た国なんで、何時攻められるかわからない所はあります。と警戒はしていますが、表面上では友好国ですよ」

「ふーん……」


 意外と物騒な状況にある国……なのかな?

 ただ、国民にそこまで緊張感は無いように見える。

 アレだ。支配するメリットがあまりない国なのかもしれない。


「ゲートなんてあるから占拠したいとか思うんじゃないの?」

「世界中にありますので、そこまで珍しくないんですよ」

「あ、そうなんだ?」

「冒険者が持ち帰った道具が戦争の引き金になりかねないですけど、幸いこの国はゲートから持ち帰った物を徴収する事はありませんから」

「戦争をしないという意味で?」

「はい。大国なら没収する事もありますけどね。だから国が雇っていない冒険者は小国のゲートを使って一攫千金を狙うんですよ」

「入る時にお金を支払って国庫を潤わせて、それ以上は関わらないスタンス?」

「そうなりますね。もちろん国の指揮の下、調査する事はありますよ。その場合は調査隊が見つけた物は国の物になります」


 まあそうだよな。

 というか、リーゼのポジション的にゲートは調査対象とか、そういう位置付けなんだろう。

 学園も研究者みたいな人が結構いるし。


「昨日、使い魔を行かせるとか言ってたよね。それ?」

「はい。安全に、且つ確実に資源を持ってくるには使い魔に取ってこさせるのが一番なので」


 人間が減るのは困るけど、召喚すれば無限に使える使い魔に危険な所に行かせるって発想か。

 日本で言う所だとロボットに被災地の危険な場所の探索をさせるみたいな感じかな?


「ゲートって具体的にはどんな資源が取れるの?」

「魔晶石と言う、生活具の燃料になる物がメインですね。灯りの燃料になったり、魔法の補助をしてくれたり、この世界の人間には無くてはならない物です」


 と、リーゼが指差したのは店内の灯りだ。

 俺の世界でいう所の石炭とかに該当する物かもしれない。


「これです」


 リーゼは小さな欠片を俺に見せてくれる。

 確かにこのくらいの欠片なら小鳥でも持って来れそうだ。


「純度にもよりますが、これで一個で数時間分の灯りを灯せます。冒険者から買い取って国民の生活は潤っているんです」

「そんな物を手にいれられるゲートを国は管理しないの?」

「結局はどれだけ安全に供給できるかなので、多くの国はゲートを最大限上手く利用しきれないんですよ」

「うーむ……ゲートってどこも同じなの?」

「そう言われてますけど、断言はできませんね」


 みんなが共通で入ることの出来る入り口であり、資源の獲得をし合うような場所では無い……と言う事か。

 どれだけ良い結果を持ってくることのできる人材を確保しているかに掛っているから立地は度外視出来るんだな。

 だから大国に成長させるため、冒険者には寛大に、学園には資金援助をしている国……なんだろう。

 住みやすくはありそうだ。


「ところで、リーゼは授業に参加しなくて良いの?」

「セイジさんにこの世界、この国、この学園を案内することで授業の出欠は免除されているって昨日も言いましたよ?」

「ああ、そうだったね」

「はい。まあ、魔導学の授業は私がやらないと始まらないので、この後は学園に戻りますけど」


 考えてみれば使い魔を召喚して教育するのも主の仕事だよな。

 俺が人間だったから色々と例外扱いされているのか。

 もしかしたら俺に限らず、扱い辛い使い魔の場合、そういう規定でもあるのかもしれない。


「じゃあそろそろ戻ろうか?」

「セイジさんが良いのでしたら」

「まだよくわからないからね。色々と案内されてもこんがらがってしまうと思うからこれくらいで」

「そうですか、じゃあ帰りましょうか」


 なんか非常に悪い気がしてきた。

 俺に何か協力する事は出来ないのだろうか?

 と思いつつ、俺の異世界での日常は淡々と過ぎて行った。

 リーゼは本当に良い人で、学園も俺の事を快く受け入れてくれている。

 むしろ俺がリーゼに気を使ってしまうくらいだ。


 何せ初日、寮のベッドを俺に使わせて本人はソファーで寝ようとしているのを止めたくらいだ。

 俺がソファーで寝ると言い張る形でどうにか収まった。

 俺達が学園に戻ってリーゼが授業を始める。

 講師って言うのは本当だったんだなぁ。


「という事で、魔導学において機材に入れる薬物の割合は――」


 と、リーゼは授業中、凄く真面目な表情で生徒達に教えていた。

 魔法の使い方が良くわからない俺は授業中は見学をしている。

 学園の連中は俺の世界に関して興味深々だったな。

 そういえば魔法の無い世界がある事に驚いていた。

 この世界の常識が殆ど当てはまらないと言う意味では……大変なのかもしれない。



「ゲートも無いんですよね?」


 今は俺の世界について話している。

 リーゼも真剣に聞いてくれるし、話すには結構楽しい。


「そうだね」

「じゃあ資源などはどうしているんですか?」

「単純に畜産とか畑を耕して得るかな? 後は川や海で漁をして……こっちでは肉とかはゲートで簡単に手に入るんだっけ?」

「はい。食料に関しては割と……飲み水の調達も、最悪ゲートからの恩威でどうにかなります」


 生活する上では便利な物らしい。

 痩せた土地とかの生活が苦しい場所にあると便利そうだ。


「セイジさんの世界の話はとても面白いですよ。ゲートの無い世界ですか……」

「ところでさ」

「何でしょうか?」

「俺に何か出来る事は無いかな? こう、毎日こうして話をしているだけで何もしていないってのも悪い気がして」

「とは言いましても……悪いですよ。セイジさんは被害者なんですし」

「何かしたいんだ。何もせず養ってもらっていると虚しくなると言うか」

「……じゃあ何か無いか聞いてきますね」


 こうして俺は学園の雑務をする事になった。

 とは言っても校庭の掃除とか、道具の清掃、整頓とか、ほんと軽い雑務だけどね。

 汚くて大変な物は俺だけではなく、みんなでする決まりらしい。

 ただ、食器に乗っていた食べ残しとかいつの間にか清掃されていて、小奇麗なんだよなぁ。

 ほんと、みんなが気を使ってくれていて居心地が……。



 そんな日々が二週間過ぎた頃だろうか。

 リーゼが学園の図書室から帰ってきて、手紙を読みながら溜息を吐いていた。

 俺はお茶の入れ方を学び、リーゼに出す。

 魔法は使えないけど、道具でどうにかお湯は湧かせる。


「大丈夫?」

「あ、はい」

「もしかしてそれって俺を帰す方法を調べてくれていた奴?」

「……はい」


 返事から結果は芳しくない事だけは察する事が出来た。

 まあそんなすぐに上手く行く訳ないよな。


「何分、資料が喪失していまして……研究もあまり進んでいないんですよ」


 人間を誤って召喚してしまう事例はそれなりにあるそうだが、異世界の人間を召喚したと言う事例は珍しいそうだ。

 その人間の召喚って言うのもゲート内を探索していた人間を誤って呼び出したとからしい。


「資料の喪失? 長い歴史の末に無くなったとか?」

「いえ、そうでは無く所持者が亡くなってしまい喪失してしまったとか、権利の受け渡しの不備とか色々とあります」

「え? どういう事?」


 なんで持ち主の死ぬと物が無くなるんだ?

 泥棒に入られたとか?

 でも、何かニュアンスが違う気がするぞ。


「え? 何がですか?」

「持ち主が死んだり、受け渡しの不備でなんでなくなるの? 探せば良いんじゃないの?」


 俺の質問にリーゼが首を傾げる。

 ん……?


「あのさリーゼ。聞いて良いかな?」

「なんですか?」

「この学校の庭に木があるよね」

「はい」

「枯れ葉とかって誰が集めているの?」

「ゴミを集める必要があるんですか?」

「えっとー……」

「焚き火の燃料にするんですか? 学園の敷地の場合、落ちた時に集めていないと消えますよ?」

「……消える?」

「……もしかしてセイジさんの世界じゃゴミは消えないんですか?」

「むしろゴミが消える理屈を聞きたいよ」


 というか、ゴミが消える事の方が不思議なんだけど。

 もしかして、この世界ではゴミが勝手に消えるのか?


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