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『――ジさん! セイジさん! 大丈夫ですか!?』

『ちょっとリーゼ! 落ち付きなさいって』

「だ、大丈夫だから落ちついて」

『フェーリカ!? ねえ! フェーリカ! 無茶なんかしちゃダメだよ! フェーリカったら! フェーリカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


 キーンとレイオンの声がリーゼ達の通信の方から聞こえて、俺とフェーリカ、ゴジョ……各々の使い魔達が揃って耳に手を当てる。

 でけーよ! 錯乱する程ってどんだけ心配しているんだよ。


『えっと……レイオンさん。落ちついて下さい。通信が回復しましたよ』


 あ、リーゼも俺の声とレイオンの絶叫で我に返ったみたいだ。


「ムウ」

「ああ、どうにか撃破出来た」

『ホント!? ああ、フェーリカ! 無茶したらダメじゃないか! 君が居なくなったら僕は一体何を希望に生きて行けばいいんだ!』

「ムウ……」


 あ、フェーリカが本気で困った顔をして頬を掻いてる。

 ぶっちゃけレイオンってフェーリカをあまりにも溺愛と言うか……フェーリカなしじゃ生きていけない様な台詞を吐いている様な気がする。

 お前等は恋人同士か。


「ムウムウ」


 何かフェーリカとレイオンとでやり取りがあるようだ。

 話し合いをしているっぽい。


『それでセイジさん、経過はどうですか?』

「撃破自体は出来たけど……」


 俺はグラスグリーンケルピーの死骸を調べる。

 半透明の半分馬の死骸だからなぁ……肉とか不味そう。

 というか食べられるのだろうか?

 後で聞いた所、水っぽくて食用には向かないらしい。


「コアは傷つけない様に注意してトドメを刺したけど」


 ぶっちゃけ頭を狙うよりも胴体を狙った方がやりやすかったってのもある。

 ただ、かなり早かったと思う。

 と言うか今になって帯電サンゴの電撃による麻痺が手に感じる……気がする。

 念のために持ってきた錬金科の傷薬が役立ちそう。

 って問題はそこじゃないか。


 俺はグラスグリーンケルピーの頭の方を確認する。

 するとやはりコアが摘出する事が出来た。

 グラスグリーンケルピーの頭から飛び出して、浮かんでいる。

 俺は黙ってアナライズリングを掲げようとしたのだが――。


 グラスグリーンケルピー=騎兵のコア 破損率0% ★★★★


 警告! 所有者の等級よりも上のコアの為に入手不可。


 という文字が出た。


「等級よりも上だから無理だって出てる」

『等級ってのは★の事を指しているのでしょうか?』

「そうじゃないかな? ★4つだし」


 俺よりも格上のコアは手に入らない……と。

 というか無傷で倒すと★が高いと言う事なのだろうか?

 あ、更なる項目が出現した。


 魔結晶を使用し、等級を下げますか?


 ……下げるにも魔結晶を使用する?


『どうしましょうか?』

「えっと、魔結晶を使えば等級を下げられるみたい」

『良い手ですね。まだ潜る予定なので魔結晶に余裕があるなら試してみるのはどうでしょうか?』

『ちょっと待って、セイジ』


 そこでロザリーが俺を呼びとめる。


「どうしたのロザリー」

『前回のコアを入手した時は等級が★3だったんでしょ? 今回との差って何?』

「破損率だけど……って」


 俺の言葉にリーゼも納得したっぽい。


『自ら破損させれば使用可能になるかもしれないって事ですね』

『ええ、もしかしたら私達がチップまでしか使えないって言うのは、★1がチップ。★2がコアとなって行くんじゃないかな? って思ったのよ』


 ありえる。

 その流れなら上位の名称がある可能性も高い。


「じゃあ実験に傷を付けて見ようか?」

『勿体ない気もしますけど……』

「まあねー……」


 破損率ってのがどんだけ影響を与えるのか非常に気にはなる。

 けど、破損ゼロで等級下げると言うのはつまり、破損ゼロの★3のコアを入手できると言う事に他ならない。

 そして破損が無いコアの性能は少なくとも今、俺が使用しているコアよりも優秀である可能性は大いにある訳で。

 それを強引に★3に下げるためにコアを破損させると言うのは、勿体なくも感じる。

 魔結晶を節約するか、それとも……と言う事だ。

 とはいえ、今回しかチャンスが無い訳じゃない。


『とはいえ、実験も兼ねて今回は傷を付けてみましょうか』

「了解。じゃあ傷を付けてみるね」


 浮かぶコアに俺は剣で強く斬りつける。

 バキンと音を立ててコアが大きく破損した。


 グラスグリーンケルピー=騎兵のコア 破損率28% ★★★


 あ、星が下がった。

 先ほどの様な綺麗な輝きは見えない。


「★が下がった。入手可能になったね」


 アナライズリングにコアが吸い込まれて消える。


 騎兵 Lv1

 アビリティ


 ライディング

 アーマーマスタリー

 ランスマスタリー

 シールドマスタリー

 ピアッシング

 ブランディッシュ


 騎兵か……乗り物があれば優秀そうな職業コアだなぁ。

 俺はフェーリカとゴジョに目を向ける。


「ムウ?」

「クア?」


 ……この二匹に乗っかって戦うのは……厳しそうだな。

 技能も槍とか馬に乗って戦う前提っぽいし。

 今の俺じゃ使いこなせない職業なのはわかる。

 少なくとも、飼育魔をしっかり育てた者が使いこなせる職業だろう。


 持っていた敵が馬だしな。

 騎兵というのもなんとなくわかる気がする。

 重歩兵は鎧イノシシだったから、敵の傾向で職業が分かれるんだろうな。


『コアにはまだ謎がありますね』

「そうだね。次手に入るコアは等級を下げて入れてみるよ。何か追加で技能があるかもしれないし」

『破損率0%だからこそある能力か……夢があるね』


 まあなー……。

 レイオンも一応は男なのか、そういう理解はあるようだ。


「それでリーゼ。このケルピーの素材って持ち帰った方が良い?」

『出来れば採取して欲しい所です』


 と、リーゼがいつの間にか鍛冶科と錬金科の代表に声を掛けて相談している。

 ただ、腕を組んで困った顔をされているな。


『水生系の魔物故に加工が難しいんです。皮の一部と鱗、鬣を採取してもらえないでしょうか?』

「わかった」


 あんまり持ち込んでも困ると言う事だろう。

 で、解体している最中に帯電サンゴを取り出そうとしたのだが、ボロボロで、使い物にはならなくなっていた。

 ケルピーが死ぬ時の硬直に押し潰されてしまったという事だろう。

 なんて感じに解体を適度に終えて俺達はゲート前に立った。


「ム!?」


 フェーリカがそこで何か気づいた様に俺に向かって両手を上げてアピールしている。

 どうしたんだ?

 ムウムウってだけじゃわからない。


『フェーリカのLvが99になって止まったって話だよ』


 そういや……俺は自分のLvを確認する。

 おお、25に上がっている。

 倒した時の興奮で気づかなかったみたいだ。

 ゴジョの方も90という驚異的なLvまで上がっている様だ。


「止まったというのが気になるね」

『ええ……そもそもフェーリカさんが私達の世界の住人の中で一番強い状態になってしまった様なものですよ』

「まあ……」


 俺は元々日本人だから除外だろうけど。

 そもそも90前後から途端に上がり辛い設定は何処へ行った?

 そりゃあ数日ゲートに潜っただけでここまで上がるってのは凄い話だけどさ。

 しかも見てるだけとか。


『うーん……私達はセイジに追いつく事は不可能って事なのかしらね?』


 ロザリーの言葉に結構な重みを感じる。

 もしも可能性が無い事を証明してしまったら、俺やリーゼを狙う輩から永遠に逃げ続けないと行けない事になってしまうからだ。

 ★3という実験体を求める国は絶対に出てくるだろう。

 例え、どんなに調べて結果が出ないとしてもだ。


「どっちにしても、今の俺達は進むしかないか」

『その前に実験ね。フェーリカの』

「そう言えばそうだったね」


 フェーリカに合成を任せて最後まで踊れるかって話だった。

 失敗して飛んでも無い物を出したら即座にゲートを潜って逃げるんだったっけ。

 こんな海面で出来るのかな?


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