グラスグリーンケルピー
『水だから、さっき手に入れたサンゴ辺りを武器代わりに使えば良いんじゃないかな。後は合成剣じゃなくて鉄の剣が良いと思うわよ。周りの物を利用は……出来無さそうね』
ロザリーの助言に頷く。
俺だってゲーマーだから属性で効きそうな相手くらい見分けが付く。
ステージギミック的な仕掛け、鎧イノシシみたいに有利に動ける物があったら良かったんだけど、生憎と無さそうだ。
『ちょっと待って、遠隔だけど水耐性を上げる魔法を施すから』
ロザリーがそう言うとロザリーの使い魔が俺の周りを巡回し、光を振りまく。
すると俺のステータスに水耐性(弱)の状態変化が発生した。
『水中戦だったら効果時間は短いけど、水中呼吸とかも付与したんだけどね』
やっぱ使い魔を使ったナビゲートって凄いと思う。
ロザリーとリーゼのお陰で随分と冒険が楽だし。
レイオンの方は、フェーリカの運用が上手く行けば化けそう。
「クア!」
「ごめんな、ゴジョ。今回も見ててくれ」
「クア……」
やる気は認めるんだけど、ゴジョを近くに置いていたら危ないじゃ済まないかもしれない。
イノシシの時でさえもゴジョ達は追いつけていなかった訳だし、例えかなりLvが上がっていると言っても無謀に突撃はさせられない。
「クア……」
「ムウムウ」
『じゃあどうしたらゴジョはセイジの役に立てるの? って落ち込んでるみたいだよ。フェーリカが言ってる』
「んー……」
ぶっちゃけると★1のゴジョ達が役に立つ事と言ったら、俺が行くのが困難な所に落ちてる道具を拾ったりしてもらう事しか無い。
だけどゴジョが望んでいるのはそう言うのじゃないのは分かる。
それはフェーリカも同じようで、力になりたいと言うのは目を見ればわかる。
「さっきサンゴを持ってきただけでもゴジョは役立っているよ」
ケルピー相手に効果的になりそうな武器が見つかったんだから、挑める。
最悪の場合はフィールド変化待ちになる所だったんだし。
俺は帯電サンゴにグラファイトゴーストの布を巻き付けてから構える。
「これが無かったら決定打に欠ける可能性があったんだ」
水の精霊みたいなグラスグリーンケルピーに合成剣は属性的に不利。
鉄の剣で戦うしかなかった所をサンゴで戦えるのが分かったんだ。
ならばゴジョは十分すぎるほど俺の役に立っている。
「大丈夫、ゴジョにはゴジョにしか出来ない事で俺をサポートしてくれているんだ。戦いは任せてくれればいい」
「クア!」
わかってくれたかな?
リーゼの気持ちが痛いほどわかる。
リーゼからしたら俺はゴジョみたいだったんだろう。
だからこそ、ゴジョもがんばりたい。
だけど、今はがんばるべき時じゃない。
……そうだなぁ。
「ゴジョ、狩りから帰って、リーゼと一緒にゲートに挑む機会があったら俺の分までリーゼを守ってくれるかい?」
少しわがままな願いだと思う。
だけど、リーゼのLvとゴジョのLvを見れば自然と答えは出る。
ゴジョの方がLvが高いなら、リーゼのLvを俺がゴジョにしたように引き上げる手伝いが出来ないかと言う考えだ。
今のフェーリカがリーゼ達の世界基準で言う所の驚異的なLvに突入しつつあるのなら、ゴジョだって同様だ。
つまりLvが高いゴジョがリーゼ達の冒険の助けになるならそれに越した事は無い。
「クア! クアアアアア!」
「ムウ!」
『セイジに頼まれたなら絶対にやり遂げたいってゴジョは言ってるみたいだよ』
『な、なんか今度は私がゴジョに育てられる立場になる様な会話じゃありませんでした?』
あ、リーゼが微妙そうな声で会話に入る。
まあ会話の前後からそうなるな。
「しょうがないじゃん。一緒に狩りに行くとしたらゲートを使わない狩りくらいしかない訳だし」
むしろそっちの方が妥当なのだろうか?
……それも悪くは無いかもしれない。
とはいえ、ゲートの様な発見も地上じゃ無いっぽいから行くならゲートの方が利益が多いと思う。
『そうですけど……はぁ、わかりました。帰ったらゴジョにお願いしてみましょうね』
「クア!」
うん。これでゴジョが少しでも前向きになってくれるなら良いに越した事は無い。
不意にゴジョとフェーリカに魔物が寄って来ない様に注意しないと……うん。今の所はいなさそうだ。
「じゃあボスに挑んで来るから、隠れててね」
「ムウ!」
「クア!」
という訳で俺はグラスグリーンケルピーに挑んだ。
「ヒヒィイイイン」
完全に馬の嘶きにしか聞こえない声だった。
リーゼの解析を参考に狙うべき個所を定める。
急所のコアは額にある。
ならば順当な所で心臓か首を狙うのが妥当だろうか。
帯電サンゴを剣の様に持って盾を持ちながら近づく。
ザバァっと下半身の尾びれをはためかせ、前足で素早く俺の元へと走って来る。
体勢から考えて突進か!?
お!? 水を纏って突撃してくる。
しかも水が渦を巻いてドリルみたいになってるぞ!
当たったらヤバイ! かと言って大きく避けたらそのまま追尾してくるだろう。
そう思ってギリギリまで引き寄せてから横っ跳びで回避する。
すると、そのままグラスグリーンケルピーは走って距離を取る。
ヒット&アウェイ戦略か?
海水に足場を取られるからこれ以上早く動くのは難しい。
いくらロザリーが援護魔法を掛けてくれたと言っても、厳しいな。
盾で受け止めても良いけど、受け止めきれるか未知数故に出来れば避けたい。
重歩兵の能力補正のお陰か、動き自体もある程度は付いて行けるし……。
『セイジさん。だ、大丈夫ですか? 早すぎてこっちでは観測し辛いのですが』
「大丈夫……ただ、結構早いね。どう対処すべきか悩んでいる所だよ」
『水耐性を掛けてるから魔法攻撃をしようとしてきたら攻撃のチャンスよ』
『はい。ケルピーは突進の後に魔法で追撃をするのがわかっています。未知の攻撃もあるかもしれませんが、それは間違いないと思います』
「了解」
確かに、俺が攻撃を避けた事を悟ったグラスグリーンケルピーは距離を取り、大きく後ろ足も無いのに立ち上がって鳴く。
それだけでグラスグリーンケルピーの周りに水が集まった。
そして前足を地面に降ろすと同時にグラスグリーンケルピーを中心に三日月形の水の刃が発生して俺目掛けて飛んでくる。
誘導性能が高そうな攻撃だな。
『★3だとあんな攻撃をしてくるのね。私の知識だとセイジで言う所の薙ぎ払いの水鉄砲を放って来るのに、その場合は水中に逃げるのが吉、ある意味ギミックはそれかな?』
「それはそれで避け辛そうだ。と言う事は水の中に逃げれば良いって事になるけど……」
あの手の追尾性の高い攻撃……つーか、グラスグリーンケルピーは追尾性の高そうな攻撃を主軸に攻めるみたいだ。
『海中に逃げるか、もしくはギリギリで避ければ目標を見失うタイプだと思うわよ』
俺は先ほどと同じく飛んでくる三日月形の水の刃をギリギリの距離で見切りながら接近し、サンゴで切り捨てながらグラスグリーンケルピーの元へ接近する。
重歩兵のコアのお陰か、攻撃をしっかりと見切る事が出来る様な気がする。
最後の刃を盾で払う。
「よし!」
うん……耐えきれなくは無い攻撃っぽい。 少なくとも威力を殺した上での話だけど。
「ヒィイイイン!」
「さっきからちょこまか逃げるんじゃない!」
サンゴを握りしめて、背中を見せようとしたグラスグリーンケルピーに向けて突き刺す。
ズプっと確かな手ごたえと共に、グラスグリーンケルピーが大きく仰け反る。
が、即座に抵抗とばかりに全身を振るわせる。
……辺りの水気が集まってくる!?
なんか危険な気がするので、即座に離れて盾を構える。
「ヒヒヒヒヒィイイイイイイイ――」
グラスグリーンケルピーを包むように水が集まってから炸裂する。
盾から確かな衝撃!
まともに受けたらやばかったと思える一撃だ。
盾が持ち上がりかけたし、盾も多少損傷している。
一撃を与えると防御反撃をするってか?




