遠浅
スパイが他にもいるかもしれないから、一応出発前に学園内を一通り周って怪しい奴がいないかを確認した。今の所それらしい人影は見かけていない。
そんな感じで出発しようとした所でロザリーがやって来る。
「じゃーん! セイジ! どう? 私の使い魔!」
と、若干派手な色合いの小鳥の使い魔をロザリーは俺に見せる。
うん、なんとなくロザリーらしい。
「今度こそセイジの行くゲートの世界を見せてもらおうかな」
「ロザリー、見るのは良いですけど、ちゃんとセイジさん達の援護をするんですよ」
「わかってるってー、リーゼは相変わらず頭が固いわね。ね? セイジ」
俺に話題を振らないでほしい。
リーゼは割と堅実な方だし、真面目な人なんだから、茶化すと実は面倒臭い。
だけど責任感がとても強いのは良い所だと俺は思っている。
だからこそ、リーゼの迷惑にならない様に俺は強くならないといけない。
「聞いたわよ。さっき、スパイを捕まえたんだって?」
「うん。まだ口は割っていないけど、死なせない様に生け捕りにしたのは収穫だったみたい」
「セイジって凄いわよね。ドンドン強くなっていくというか、元から強かったのかな?」
「どうだろうね」
後はぞろぞろとゴジョやレイオン、フェーリカ達が来た所だ。
「クア!」
「ゴジョとフェーリカのLvがどこまで上がるか挑戦したいし、挑むゲートのボスから今度は綺麗なままのアビリティコアを入手……が、今回の目的にしようと思う」
「わかりました。同時に次の階層への挑戦ですね」
「うん。状況次第じゃ今日中に帰って来れないと思う」
俺の言葉にリーゼは頷いてくれた。
「十分に気を付けてくださいね」
「もちろん。リーゼ達がサポートしてくれるんだから、これ以上心強い事は無いよ」
「セイジさん……」
リーゼが俺を見て心配そうに顔を上げる。
本当にリーゼは心配性だ。
こう……実はちょっと口うるさい教育者みたいな感じ。
だけど時に挑戦する事も必要なのだとリーゼは理解している。
「それじゃあ行ってくるよ」
「あ、セイジ。念の為に注意事項ね」
ロザリーがそこで俺を呼び止める。
「何?」
「もしも侵入した先のフィールドが洞窟とか迷宮とかだったら気を付けて、下手をすると脱出用のオイルタイマーが使用不可の場合があるから」
「そんな事もあるの?」
「うん。何でも上位のゲート内で発生した事なんだって。もしかしたらセイジ達に振りかかるかもしれない」
「わかった。その場合は次の階層に出れば良いの?」
「日が差し込む場所とかがあったらそこなら使用出来るらしいわ。明かりはアナライズリングで疑似的に出せると思うから光が欲しかったらフェーリカに持たせたリュックからランプを出して」
「うん」
ロザリーはロザリーでリーゼが気付かない補助をしてくれるつもりみたいだ。
うん。実際に戦うのはまだ俺だけだけど、味方が増えた様な気がしてくる。
少しずつ、着実にゲートに挑んで行こう。
「じゃあゴジョ、フェーリカ。行こうか」
「クア!」
ちなみにゴジョも荷物を持ちたいと言い事で、リュックを背負い、ポーチを肩? に掛けている。
後で手に入った物を持たせる予定だ。
水筒には十分に水を入れているけど、下手に水弾を発射して狙われない様にしないと。
「ムウ!」
「じゃあ行ってくるね。みんな」
「行ってらっしゃい。無事を祈ってますよ」
俺はリーゼ達に手を振り……安全だと思うタイミングで、ゲートへと進んだのだった。
さっそくゲートに突入した俺は辺りを確認する。
バシャリと水が跳ねる。
「な、なんだ!?」
辺りを確認する。するとそこは見晴らしの良い海みたいに見える……遠浅の海岸って感じだ。
潮風が鼻をくすぐる。
……海まであるのか。
「クア!?」
「淡水系のゴジョには海水は厳しいか?」
「クアー」
あ、普通に泳ごうとしてる。
大丈夫っぽい。
「ムウ」
フェーリカもいる。
やっぱりこの面子でなら一緒に潜れるみたいだ。
『セイジさん、ゲート内に侵入出来ましたか?』
「うん。見た感じだと……遠浅の海岸かな?」
ゲートって本当に不思議で一杯だ。
こんなフィールドが存在するのか。
……泳いで移動とか水中戦とかしないといけないのだろうか?
休憩を取るのもこの足場じゃ少し難しそうに見えるけど……と、顔を上げると、遠くに島っぽい所がチラホラと見える。
大丈夫かな?
『海フィールドですか……パターンによりますが、海岸系だと思います。階級チェックをお願いします』
リーゼの指示通り、アナライズリングを確認する。
★★★の七級海3階層と表示された。
俺はその事を素直にリーゼに報告する。
「リーゼや学園の人達の読み通り、七級に潜れたよ」
どういう計算をしているのかよくわからないけれど、少ない資料でリーゼ達は潜る事が出来るゲートの級を測定出来ると思う。
数学にはあんまり自信が無い。素直に凄いと思う。
やっぱリーゼ達は学者なんだなぁ。
★の差なんて関係ない。こんな未知にある程度予測できるなんて。
『★3のゲートではもう海フィールドなのですね。私達の方では最低でも5級からなのですよ』
やっぱりリーゼ達の常識の範疇からは出てるって事か。
「海中移動とかも必要だったりする?」
『場合によっては存在しますね。近接で戦うのは難しい為に魔法使いが好まれます。後はゴジョみたいな飼育魔にお願いしている方もいるでしょうね』
うへ……水中戦闘って難しそうだ。
出来れば避けたいな。
そこでブツッと音がしてロザリーの声が聞こえてきた。
『ヤッホー! セイジの会話に混線させてもらうわよー、最初通信途絶しちゃって驚いちゃったー』
女の子らしい高い声だ。
途端に騒がしくなって来たな。
「ムウムウ」
フェーリカもレイオンと連絡を取っているっぽい。
あっちも混線可能なんだっけ?
『セイジ、次階層に行く時は実験お願いだよ』
「わかってるって、じゃあ何が起こるかわからないけれど、進んで行こうか」
『あまりにも進みづらいようでしたらすぐに戻ってきてくださいね。いつまでも留まる必要はありませんから』
「もちろん。かと言って避けていたらチャンスも逃しかねない。挑戦はしてみるよ」
こんな所に目的の資料があるとは到底思えないけれど、探索をしないのは間違っているからね。
何か良い物が落ちている可能性だってありえる。
だから進んでみよう。
そもそも重歩兵のコアの力がどんな物であるのかも気になる。
さあ、試し切りの時間だ。
「行こう」
「クア!」
「ムウ!」
と言う訳で、遠浅の海岸を俺達は歩き始めた。
見晴らしは良いけど、時々岩礁があるみたいだ。
一歩踏み外したら海の中に落ちかねない浅瀬が通路の様に続いている。
ゴジョに頼めば海上移動が出来そうだけど、海中からの魔物の不意打ちが怖い。
『偵察をしますね』
リーゼがそう言って、前回と同じく、辺りを見渡してくれる。
『じゃあこっちは……』
ロザリーも使い魔を飛ばして何かをし始めた。
とはいえ、リーゼの方が早く戻ってくる。
『セイジさん。このまま進むと二匹程魔物がいる様です。不定形のゴーストタイプの魔物に見えました』
「ゴースト系って……幽霊系の魔物がいるんだ?」
『セイジさんの世界にはいないんですか?』
「説明が難しいかな……いると信じられてるって感じだよ」
俺は霊感があった訳じゃないから実際にいるとは断言できない。
いると信じている人もいるし、見たと言う人もいる。
くらいしか答えられない。
「もしかしたら俺じゃ見えないかもしれないから、その時はリーゼ、手伝ってほしい。どうやって倒せば良い?」
『わかりました。ゴースト系は物理的な攻撃に対して効果が薄い特徴があります。ですが、セイジさんの所有している剣は火の付与が施されているので、効果は抜群かと思われます。他に光の魔法にも効果があると思いますよ』
お? 属性攻撃は効果があるという事か。
後は見えたらOKだな。




