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小石

「ゴジョ、力は正しい事に使って初めて意味があるんだ。幾ら力が溢れるからって悪戯をしたら怒るからな? 十分に注意するんだぞ?」

「クア?」


 よくわかってないって顔をしている。

 上手く言い聞かせられるほどの知能がある事を期待して行かないと。

 それにしても力は正しい事の為に……か。

 俺も偉そうな事を言う様になったもんだ。

 言葉に見合う使い方をしていかないとな。


「ゴジョ、今日もゲートに挑むから準備……事前に食事をしておくんだぞ」

「クア!」


 お? 素直に頷いた。

 俺の言った意味を理解したかな?

 そんな訳でゴジョは出発前の食事とばかりに餌箱から野菜を取り出してポリポリと食べ始める。


「後はレイオンとフェーリカだね」

「ええ」


 飼育魔科の檻の近くに水車小屋があるのでその足で合成科の水車小屋の扉を叩く。


「レイオン、フェーリカー、いるか?」


 するとすぐにレイオンが扉を開けた。

 なんか友達と話をするみたいな関係になってきたな。


「やあセイジ、もしかしてフェーリカを迎えに来たの?」

「ああ、これからゲートに挑もうと思っているんだ。良いか?」

「わかったよ。とは言っても、ちょっと相談したい事があるから家に入ってもらって良い?」


 あ、リーゼが露骨に嫌そうというか、不吉な気配を感じとって汗を流している。

 どこまで警戒している訳?

 確かに女の子に見紛う程の美少年で、変わった才能を持った子で、学園のトラブルメイカーだけど、少なくとも昨日の段階では問題は無い。

 まあ……作り出す物は凄いみたいだけど。


「わかったよ」

「セイジさん」

「リーゼだって最初から否定しちゃ始まらないのはわかってるんでしょ?」

「はい。それじゃあ、話を聞いてみましょうか」


 という事で俺達はレイオンの案内でまた水車小屋の中に入る。


「そういえば俺と一緒に入ったお湯での合成は終わった?」

「まだまだだよ。最低限、数日は漬けないと変化のへの字もしないよ」


 やはりそうなのか。

 じゃあ何なのだろうか?

 と思って水車小屋の部屋を見渡すとフェーリカが椅子に座って片手を上げて出迎える。

 なんて言うか、着ぐるみだと言われても信じられるほど、頭が良いのがわかるんだが……。


「それで何かあったの? フェーリカのLvが上がり過ぎてレイオンも制御出来なくなるとか?」


 俺の脳裏にLvの上がり過ぎたフェーリカが野生に目覚め、必死に宥めるレイオンを美味しく頂いてしまう光景が頭に再生される。

 さすがに考え過ぎだとは思うが、その可能性は0じゃない。


「セイジ、なんかとんでもなく失礼な事を考えてる様な気がするんだけど」

「ムウムウ!」


 憤慨する様にフェーリカも俺に向かって抗議している。

 何故バレた。


「まあ、セイジが考えつきそうな暴走なら僕も十分に受け入れるさ。フェーリカは僕にとってかけがえの無い存在だからね。何されても平気だよ」

「ムウ!?」


 あ、リーゼが転んでフェーリカが椅子から転げ落ちた。

 それは信頼ではないのでは?


「あのですね。万が一そんな事態になったら困るのはフェーリカさんですよ? 殺処分されるんですからね」

「それは困るね」

「ムウ!」


 何かフェーリカが呆れてるのがわかる。

 結構感情が豊かだな。


「飼育魔は主以上のLvになっても問題は一応、ありませんよ。力で支配しているとかなら反旗を翻す可能性はありますけど」

「ムウムウ!」


 まあ、レイオンとフェーリカって気が合う間柄って感じで仲は良いからLvとか関係は無いか。

 つーか、レイオンってフェーリカの事を溺愛してるみたいだし、フェーリカもレイオンを大切にしているのはこの水車小屋に初めて来た時に理解している。


「それでレイオン。俺達に何を相談したいんだ?」


 いつまでも変な話題を続けていてもキリがない。

 早く本題をさせよう。


「うん、そうだね。じゃあさっそくセイジ達の意見を聞こうかな」


 レイオンはそう言うとフェーリカに指示を出して、テーブルに物を置く。

 それは昨日、俺達が持ち帰った品物の一部だ。

 石材は鍛冶科に渡し、薬草類は錬金科に渡した。それでも端数となった品物だ。

 質が低下した薬草とか、石材にする途中で割れた物、使い道が分からないけど一応採取した魔物の皮とか。


「これがどうしたんだ?」

「セイジはまだ知らない様だから教えようと思うんだけど、合成獣って合成した物を出さずに居るとどうなるかって話したっけ?」

「炭になるんじゃないのか?」


 確かレイオンがそう答えていたのは覚えている。


「それは漬け置きでやる合成の場合だね。合成獣が行うと別の現象が起こる事があるんだ。だから悩んでいたんだ」

「なるほど……そう言う事ですか」


 リーゼが何か事情を察した。


「小さな物ならフェーリカも結構Lvが上がったからやって見ると良いんじゃないかって思うからさ」

「気持ちはわかります。ですが、十分に考えてくださいね」

「何があるの?」


 ちゃんと説明されなきゃ答えようがない。

 するとレイオンが手を上げて答える。


「基準が結構曖昧なんだけど、強力な武器とか強い魔物の死骸とかを合成獣が吐き出さずに飲み込んだ場合の話なんだけどね、能力値にボーナスが掛るんだよ」


 ああ、なるほど。

 昔、ゲームで似た様な物をやった覚えがある。

 魔物の指定するアイテムを渡すと能力値にボーナスが掛ったりLvが上がったりするシステム。

 多分、それに似た様な物なんだろう。


「もちろん、何でも食べさせれば能力が上がるって訳じゃないよ? 合成獣自身よりも質の良い物、強力な魔物を食べさせるって法則はあるんだ。上がる能力も劇的って訳じゃない」

「ムウムウ」

「というか……」


 俺はフェーリカを上から下まではっきりと見る。


「合成獣って普通にご飯とか食うのか?」

「ムウ!?」

「何を当たり前の事を言ってるの? 食べなきゃ死んじゃうでしょ」

「いや、食った物を全て合成するのかと思って」

「合成する気がなければ、発生しないよ」


 そうなのか。

 よく考えれば確かにそうだよな……うん。


「つまり、質の良い物……ゴミっぽい物だけど、今のフェーリカに取ったら御馳走に等しいから与えて実験すると」

「そういう事、ただ前回挑戦した合成で、随分と脂が乗ってるとか話をしてたでしょ?」

「ああ」

「最後まで踊りきれないと完全に飲み込めないんだ。失敗の可能性だね」

「危ないならやめた方が良いんじゃないですか?」


 リーゼの意見はもっともだ。

 河童の甲羅での実験で、合成に魔力だったかを使う所為でギリギリ吐き出したんだよな。


「そうなんだけど、このくらいならどうにかなるかなって思ってさ」


 レイオンはそう言って拾った小石★★★を指差す。

 小石とは言え、リーゼ達にとっては見た目よりも重たいものであるらしい。

 俺からしたら小石は小石なのだが……。

 というか石も食えるのか?


「なるほど、実験をしたいと……小石が岩になるとか合成でないの?」


 俺の返答にレイオンが視線を逸らす。

 前例があるんじゃないか。


「とはいえ、石材が足りないんだし、失敗しても大丈夫なタイミングを目算するからセイジに見張ってもらいたいんだよ」


 ふむ……確かに、鍛冶科で使う石材が足りないのも事実。

 使えないと破棄した小石を実験に使っても悪い話じゃない。


「石の魔物になるって事は……」

「もしも発生したらセイジに頼みたいんだ。昨日の戦いを見て、仮に魔物が飛び出したら、セイジ以外は倒せないと思うよ」

「確かにそうですね。むしろ国の騎士や学園の生徒に多大な被害を出しかねません」

「……ゲートに持ち込んで実験?」

「うん。そういう事」


 確かに、ゲート内での実験ならどうにかなるかな?

 やって見ても良さそうだ。


「ムウムウ」

「了解。良さそうなタイミングで実験してみるよ」


 上手くすればフェーリカの能力の底上げが出来ると。

 悪い話じゃないな。


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