水弾
「じゃあ出発準備をしてから行って来ようかな」
「そうですね。じゃあゴジョとフェーリカさんを呼びましょうか」
頷いた俺はリーゼと一緒にゴジョを迎えに行った。
飼育魔科の生徒がゴジョの身体検査をしたいとの事だったのだ。
確か……レイオンの家の近くで診察しておくんだったっけ?
小川があるから、河童のゴジョには生活しやすい環境だとかなんとか。
それで小川の方へ行くとゴジョが、器用に川に逆らって泳いで遊んでいた。
「飼育魔科は……あ、いたいた」
他の飼育魔と使い魔の世話をしている最中だった様だ。
話を聞くと特に異常は無いそうだ。
でだ。
現在、ゴジョの大きさは一頭身なのに俺の腰くらいまでの高さにまで成長している。
昨日帰ってからパクパクと餌を食べていたが、その度に大きくなっていたもんな。
「クア? クアクア!」
俺達を見つけてゴジョが川から飛び出して俺に飛びかかって来る。
「おっとっと!」
ゴジョを受け止めるのだが……かなり大きく育ったからか、抱きかかえるのが大変だ。
「良い子にしてましたか?」
「クア!」
グッと、なんかフェーリカがやる気を見せた時と同じ顔をして親指? を立てて応じる。
何か感銘でも受けたんだろうか。
「大人しかったですよ。ホント素直な子で助かります」
と飼育魔科の生徒は答える。
そうか、ゴジョは生まれたばかりなのに偉いな。
「それは何より……」
注射とか怖がって逃げるとかやりそうだな、と思ったけど大人しいのか。
「生まれて二日でもう学園の生徒のLvを超えてしまっているんですよね」
「らしいね。どれくらい強いんだろう?」
「クア?」
俺の役に立ちたいとレイオン経由で言っている事を聞いたけど、どの程度の強さ何だろうか?
正直、ゲート内で戦わせるのは厳しいと思うけど……。
「模擬戦をしますか? ゴジョ、わかりますか?」
「クアアアー?」
あ、この顔は絶対にわかってない。
俺が身ぶり手振りで説明しているが首を傾げている。
聞きわけは良いけど、戦闘はあくまで俺の手伝いとかの認識なのかもしれない。
だから俺の手伝いをするには強い事を証明しないと行けないとジェスチャーした。
するとやっと理解したのか頷く。
「クア!」
やる気を見せているのか素振りしている。
「じゃあちょっとやって見るか?」
「クア!」
と、やる気を見せたので、俺は素手でゴジョと相手をする事になった。
橙河童戦を思い出す。
というか橙河童が落とした箱からゴジョの卵が出てきた訳だし……ってよく考えたらゴジョの親を俺は殺したのか?
凄い罪悪感が湧いて来た。
うん。絶対にゴジョの世話をしなくちゃいけない。
死なせない様に努めよう。
「クウウウア!」
何か小さなあんよで踏ん張ったかと思うと、ビヨーンっと高らかにジャンプして俺に突撃してくる。
……うん。遅い。
ささっと避ける。
一応小さな手に生えたツメ? を振りかぶっているけど俺に命中する事は無い。
「クア! クアクア!」
跳ねるように俺に接近戦を続ける。
動きは良いのかわからないけど、戦闘意識は随分とあるな。
ゲート内で戦った河童とは戦い方が異なるのはわかる。
橙河童はどっちかと言うと水筒に入った水を噴射して射ぬこうとしてくるスナイパー的な戦闘が基本だった。
しかし……この動き、何かに似てるんだが……。
「クア!」
「おっと!」
良い感じに飛びかかってきたので、背後に回り込んで後ろから抱きあげる。
「ゲットー!」
「クア!? クアクア!」
抱きあげられて暴れるゴジョだけど、俺相手じゃ敵わないのを理解したのか暴れるのをやめてダラーンと力を抜き始めた。
負けを認めたって感じかな?
「勝負ありましたけど……かなり攻撃的で良い動きをしていましたね」
「そうなんだ?」
「セイジさん基準だとまた違うんじゃないのですか?」
「かもしれない」
「セイジさんもわかっていると思いますが、ゴジョはやっぱりセイジさんを見ているんですね」
リーゼが納得した様に何度も頷く。
ああ、やっぱりそう?
「遠めなら確かかもしれないね。やっぱ俺の動きを見よう見まねしていたのか」
中々かわいい所がある。
とはいえ、俺はLvは高くても技術が無いからな。
マネをしても強くなれないかもしれない。
「クア?」
俺に抱きかかえられて、ゴジョが足をぶらぶらさせる遊びを始める。
何かご機嫌に歌い始めている。
小さな子供の世話をしている気分だ。
「よし、ゴジョにはゴジョで出来る力の使い方を教えて行かないとな」
「クア?」
ゴジョを降ろしてから水筒を手渡す。
「良いか? ゴジョ、お前は飼育魔の河童だ。河童には河童の戦い方がある。俺がゲート内で見た橙河童という魔物はな」
俺自身も水筒を取り出し、水筒に入れた水を口に含んで唇を細めて水を出す。
少々汚いが、ゴジョには河童としての正しい戦い方を学んで貰わねばならない。
今のままでは泳ぐのは好きだけど戦闘は接近戦オンリーの河童に成ってしまう。
ゴジョの育ての親にならないと行けないのだから教育は重要だ。
「俺はあんまり威力は出ないが、ゴジョ。お前は出来るはずだ」
「あの、セイジさん。発射した水が地味に結構遠くまで飛んでいるんですけど」
威力は全くない。
けれど、Lvの補正か5メートルくらいまで含んだ水が飛んだ。
ぶっちゃけ汚いなぁ。
「さ、ゴジョ。やってみろ」
「クア!」
という訳でゴジョは水筒の水を含んで俺の真似をして発射した。
水弾がゴジョの口から放たれて飛んで行く。
おー……出力は違うけど確かに橙河童の放った水弾と同じ物だ。
やれば出来るじゃないか。
俺はアピールするゴジョの頭……は、皿だから腹を撫でる。
「よしよし、よく出来たぞ。そうだ、ゴジョ。お前は人間では無く河童なんだ。だから俺の真似ではなく、お前にしか出来ない事も探して欲しい」
本当は別の河童とかにゴジョが質問とか出来れば良いのだろうが、ゲート内で飼育魔と魔物が話が出来た例は無いそうだ。
この辺りは人の手で育てられた魔物との違いとか何だろう。
「クアー!」
俺に褒められてゴジョは照れる様に鳴いて、自らの頬を撫でて一頭身なのに仰け反ってる。
可愛いポーズではあるけどさ。
俺の教えを理解してくれると良いけど……。
だから専門家である飼育魔科の生徒に顔を向ける。
「困った事があったら相談に来ます」
「はい。大分Lvは高い様ですが、基本は資料にある通りなんで御力になれると思いますよ」
うん、過去の先人が残した物は偉大だ。
ゴジョに関して言えば、まだ未知の要素は少ないそうだから安心して任せられそう。
「とは言いましても、Lv47は中級冒険者が育てる飼育魔の中でも上位に該当しますので……下手に暴れられると困りますけどね」
「あー……リーゼ、学園の生徒ってどれくらいのLvなんだっけ?」
あんまり踏み込んで良い領域じゃないから聞けなかったけど、知っておいた方が良さそう。
仮にゴジョが何かしらの要因で暴れてしまったら俺しか対処できないとかになったら怪我人じゃ済まない事になりそうだ。
「上下に幅がありますから一概に言えませんが、戦闘系の教師役をしている方ならLv65、優秀な生徒はLv40前後、私はLv41です」
うお……これを聞く限りだとゴジョの成長がおかしいのがわかる。
二日で47とか。
というか、さり気なくリーゼも結構なLvなんだな。
なんとなくエリート的な物を感じる。
「セイジさんとのゲート探索で帰って来たフェーリカさんなんてLv67ですよ。もう上級冒険者の仲間入りのLvです」
「上限は?」
「一応……90前後です。世界的に名のある方がそのLvだと聞いた事があります。それ以上となると必要経験値が膨大で、最上位の階層ともなると命がけになりますので長続きはしません。大抵引退まで上がる事は稀だとか」
このままだと簡単に到着しちゃいそうな勢いだ。
俺なんてまだ23だって言うのに……。
国もその辺りを研究したいんだろうなぁ。
ともかく、やっていくしかないか。




