アビリティコア
ゲートから出ると、リーゼ達が待っていた。
「おかえりなさい。凄く大変でしたね」
「うん。だけど前回よりも楽だったよ。これもリーゼやみんなのお陰だ」
「ムウ!」
フェーリカにレイオンが飛び付く。
「フェーリカおかえり!」
「クア!」
ゴジョも帰って来た事を喜んでいるのかリーゼの足元に行って鳴いた。
「ゴジョもおかえりなさい」
「クア!」
それから何やらゴジョがアピールを始める。
見た感じ俺の真似?
「ふふ、ゴジョはセイジさんの力に成りたいと思っているんですよ」
「ムウ」
フェーリカも何かレイオンに言ってる。
「足手まといで荷物持ちってのは悪い気がする、絶対に追いつきたいってさ」
「そうですね……どうにかしてセイジさんと同じ所に……立ちたいです」
リーゼは俺をまっすぐに見て、そう……言い放ったのが印象的な日だった。
帰還後に俺はリーゼは元より学園の生徒たちとそれぞれ話をした。
その翌日には新発見の情報に城に招待されてまたも王様と話をする事になった。
「アビリティコア……か……セイジくんをゲートに行かせると新発見ばかりになるね」
「はい」
「しかし……コアをそのまま使う事が出来るとは、セイジくんの体はこの世界の人とは根本的に異なるのかもしれないね」
「そんな化け物みたいに言われましても」
「気分を害したなら謝罪するよ。いや本当に、信じられない発見ばかりでこっちも驚きを隠せないのだよ」
俺からしたら二度目のゲートに挑戦で、リーゼの偵察、フェーリカが荷物を持ってくれたお陰でとてもスムーズに戻って来る事が出来たと思う。
最初の挑戦が嘘の様な感覚だ。
しかも……着実に強くなっている自覚がある。
「コアを破壊せずに入手すると、力とする事が出来る……か」
「はい。今回倒した魔物はジョンブリアンアーマーワイルドボアという魔物でした。重歩兵という職業の力を得た様です」
正直に言えばはっきりと見える様になったステータス部分からして相当強くなった自覚がある。
ゲームなどの経験から職業に微妙さを感じなくもないが最初はこんなものだろう。
「そのアビリティコアというのはどこまで違いが出るのか教えてくれないかい? 我が国の騎士が相手をさせよう」
「は!」
俺に稽古をしてくれる騎士が一歩前に出て、玉座の間で模擬戦をする事になった。
俺の武器は前回と同じく木剣で、相手も木剣だ。
但し、前回とは違い、木の盾を着用している。
「では行きます。勝負……開始!」
前回も相手がスローに見えていたんだけど、無駄の無い動きで逸らされてしまっていた。
ここで力技で勝っても、Lvしか前回との違いを見せる事が出来ない。
だから俺は重歩兵のコアが教えてくれる、薄らと認識できるアシストを意識しながら動く。
重歩兵というのは鎧を着込んだ状態で戦う重装歩兵の略称だ。
盾や防具を使い、武器を駆使して戦う……その中でも防具に比重を置いた兵士と思えば間違いは無い。
特定の流派の動きは……わからないがあるのかもしれない。
とにかく、脳裏に浮かぶ型をトレースする様に構える。
「む……」
騎士が呻くような声を出す。
……下手に踏み込むのは下策だ。
力ではなく技を見せる事が重要……となると。
「はあ!」
先手必勝で打ちこむ。
すると騎士は俺の攻撃を予測して剣を受け流そうとして……俺の突きを横に弾く。
力で勝っても話にならないのでこちらも力を弱めた突きだ。
ゆっくりと相手の呼吸に合わせて覚えた型で出す。
弾かれる事は承知している。
だから弾かれて隙が出来た様に見せかけて盾で突き飛ばす。
「うぐ――」
そしてよろけた隙を突く様に弾かれた剣で切りつけようとした所、紙一重で攻撃を避けられる。
盾で突き飛ばしてよろけた隙なのに、読み切ったのか?
偶然か?
そう思いながら剣の柄の部分でフックを掛ける。
剣を横にして受け止められ、そのまま振りかぶるモーションに入る。
この人、俺からすると動きはゆっくりだけど本当に強い人なんだと思う。
今なら速度で追いついて一方的に勝てるかもしれないけど、技術面じゃまだ追いつけない。
盾で攻撃を受け止め、盾で相手の視界を遮った所からわき腹目掛けて突く。
が、やはり察知されて避けられる。
そこで騎士が剣を収めて手を上げた。
「勝負はここまでにしましょう。確かに……前回とは違って格段に動きに無駄が無いかと思います。能力に依存しない様にこちらに合わせてゆっくりと動いて、技術の違いを見せているのはわかりました」
騎士は王様に向かって敬礼してから更に分析する。
前回もそうだが、さすがは騎士だな。
その道のプロって感じがする。
「盾で突き飛ばす動作や視界を遮りながら突く等、今までのセイジ殿とは異なる動きや発想だと思います。これにアビリティを追加したらどれだけの事が出来るか測りかねます」
「それほどとは……凄いね。発見の連続で驚いているよ」
「ただその分、動きの予測がしやすかったのも課題として存在します」
「最後の突きの動きですか?」
「いいえ、剣の振るい方から盾の突き出す動きです。敢えて言うのなら体と認識に差がある様に見えました。動き自体は良くなったのですが……変な癖で動いている様な違和感と言うべきでしょうか」
「元々付け焼刃の様な物ですから……」
アビリティコアに内包された知識みたいな物で動いていた。
本能的なアシストではやはり限界があるかもしれない。
「ですが魔物相手には十分でしょう。前回よりも遥かに強いと思います。本気で挑めば私など軽く仕留める事が出来るのですから利用しない手は無いでしょう」
「戦う相手が全て今回の様な相手では無いって事だね。有効活用する事で困難な階層にも挑めるようになる事を祈っているよ」
「はい」
新たな力で更にゲートに挑みやすくなったのは確かだろう。
試し切りはしたけれど、もっと使いこんで置きたいという衝動がある。
「で、コアのリカバリーだったか。それはどう言った事か試したのかい?」
「はい。魔結晶はどうやらアビリティリングに収納する事が出来るみたいです」
魔結晶にアナライズリングをかざすと光となって収納されるのだ。
もちろん、取り出す事も簡単だ。
「ただ、今回の冒険で入手した魔結晶ではリカバリーをするには足りませんでした」
以外と高額というかなんと言うか。
まあ、一日で行って帰って来たのだからそこまで量を確保できなかったのが大きい。
「なるほど……生憎と我が国もアビリティチップは多数所有しているがコアとなるとまず無くてね。魔結晶の提供をしても良いのだけど、どれくらい提供すれば良いかね?」
「えっと……そちらも学園側から提供されたのですけど、学園が支給した魔結晶だとリカバリーに必要な数字が雀の涙でして」
「……やはりそうか」
前回帰還した時に提供した魔結晶が思い出される。
純度から出力まで何もかもが違ったらしい。
木で火を起こしているのが精一杯な所に、ガソリンとかの燃料が登場した様なものだ。
しかもリカバリーに使うには高出力の燃料を要するとか……そんな感じ。
「その為に前回持ち帰った魔結晶を使用して辛うじてリカバリーを掛ける事が出来た感じです」
で、前回持ち帰った魔結晶でどうにかリカバリーを施せたのだけど破損率が10%以下に出来なかった。
どうやらリカバリーの限界範囲とかもあるらしい。
綺麗なままでボスを倒すことで破損無し100%のコアを入手できるという事なのだろう。
ただ、リーゼの話で綺麗なままのコアは危険と言うのも気になる。
ある程度気を付けて挑んだ方が良さそうだ。




