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ナビゲート

 チュンチュン鳴いている、文鳥みたいな使い魔の説明をリーゼがしてくれた。

 なんかそれっぽい生物だ。

 魔法使いの使い魔の代表みたいな。


「試すならトコトンって事ね」

「ムウ!」

「僕達も上手く便乗出来たら良いね。未知の、★が多い迷宮だと思うと心が躍るよ」

「ムウ!」


 なんだかなー……遠足って雰囲気がここにある。

 後ろでいつでも戦えるように緊張している騎士達に悪い気持ちになって来てしまう。


「じゃあ出発しよう。今回は実験なんだっけ?」

「はい。どうやらセイジさんが挑んだ迷宮は六級と言う少し難易度が高めだった迷宮だったようなので、私達では前回とも異なる低い所を選定しています」


 ああ、最近、リーゼ達に教わったのだけど、迷宮の難易度があるそうだ。

 一番簡単なのが八級……そこから一へ近づく程に難易度が上がるらしい。

 沢山ある扉の一定の時刻によって行く先や難易度が変わる。

 一級の迷宮に入る方が難しいらしいけどさ。かなり限定した時間に挑むそうだ。


 で、オイルタイマーさえあれば基本的に脱出する事は可能なんだ。余りにも深いと効果が無い時もあるとか。

 ただ……難易度と階層は別で、いきなり深い階層に落ちる事もあるとかなんとか……。

 俺が前回探索した六級の八階層はそこまで深くないけど、★の差が分厚い障害となっていたんだろうって話。


「★の違いで、難易度が異なるかもしれないのでご注意を」

「うん」


 俺達はそのままゲートを潜る。

 やはり前回と同じくエレベーターに乗った時の様な圧力を感じると同時に、手を繋いでいたはずのリーゼの手が突然消える。

 今度は意識を失って溜まるかと、強く意識を持って挑む。


 スーッと……視界が突然クリアになった。

 えーっと……今度は……森……かな? 大きな木々が生い茂っていて薄暗いけど、日差しが葉の間から洩れている。

 幻想的な光景ではあると思う。


「えっと」


 まずは状況の確認。

 荷物は当然、俺が持っている。

 装備も前回挑んだ時に持っていた装備を出来る限り装備している。

 かなり滑稽な姿だったけどさ。


『セイジさん? 聞こえますか? やはり別の迷宮に飛んでしまったみたいです、セイジさんが突然消えました。聞こえますか?』


 目を閉じるとリーゼの視線が見える。 


「聞こえるよーって言っても返事は無いよね」

『あ、今度は聞こえますね。セイジさーん』


 何かリーゼが嬉しそうに声を出している。

 今回は声が通じるのか。それは何よりだけど……と言う所で、誰かが肩を叩く。

 えーっと……もしかして初期配置でいきなり魔物と遭遇してしまったとか?

 そう思いながら恐る恐る振り返る。


「ムウ!」


 そこには元気よく俺に声を掛けるフェーリカの姿があった。

 背中にはリュックを背負っている。

 で、フェーリカの頭にはリーゼの使い魔がとまっている。


「クア?」


 鎧の隙間からゴジョがもぞもぞと顔を出しているぞ。


『フェーリカはセイジ達の方に行っちゃった?』


 レイオンがリーゼの方で声を掛けてくる。


『そのようです。セイジさんの方にいらっしゃいますね』

「えっと、こっちには……俺とゴジョとフェーリカ。それとリーゼの使い魔が居るみたい」


 メンバーを確認する……間違いない。

 騎士やリーゼ、ロザリーは別の場所に飛んでしまったらしい。


『共通点で言うと飼育魔か使い魔だけがセイジの方に行っちゃってるみたいね』


 ロザリーがリーゼに向かって答える。

 リーゼは頷いた。


『そのようですね。少し魔力の流れを探ってみます』


 やがてリーゼは腰のポーチから機材を取り出して何やら弄り始める。


『セイジさんとの繋がり自体は心もとない感じでしたが、使い魔を経由する力の糸が発生しているみたいですね。と言うか……使い魔からの信号みたいです』


 俺からリーゼの視覚共有は出来ているけど、リーゼから俺への共有は出来ていない。

 で、一緒に居る小鳥の使い魔からリーゼは視覚と音声を共有してるって事なのかな?


『こっちはフェーリカと交信出来てるよ。リーゼと同じく使い魔出してたお陰かな』


 レイオンが応じる。


「ムウ!」

『すぐに帰りますか? 戦えそうなら探索をお願いしたいのですが……』

「ちょっと待ってて」


 俺はアナライズリングを立ちあげて、現在どの辺りに潜っているのか確認する。

 八級、五層らしい。

 前回潜った所よりも難易度が軽い所みたいだ。


「八級だってさ」

『それは何よりです。こちらの常識になりますが、八級クラスだとボス等も脱出ゲートに居ないと思いますので、少し調査をして貰ってよろしいでしょうか?』

「うん。やってみるよ」

『また一緒にゲートに挑む事が出来なくて申し訳ありません』


 リーゼの謝罪の声に俺は首を振る。


「気にしないで良いから……じゃあリーゼ達も気を付けて帰って」

『はい。セイジさん。絶対に無茶しないでくださいね』

「うん」

『フェーリカに絶対怪我させないでね』

「ムウ!」


 フェーリカが抗議するようにシャドーボクシングを始める。


「えっと……うん。出来る限りがんばるよ」

「クア!」

「ゴジョは俺の胸当てに隠れててね」


 滞在はどれくらいになるか分からないけれど、前回よりも浅い階層ならば探索をしやすいかもしれない。

 守らないと行けない相手が増えたけど……前回のような心細さが少し軽減している。

 とりあえず、やってみよう。

 そんな訳で俺達はゲート内の探索を始めた。



 とはいえ、木々が生い茂る森の中を、けもの道とも言い難い土がむき出しの道を進んで行く。


『あ、セイジさんちょっと待っててください』


 そうリーゼが指示を出して、小鳥の使い魔が羽ばたいた。

 そして高く飛び上がってしばらくして戻ってくる。


『少し先に魔物が二匹居る様です。名前は私の方では確認できませんでしたがサンショウウオ系の魔物だと思います』

「ありがとう」


 リーゼが先に偵察してくれるとなると、急な魔物の襲撃等を警戒しなくても良さそうだ。

 むしろ先に魔物がいると分かると便利だ。


『道具の類もあるようですけど……あまり接近して、通信できなくなると怖いので戻ってきました』

「問題ないよ。じゃあフェーリカは少し下がってて、俺が相手をするから」

「ムウ!」


 そんな訳で俺が先行して、道の先の少し開けた所に居た……カナリヤサンショウウオと接敵した。

 大きさは……俺の半分くらい。

 地味に大きいな。

 デコボコのなまくら剣を持って構える。

 先手必勝!


「はぁあああああああ!」


 思い切り足を踏みしめ、気づかれる前に接近して奇襲を仕掛ける。


「――!?」


 思いも寄らぬ襲撃だったと言わんばかりに二匹居たカナリヤサンショウウオの一匹の胴に思い切りなまくら剣に魔力を込めたまま突き刺す。

 悲鳴に似た叫びを上げつつ、一匹は動かなくなり、俺は剣を引き抜き、二匹目に斬りかかる。


 うん……感覚でしか言えないけど前回の迷宮よりも魔物が弱い。

 手ごたえがとても軽く感じる。

 試しで行くにはとても良い。


「おりゃああ!」


 鋭い口で俺に噛みつかんとしてきたカナリヤサンショウウオを避け、横っ腹を蹴り飛ばして転がす。

 そのまま、腹の柔らかそうな部分を突き刺し、トドメとばかりに喉を突く。


「アグ――!?」


 しばらくジタバタと暴れていたがカナリヤサンショウウオはぱたりと動かなくなった。

 ただ……剣の手ごたえから属性面で効果は薄かったかもしれない。

 ジュって音がしたし、こう……抵抗感が強かったと思う。


「よし!」


 ブンブンと剣を振りかぶって収める。


『やりましたね』

「うん。リーゼが教えてくれたからね」

「ムウ!」


 勝利にフェーリカが駆け寄って親指を立てる。

 良い傾向って感じだ。

 と言う所で俺の耳に盛大な音が響き渡る。


 Lvアップ!

 Lvアップ!

 Lvアップ!

 Lvアップ!


 ……。

 俺じゃないぞ?


『え?』


 リーゼが呆気に取られた様な声を上げる。

 という所で胸当ての隙間からゴジョがモゴモゴと抜け出してきた。

 合わせてフェーリカも何か小躍りしている。


『セイジ、ちょっと待って!』

「どうしたんだ?」


 するとレイオンとリーゼが何やら話し合う。


『いえ、レイオンさんの話なんですがフェーリカさんが凄い勢いでLv上昇したと、あ……私の使い魔も同様ですね』

「ああ、そう言えば、Lvアップ音が響き渡っていたね」


 ゴジョが鎧から抜け出し、俺から少し離れた所で蹲る。


「ク……クア……」


 ムクムクと手の平サイズだったゴジョが膨れ上がっていく……ぞ。


「だ、大丈夫か!?」


 心配して駆け寄るとゴジョはバスケットボール大にまで膨れ上がっていた。


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