鑑定
「とりあえず……話をしながらリーゼ達が来るのを待とう」
「……わかった。じゃあ何を話す?」
「じゃあセイジがゲートに入ってから出るまでの経緯を教えて。リーゼ達に教わった話って概要だから詳しく知りたいんだー」
「ムウ!」
レイオンとフェーリカが揃って目を輝かせてる。
二人(一人と一匹?)とも子供みたいな反応だ。
「レイオン達はゲートに行く事は無いのか?」
「ううん。よく行くよ。フェーリカはバックパッカー役をしてゲートへの遠征にはみんなの役に立ってるし!」
「ムウ!」
どうだとばかりに、部屋にあった大きなリュックサックをフェーリカは背負って見せる。
確かにあの体格なら荷物持ちとしては役立ちそうだ。
俺の倍……それ以上は持てると思う。
特に盾とか大きな物を持つのに便利だろう。
「僕はそのフェーリカの背中のリュックに入ってみんなに付いてくことが多いけどね。基本見てるだけだよ」
「楽するなよ」
「そうなんだけどさー一応魔法は使えるし、援護もちゃんとするよ?」
フェーリカも自慢とばかりに棒を振るモーションをしている。
「なら俺の初ゲート経験なんて別段何でもないんじゃないか?」
「僕達の知らない所から帰って来たんだから聞きたくもなるし、つまらなくてもいいから教えてよ。時間まで」
うーん……かと言って、このまま黙って男の娘との混浴を我慢し続けるよりはマシか。
時間潰しにもなるし。
「そうだなぁ……まずはリーゼ達とはぐれてから――」
それから俺はレイオンにゲート内でどうやって行動して脱出したのかの経緯を説明した。
一応、物語形式になってしまったかな?
盛り上げ所は意識したつもりだ。
若干危機的状況と見せ場を誇大表現してしまったが、問題ないだろう。
脱出するまでという事はブラウンキマイラまでの話になる訳で。
「ブラウンキマイラかー……それって僕達の方じゃ中階層のゲートガーディアンに該当する魔物だね」
「ゲートガーディアン?」
「知らなかった? まあ、リーゼが行かせようとしたゲートの場所は八級だろうから出会う事なんて稀のはずだもんね」
「ムウ!」
「説明から察するに出口を守っている魔物か何か?」
ぶっちゃけそうだとしか思えない。
ブラウンキマイラは確かに出口を守る様に鎮座していた。
そこを強引に突破して来た訳だから俺も幸運だとは思う。
というか……倒さずに入れたのは幸運だ。
倒さないと入れなかったら完全に詰んでいたし……今更になって冷や汗が出てくる。
「うん。そのフィールドで一番強いボスがゲートガーディアンだよ。本来は何人かパーティーを組んで挑まないと行けない相手だよ」
「パーティー……仲間か……」
ゲートに挑む時、俺は仲間……リーゼ達を連れて入る事が出来るのかわからない。
そもそもリーゼ達を俺が挑んだ所に挑ませて良いのかと不安になる。
幾らオイルタイマーがあると行ってもだ。
まあ……前回と同じく、目の前でリーゼ達が消える事も考えられなくもない訳で。
あの時は逃げるしか選択肢は無かったけど、またブラウンキマイラと遭遇する時があるのだろうか?
ゲートの仕組みに関して俺はまだ知らない事ばかりだ。
「同じ所に出る事ってある?」
「え? うーん……僕も多少はゲートに挑んだ事はあるけれど、ゲートの世界は入る度に様変わりしていて、よくわからないかな。似てるなって所に来た事はあるけどね」
「そっか……」
もしもブラウンキマイラが俺の事を覚えていて根に持っていたら嫌だなぁ。
とはいえ、レイオンの話を聞く限り、ブラウンキマイラと再会する事は無さそうだ。
……だけど、そうなると魔物ってどうしてゲートに生息しているんだろうか?
見た所、危機感や復讐心の様な感情は持っていた。
ゲート内が別の形状に変化した時、生息していた魔物も変化したけど、普段はどうしているんだ?
それともアイツ等も持ち主がいなくなってゲートに飛んでいった生物とかなんだろうか?
なんて答えの出ない事を考えながら、リーゼ達がやってくるまでレイオンとの入浴を楽しんだのだった。
「じゃあ実験だね」
リーゼ達が、騎士を総動員して連れて来てフェーリカを使った合成をする事になった。
材料は橙河童の甲羅だ。
「ムウ!」
小ぶりの甲羅をフェーリカが頬張るのだけど……何か咽てる。
「ム……ムウ……」
「だ、大丈夫か?」
「物凄く脂が乗ってて、食べづらいって」
じゃあ無理に食べなくても良いんじゃない?
とは思ったのだけど、フェーリカは頬張って踊り始める。
が、先ほどの踊りよりもキレが悪い。
「うーん……最後まで踊れないみたい……」
「だ、大丈夫なんですよね!?」
「総員、戦闘準備!」
リーゼは元より、国の騎士も集まって戦闘態勢に入る。
俺も念には念をとなまくら剣を持って何時でも戦えるように準備している。
「……」
「ムゥ……ム……ムム」
今にも吐きそうなのを堪えてフェーリカは踊る。
若干顔色が青くなってるぞ。
このままじゃ死ぬんじゃないか?
ボコボコとほお袋が波打ってるし!
「今だ!」
レイオンがそう叫ぶとフェーリカがパカっと口を開いて吐き出す。
するとコロンと……河童の皿が転がる。
「……ふう、一応成功」
「確かに……」
念の為にと俺が河童の皿を拾って確認する。
うん、河童を仕留めた時に見る皿が綺麗なまま転がっている。
何の役にも立たない素材……だ。
ぶっちゃけ河童相手に投げたのが記憶にある。
「ムゥ……ムゥ……」
フェーリカは肩で息をしていた。
「大丈夫かい?」
「ムウ!」
レイオンの言葉にフェーリカは元気よく返事をする。
「★に関してはそのまま……だね」
俺は皿を確認して★の数を確認する。
うん。三つある。
「しかし……15秒も踊れないとなると、相当難しいなぁ」
「ムゥ……」
「鍛冶で作るよりも良い結果だと思うんだが」
鍛冶の場合は★を維持する事がとても難しかったし、一発で成功したんだからマシな方だろう。
「そうだけどね……どっちにしても協力して行った方が良いよね」
「まあ……」
少し危険だけど、上手く使えば今後の役に立つらしいし、利用しないで行くのは損だと思う。
「未知の可能性が眠ってそうで僕も楽しみだよ!」
「上手く行けばね」
三回程挑戦できるからといって、その三回を使いきったら俺は再度行くか分からない。
一人でまだあのサバイバルを生き抜くのは勘弁願いたい所だ。
とはいえ……リーゼや国の騎士達が揃って戦闘態勢に入るこの姿勢は、合成科がどれだけトラブルを起こしているのかが分かる一幕だったのは確かだろう。
そんなこんなで準備を進めて行く。
スクロールで回復は残りの数が少ない為に、薬を持ちこむ事に決まる。
多少は心得が必要だって事で、その後は騎士の指導の元、俺は稽古に勤しんだ。
やがて……河童の箱★★★の鑑定が終わった事を夜、リーゼと一緒に部屋で休んでいる時にカーミュが報告に来る。
「いやぁ……随分と苦労したよ。ここまで手こずらせる品は初めてだったね」
何かボサボサ頭になってて、かなりボロボロだ。
「あの……鑑定費は幾ら程?」
リーゼが眉を寄せて尋ねる。
「ああ、機材その他諸々を総合計すると」
って感じにリーゼに金額をカーミュは報告する。
あ、リーゼの髪が跳ねてる。
思い切り掛ったんだろうなぁ。
「と、当面は使わない方針で行く?」
「それはこっちの知的好奇心が困るなぁ」
「お金が掛り過ぎたら俺達は支払えないって」
「国が出してくれるよ。念書ももらっているしね。0で無い限り請けるさ」
確かな仕事をしてくれる様だけど、そこまでの期待に応えられるか俺にはわかりません。
それにしてもさり気なく国が金を出している件について。
あの王様、なんだかんだで仕事しているんだな。
「はあ……セイジさん。よく考えて持ち帰ってくださるようお願いします」
「ん……うん」
あんまり金目の物に成らなそうな魔物からの箱とかは無視する方針ね。
了解。
あ、でも高いとそれだけ成功率とか落ちそうだな。
「それで鑑定結果は何があったの?」
「箱を開けてみると良い」
言われてカーミュから箱を受け取り、恐る恐る開ける。
するとー……。
「卵?」
河童の卵 ★★★
と、言うアイテムが箱の中に入っていた。
卵の上には何やら紋様が刻まれている。
何だろうか?




