ソードウルフ
「うん。合成術って言うのは本来、フェーリカと同じ、合成獣の習性を人の手で再現したモノなんだ」
「そう言われています。錬金術の起源と言う説もありますね。亜人種も合成獣が作ったなんて話もあるくらいです」
「人の手を通すと時間が掛ってしまうけど、フェーリカにお願いすれば直ぐに完成するんだ」
便利な武器が完成した様に見えなくもない。
だけどリーゼがこんなにも危険であると警戒を強めている意味が、まだ不明瞭……かな?
確かに謎魔物が飛び出して驚いたけどさ。
「何がですか! 合成獣にお願いするのは作成が確立している物に限定しないと何が出てくるか分からないんですよ」
「そうなの?」
「ムウ!」
何かフェーリカが元気に鳴いてる。
同意してるのとはちょっと違いそう。
「取り出すタイミングの見極めがとても大変だね。人の手でやる合成術なら、漬ける時間に一時間や二時間の猶予があるけど合成獣は秒単位だから」
手続きが面倒なのが人力で即席だと合成獣にさせる?
う~ん……わかるような、わからないような……。
似た様な物をゲームで見た事があるけど、実際に見させられるとよくわからないというのが本音だ。
マゼ――に見えなくもない。
「セイジさん。さっき水車小屋の近くに檻がありましたよね? あそこには失敗作が沢山収まっているんですよ!」
「珍しい物を欲しがる好事家が買ってくれるかもしれないって保留したのは学園だよ? リーゼ」
入浴を終えてレイオンが風呂からあがる。
フェーリカがレイオンが上がったお湯をツボや樽に次々と入れて行く。
説明された状況から察するとこの水車小屋が工房なのはわかった。
漬け置きして物を作っている最中なのか。
服を着たレイオンを連れてリーゼは小屋の外へ連れて行く。
「セイジさん、見てください。これが失敗作です」
飼育魔科と書かれているっぽい檻の中を確認する。
そこには……何だろう? オオカミの頭をした何か……剣がいた。
「バウバウバウ!」
「うわっ!」
俺の視線に気づいてガツガツと格子に飛びかかってきた!
幸い、格子が頑丈なおかげで俺に傷は一つも無い。
しかし……なんだ? この生物。
アナライズリングが反応して名前が浮かび上がる。
ソードウルフ。
こう……剣の先にオオカミの頭が生えた不気味な生き物だ。
ファンタジーな魔物に見えなくも無いが、生命としておかしい気がする。
「いやー、合成術を使って魔物の素材と剣を合成してウルフソードっていう剣を作ろうとしたんだけど取り出すタイミングを間違えてソードウルフが出来ちゃったんだよ。失敗失敗」
「セイジさん、覚えていてくださいね。ドラーク学園七不思議には合成科の影ありと呼ばれる程ですから。これでも可愛い方なんですよ」
「じゃあ他には?」
「依頼人が持ってきた物だけど、こんなのとか?」
レイオンがスッと……謎の薬草を見せる。
薬草……? 二つの薬草が微妙にくっついた物だ。
「腕の悪い合成術師に掴まされた物らしいよ。これは完全に失敗作だね。ちなみに分かりやすく出来る物一覧とかもあるよ?」
そう言ってレイオンは二つの薬草で出来るタイムラインみたいのを教えてくれる。
抽選って訳じゃ無くこう……ネットゲームで言う所のアイテムのドロップテーブルみたいな感じだった。
最初のアイテムの時間が過ぎると次のアイテム……と出来あがる品が変わる。
その中で有益な物が出来るのを総当たりで確かめる感じだ。
うん。これならわからなくもない。
失敗する事前提じゃん!
「この漬けている期間が過ぎるとどうなるんだ?」
「失敗して消滅、炭が出来るね」
炭?
薬草がドロドロに交じり合った液体じゃんなくて?
……まあ、そういう物なんだろう。
「なるほど……」
これまでの状況や完成品を見る限り、一つの結論に行き着いた。
いや、結論ではないんだけど、こういう道具に覚えがある。
もちろんこの世界に来てからではなく、日本での話だ。
ゲームなんかで魔物を模った武器や防具が出てきたりする。
先程のウルフソードなんて、まさにそれだ。
つまり魔物武器、みたいな物を作る事が出来るって事なんだろうか?
それの失敗作がソードウルフなんだろう。
ゲームでは成功した物が登場するが、現実では失敗も多いって事なのかもしれない。
どちらにしても現実離れした学問なのは確かだ。
「僕の所に来たって事は何かお困り?」
うーん……確かに、これは頼るのは困る案件だなぁ。
未知の分野に挑戦させて失敗しようものなら魔物が出現しかねない。
★3相当の危険な魔物が出来上がったら俺で倒せるのか考えなきゃいけない訳か。
ただ、設備が揃っていない今なら、頼るのも手……。
とはいえ、★の劣化があるか、出来るか否かも掛っている。
「頼りたくないって感じかな?」
レイオンがリーゼの態度から察して上目遣いで聞いてくる。
「そういう訳じゃないのですけど、失敗のリスクが大きいので……」
リーゼもクラスメートだからか強く言えない……いや、才能は評価してるけど一歩踏み出せないって様子で答える。
「そこは勘でどうにかするしかないね」
「わかってますよ……レイオン、貴方に才能があることくらいは」
「リーゼに言われると照れるなぁ」
「才能があるんだ?」
「レイオンさんの合成術の成功率は他の合成術師と比べるのが失礼な程高いのは確かです」
リーゼに褒められてレイオンは胸を張って答える。
とはいっても小柄だからあんまり偉そうに見えないけど。
「なんとなく、何が出来るのかわかるよ?」
「失敗してるじゃん」
俺はソードウルフを指差して答える。
だって、これ、失敗なんでしょ?
「他の合成術師の作る品よりは良い物を確かに作るんですよ。失敗でも」
「そうなの?」
「はい。ちゃんと生きているソードウルフを作るのはそれはそれで難しいそうです」
バウバウと檻で吠えるソードウルフに目を向ける。
「もっとウルフっぽかったり剣が中途半端に生えていたりする出来そこないが出来る事が多いとか……そもそも死んでいる毛皮から作り出すのは相当の技術が必要なんですよ」
「大失敗はした事無いよ」
失敗でも凄い物を作っているとかそういう感じかな?
「何か今までの学科に比べて格段に難しいのはわかったけど……それで俺達はレイオンに何を頼むわけ?」
リーゼ自体は乗り気じゃない、けど手段も選んでいられないって様子だ。
「他の学科の方々と同じく、レイオンさん達にも手伝ってもらうだけですよ」
「失敗がかなり怖そうだけど?」
「そこは魔物とかが出来ない組み合わせで実験をする事になるんじゃない?」
「そうなんですけどね……何分、セイジさんが持ち帰った物は数がそこまでないので……」
「装備品や毛皮の類、後は骨とかスクロールとかかな?」
改めて持ち帰った品々を思い出しながら話す。
「失敗時のリスクが高い物が多いね。武器や防具に予備があれば合成術で別の武器にするとか出来るけど」
「持って帰った武器や防具にも限りがあるからなぁ……」
なまくら剣とアイアンピックしかない。
こんな状態じゃ使うのは躊躇われるし、甲羅の盾とスケイルシールドだと魔物が出現しそうで怖い。
胸当ても同じだ。
他にも色々と無い訳じゃないけど、こう……未知数な要素に挑戦するほど良い状況でも無い。
「ムウ?」
仕事を終えたのかフェールカが水車小屋から出て来てやってくる。
「実験に何か使うのも時には必要な事だと思うな」
「まあ、そうなんだけどね」
上手く行けば鍛冶科よりも手早いのは分かるしキワモノ武具も作成可能って事だろう。
失敗が怖いけど。
「単品でも大丈夫だよ。その場合ならまだ大きな失敗は無いと思うし」
え? そういう事も出来るの?
「わかった。とりあえず河童の甲羅をお願いしようか」
「ここでやるんですか!?」
リーゼが俺に異議を唱える。
確かに危険そうだけど。
「倒した魔物を考えれば勝てなくは無いはずだから……それにどっちにしても避けて通れないならやってみるしかないと思うよ」
「まあ……そうですけど、念の為に城の騎士さん達に集まってもらってからにしますからね」
「うん」
こうしてリーゼが城へと申請し、戦える者を集めた上で合成を行う事になった。




