プラントウィップ
同じ材料で別の物が出来る?
「……?」
どうやら合成科とはそういう物らしい。
言おうとしている事はわかる様な、わからない様な?
「同時に錬金科では出来ない事が出来るのも合成科ですよね」
「まあね。だからこそ面白いんだけど」
「リーゼ、レイオン、どうもピンとこないんだが、もっと詳しく教えてくれないか?」
「いいよ」
レイオンはそう言ってから近くに置いてあった紙でペンを持って薬草名を書き込んで行く。
簡単な文字で書かれていて、少しだけなら俺も読めるようになってきているので何か分かった。
「薬草パージと薬草レンモを錬金術で組み合わせて調合すると出来るのはヒーラリアって薬なんだ。効果は傷薬だよ」
「うん。それはわかった。じゃあ合成術だと?」
「目当ての品によるけど薬草ミルカッセになる」
調理の仕方で出来あがる料理に違いがあるみたいな感じだろうか?
材料が同じでも作り方が変われば別の物になるのは不思議じゃない。
「錬金術の場合は鍋とかすり鉢とかで混ぜ合わせるけど、合成は水車を使う感じなのも違いがあるね」
「それで……結果が違うのはわかったけど」
何が出来るのかよくわからない。
「普段はそうですね……冬にしか自生しない薬草があるとしますね。季節は夏です。保存して無い場合どうしましょう?」
「ゲートに調達に行く?」
「それも手ではありますが、ある保証は無いです。そういう時に頼るのが合成術なんですよ」
「そう。冬に手に入る薬草を、他の薬草を組み合わせて作れる訳」
交換出来るって思えば良いのかな?
だけど……レイオンの説明やリーゼの態度からこれだけじゃないのはなんとなくわかる。
「さっきレイオンは目当てに品によるけどって言ってたよね? じゃあ別のも出来るの?」
「あ、やっぱりセイジは気づいたね」
「ええ、そうなります」
んー……何だろう。
説明が象徴的でわからない。
この不可解さが生徒の少なさなんだろうか?
「セイジさん、その考えで合っています。よくわからない。失敗するかもしれないが付きまとうのが合成術ですから」
「心外だなぁ。ちゃんと確立した物が出来る組み合わせも多大にあるんだよ?」
「確かにそうですけど」
「錬金術の薬の調合だって混ぜ方を間違えたら失敗するじゃないか。おんなじおんなじ」
入浴しながら言わないでほしい。
というかサッサと出てくれ。
目のやり場に困る。
「ちょうどそこの漬けておいた樽にそれぞれ同じ物で別の物が出来てると思うから開けて確認して良いよ。本当は開けると漬けるのが終わって確定しちゃうんだけどね」
レイオンが指差す二つの漬け物を入れているツボみたいな物がある。
その上には同じ文字で組み合わせと熟成期間っぽいのが書かれてる。
「大丈夫ですよね? 失敗は……無いですよね?」
なんか……凄く不安そうにリーゼが答える。
「凄く危険なの?」
「ええ、正直言ってかなり危険な研究扱いもされる学問です。錬金術の禁忌に軽く足を踏み抜いて行きますから!」
うーん。このリーゼがここまで言うって相当なんだろうな。
もしくは真面目なリーゼからすると宗教的に受け入れ難いものとか?
俺は恐る恐る。
二つのツボの石を退けて片方の蓋を開ける。
中には……水に浸った草が入っていた。
「それがミルカッセ、上手く出来てて良かったね」
「じゃあこっちは?」
「今なら問題ないかな?」
恐る恐る俺は蓋を外して中を見る。
うごうご……ツボの中で何か……パッ○ンフラワーみたいのが蠢いていた。
完全に魔物だ。今にも襲ってきそう。
俺はバタンとツボの蓋を閉じて漬物石を置いた。
「凄く早く中身を確認したね。すごーい!」
「なんだコレ!?」
「開けちゃったらもう結果は変わらないかなー。そんな感じで蓋を開けるタイミングで出来る物が変わるのが合成なんだ」
「何か食虫植物みたいな何かが入ってた! 絶対に違う何か!」
「やっぱり危険じゃないですか!」
ガタンガタンとツボが揺れて蓋をどかそうと中の植物が蠢く。
「フェーリカーお願い」
「ムウ!」
ドサッと漬け物石を外してフェーリカが蓋を外す。
すると謎の植物がツボから跳躍して飛び出した。
俺はどうの剣を握りしめて構える。
距離はそんなに無いけど相手はそんなに強くは……無いと思いたい。
「ムウ」
スローモーションの中でフェーリカが器用に暴れる植物をキャッチして握りしめる。
植物は抵抗しても無意味とばかりにフェーリカの拘束は強い。
やがてフェーリカの腕に植物が纏わりつこうとしている訳だけど……。
「ムウ!」
パクッとフェーリカは謎の植物を頬張ってシャリシャリと咀嚼し始めた。
「さーて、じゃあお楽しみタイムだねー。セイジも見ててよ!」
「まさか!?」
リーゼの顔が真っ青になる。
なんだ? そんなにやばい事をするのか?
「フェーリカさんの合成術もセイジさんに見せる気ですか!?」
「じゃなきゃ合成術がどんな物かわからないじゃないか」
完全に余裕を見せてレイオンが答える。
見せられてもわからなそうなんだが……。
「いや、さっきのどう見ても怪しさ抜群の謎植物だけで十分なんだけど……」
「セイジ、何かいらない物は無い?」
「え? うーん……」
「じゃあそこの縄で良いか」
レイオンがフェーリカに指差すと咀嚼していたフェーリカが縄を持って……また頬張った。
やがてゴクリと飲みこむ。
「……」
凄い物を食うな。この生き物。
初めてあった時から視線が外せないぞ。
いろんな意味で果てしない。
「ムウムウムウ!」
なんか……フェーリカがくるくると踊り始める。
巨体が踊る訳で、狭い水車小屋でドスドスと音が響き、ぶつからない様にする為、俺達は動く事が出来ない。
「あの、フェーリカさん! お願いだから絶対に失敗しないでくださいね!」
「ムウムウ!」
表情豊かなフェーリカの顔から見ると任せろと言っている様に見えるけどー……。
何をする気だろう。
……三十秒くらい経過したと思う。
「ストップ! フェーリカ」
「ムウ!」
スタッとフィニッシュを決めたフェーリカだったのだが、腹部がボコボコと動きめきだした。
う……これはフェーリカの腹部を突き破ってあの危険植物が出てくる前触れ!?
ボコっとフェーリカの腹部を伝って喉が膨れ……ペッと吐き出した。
その手には……茨の鞭?
プラントウィップ ★ 付与効果 誘導命中
「ムウ!」
フェーリカはその鞭を俺に手渡す様に差し出す。
え? 受け取るの?
「セイジさん、気を付けてくださいね。いえ、捨てるのも時には必要な事です」
「えっと……」
とりあえず受け取る。
うん。普通の鞭……とは違うっぽい。
先端に先ほどの謎の植物の頭がある。
けど、まったく動く気配がない。
「これが合成術だよ。やり方次第で時期ではない薬草も作れれば魔物、果てには特殊な武器や防具を作れるんだ!」
誇らしげに言うレイオンだけど、俺はそれどころじゃない。
「付与効果の誘導命中って何?」
「そこにあるコップを鞭で採ってみたいと思って振るって見て」
「ん? こう?」
軽く振るった。
すると植物の頭が俺の当てたい所にニューっと動いてコップを掴んで勝手に引き寄せた。
うわ! かなり便利な道具なんじゃないか?
「あんまり信じちゃダメですよ! 失敗作をリサイクルしただけです!」
「とりあえず……合成術ってのはなんとなくわかったけど、新たな謎……というか会った時から謎だったんだけどさ」
俺はフェーリカを指差す。
そう、この生物が不思議でしょうがない。
「フェーリカって……何? 使い魔?」
「ムウ?」
「えっと……フェーリカさんは合成獣と言われる合成術師の補佐をしてくれる特殊指定飼育魔です」
飼育魔?
使い魔と何が違うんだ?
用語が多くてよくわからない。
まあ異世界に馴染んでいない俺が異世界の生徒であるリーゼ達の知識を理解できる程、簡単じゃないんだろうけどさ。




