ブラウンキマイラ
ブルーマンティコアをどうにかしなければならない。
方法として考えられるのはスクロールで何かする方法だ。
今、俺が持っているスクロールは五つ。
道中拾った奴ばかりだけど。
ヒールLv5。残数2
キュアLv5。残数5
バーンフレイムLv5。残数2
シャイニングLv5。残数4
アクアシールドLv5 残数3
と、現状を突破出来そうな物は無い。
「ガアアアア!」
視界が回復したのかブルーマンティコアの声が聞こえる。
覗き見ると、俺を探して辺りを見渡している。
ここは逃げるのも手だな。
恐る恐る……俺は逃げようと――。
「ガアアアアアアアアア!」
ブルーマンティコアの声が上から聞こえてきた。
顔を上げると、ブルーマンティコアが空を飛んで俺を発見していた。
くそ、逃げられそうにないぞ。
リーゼ……ごめん。俺はここで死ぬかもしれない。
やるしかないか!
ギュッと槍を持つ手に力を込めたその時!
大きな黒い影がブルーマンティコアの背後に現れた。
「!?」
ブルーマンティコアが驚いて振り返る。
「ガォオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
そこには、獅子、ヤギを持ち尻尾には蛇を宿す、マンティコアよりもメジャーな幻獣。
茶色い……色をした大きなキマイラが蝙蝠の翼を広げ、獲物を見つけた瞳で遠吠えをしていた。
ブルーマンティコアの三倍くらい大きな化け物だ。
そんな化け物がブルーマンティコアを見つめていた。
蛇に睨まれたカエルの如く、茶色いキマイラ……ブラウンキマイラに睨まれたブルーマンティコアは動けずにいた。
次の瞬間。
ガブゥっと音を立てて、キマイラの獅子の頭が口を開いてブルーマンティコアに喰らいついていた。
そのまま着地したブラウンキマイラはブルーマンティコアを捕食する。
俺は息を殺して、岩陰に身を潜めていた。
ブルーマンティコアに勝てないのに、そのブルーマンティコアを即死させるブラウンキマイラに勝てるはずもない。
やがてブラウンキマイラはブルーマンティコアを食いきって満足したのか、翼を広げ、飛び立っていった。
た、助かった……のか?
今はまだ、出る時じゃない。
そう思いながら恐る恐る、ブラウンキマイラが飛んで行った方角を見る。
ん? かなり遠い所だけど、淡い光が見える。
目を凝らすとそこだけ不自然に人工的な……石で組まれた門とその門の中にある光る渦が見えた。
まさかあれは……出口?
そこを守るかのようにブラウンキマイラは門の前に座り込んで眠り始めた。
……もしかして門を守護する魔物とかそんな立ち位置なのか?
ボスという奴……あんなの勝てる訳ない!
と、とにかく、今は引き下がって少しでも道具を揃え、Lvを上げる事に専念しよう。
ブルーマンティコアは……いないな?
……念の為に斬り飛ばした尻尾は持って行こう。
俺はそのまま、拠点にしようとしていた洞窟に戻ったのだった。
「どうするか……」
拠点にした洞窟で座り込み、俺は腕を組んで考え込む。
現状の装備じゃ全く歯が立たないブルーマンティコア。
そしてそのブルーマンティコアを一撃で仕留めるブラウンキマイラというボス。
どうやらアレを倒さないとここから脱出できそうにない。
幸いにしてブルーマンティコアの生息数は少ない。
遭遇しないように心掛ければ問題なさそうだ。
あそこを突破する方法はフィールドが切り替わるのを待つというのも手だな。
いつ起こるかわからないけれど、いずれ起こる。
その時に弱い魔物が出るのを祈るしか今の所手段は無い。
ただ……フィールドが切り替わると出口の場所も変わりそうだ。
「あまり状況は芳しくない……か」
食料はどうにかなるが、水の調達が難しい。
今は飲み水の調達を専念していくしか……無いんだな。
洞窟の入り口を岩を積んで隠し、俺は就寝したのだった。
翌日、ブラウンキマイラやブルーマンティコアが根城にしている火山から離れた所に足を運ぶと、湖を発見した。
その道中、赤幼妖狐やファイアエンジェルと何度も交戦した。
どうにか生き延びられている。
水の調達が容易になったお陰で、生き残るだけならどうにかなりそうだ。
今は装備を揃えた方が良いな。
落ちている道具の中に切り札になりえる物もあるかもしれない。
そう思いながら探索とLv上げに勤しむ事にした。
とりあえず、赤幼妖狐とファイアエンジェルを倒し、Lv20まで上げた。
まだまだ先は長そうだ。
スケイルシールドも補修しているが、徐々に傷が増えて行っている。
修理させるにしても、材料が無い。
ブルーマンティコアの毒を軽減できるのだから損耗は抑えるべきだ。
河童の甲羅の盾を使って行こう。
そんな感じで倒せる雑魚と戦っている。
専用装備って訳じゃないんだろうけど、そこで手に入れたのは『幼妖狐のケープ』。
『幼妖狐のケープ』★★★ 付与効果 耐寒 幻覚耐性
首に巻くマフラーだな。
可愛いデザインだ。ただ、暑い!
火山地帯で何が悲しくてマフラーを巻かないといけないんだよ!
と、暑さでイラッとしてきてしまう。
湖の水面に映る自分の姿を見ると、あまりのちぐはぐな格好に涙が出てくる。
何だこの格好……。
落ちている道具も、小ぶりの金槌とかやっとことか、鍛冶をするかの様なモノばっかりだし……。
どれも錆びているし。ゴミ寸前だ。
何かの役に立つかもしれないから一応集めたけど。
うーん……早く、フィールドの切り替わりが起こってほしい。
進めないって結構、やきもきする。
スクロールとかあんまり落ちてないからダメージを受けないようにしないと。
なんて思いながら……探索していると、黒い液体が溢れる場所を発見。
「なんだ? これ?」
どぷどぷと地面から溢れだしているこの黒い液体……。
採取するにもなぁ……なんだろうこれ?
一見するとコールタールっぽい。
ただ、なんか匂いとか色々と違う。
冷えた所を触ってみるとむしろ蝋みたいな感じ?
うーん。
何かに使えそうだけど、答えが出てきそうにない。
そんで見つけたのが二振り目の錆びたどうの剣。
効果もほぼ同じ。
どうしたものか……折れた時の予備にでもしておくか?
なんて思っていると屋根が抜け落ちた……かまどがある施設を発見する。
「なんだ?」
溶鉱炉とかなのかよくわからない廃墟だ。
リーゼと街を歩いた時に見た工房とかよりも小さく、劣化が激しい。
ただ、その半壊した工房の奥に組まれたかまどが気になった。
某パンチするパンの工場のかまどみたいな感じで半開きに開いた窯。
その隣にはレバーがあって、徐に動かすとガツンと言う音がして溶岩がかまどの中を潤滑して行くように見える。
……使い方がいまいちわからないけど、鍛冶工房って奴?
「よし!」
前回使っていた錆びたどうの剣を使って見よう見まねで鍛冶に挑戦する事にした。
どうの融点は千度前後で溶岩の温度は七百から千二百。
やっとこでどうの剣を掴んで、窯の中にぶっこむ。
このまま溶け落ちてしまうかもしれないが、今の所問題はなさそう。
ぶっちゃけ無謀だと思っている。
だけど錆びたどうの剣を鍛え直すとかやってみないとわからないじゃないか。
出来ることから挑戦するしかない。
少し前に洞窟内でアイアンピックを使って数時間掘削もしてみた。
何か綺麗な宝石っぽいものも手に入った。
確か、ファイアクリスタルだったかな。
『ファイアクリスタル』★★★
なんか良い感じの物だとは思うけど。使い道が不明だ。
色々な加工にも使えるってリーゼが言ってた魔晶石も準備してある。
もはややけくそ気味に挑戦している気がしてきた。
どうの剣を窯から取り出す。
金槌でカンカン叩きながらファイアクリスタルを剣の柄の部分に打ち込む。
かなり硬い宝石みたいだ。ダイヤだったら砕けてるぞ。
ダイヤって硬さは一番だけど、衝撃に実は弱い。
金槌で叩くと簡単に砕ける。
で、やけくそ気味にカンカン叩いて大分形が整った元、どうの剣を魔晶石とあのコールタールっぽい奴……マジックアデーションの上において、スクロールを広げる。
「バーンフレイムLv5!」
ゴッと火の弾が元、どうの剣と魔晶石を焼き焦がす。
おお、魔晶石が光を放ちながら引火したように、燃え上がり始めた。
光の帯が綺麗だ。その光が何故か、元どうの剣に埋め込んだファイアクリスタルに吸い込まれて行く。
後はやっとこで掴んで……ってあっち! やっとこの先が溶けてる!
そのままニューっとやっとこが吸い込まれて行くぞ!
なんだこれ!?
鉄だからか?
落ちてた金物のゴミを振りかける。
すると謎の現象が起こり、金物が元どうの剣と融合して行った。
何か上手く行きそうな予感!
再度、予備のやっとこで元、どうの剣を掴んで、水に浸す。
ジューッと音がして急速に冷え切って行った。
アナライズリングが反応を示した。
『デコボコのなまくら剣』+5★★★が完成しました!




