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応急修理

 リーゼがくれた白銀の剣が折れてしまった……。

 咄嗟に俺はリーゼに申し訳ない気持ちが溢れ返っていた。

 く……手持ちの武器は錆びたどうの剣しかない!

 咄嗟に剣に手を伸ばし、折れた白銀の剣の部分を蹴り飛ばして深々と突き刺す。


「ゲコオオオ!」

「喰らえ!」


 切れ味を度外視してグリーンフロッグにどうの剣を叩きつけた。

 ズバッと良い感覚。


 へ?

 グリーンフロッグが一刀両断?

 どうの剣とグリーンフロッグを両方見る。


「あれ?」


 この剣、実はすごい切れ味なのか?

 アナライズリングじゃ装備した武器の性能を完全に見ることが出来ないからよくわからない。

 ゲームの様な数字で出てくれるとありがたいけど。


 ★の数が影響しているのかな?

 いやいや……。

 とにかく、リーゼ。ごめん。


 そう思って、目を瞑る。

 リーゼは何度も何度も意識を集中させては召喚を行っていた。

 理論が失敗したとかで羊皮紙に計算を何度もしては材料を集めている。

 ロザリーが一度顔を出し、俺がどの辺りにいるのかと話し合っていた。


 絶対に、俺は生きて帰って見せるから待っていてくれよ!

 心で謝罪しながら俺は草原を進んで行った。

 すると窓が割れていて壁もすすけているけれど木製の家を発見した。


「誰かいませんかー?」


 家に近付いて、中を確認する。

 ……誰もいる様子が無い。生活臭の類が感じない。

 廃屋と言う表現がぴったりの家だった。

 そういえば持ち主のいなくなった家もゲートに消えるとか言っていた。

 こんな風に現れるのか。


 しかし、どうする?

 休息を取るには良さそうだ。

 俺は廃屋で休息を取る事に決めた。


 それから軽く補修を行い、ベッドには落ちてた藁を纏めて作った。

 後は食事だけど……と思った所で空腹を感じる。

 リーゼが用意してくれた携帯食料は既に食べてしまった。


 後は……薪を拾って、スクロールで火の魔法を唱えて家のかまどに火を付ける。

 その上から倒した魔物の肉を焼いた。

 魔物の襲撃に備えて、細心の注意を払っている。

 今の所襲い掛かってくるような気配は無い。


「ふう……」


 食事を終えた俺は一息ついた。

 どうなるかと思ったけど、戦えている。

 拾った装備品を繋いでやっと生き残っている所だけど。

 なんだかんだで広い場所みたいだ。迷宮と言うのは。


 確かに……迷宮と呼ぶにふさわしい場所だ。

 ……日がいつまで経っても沈まない。

 リーゼの方を見ると日が暮れていた。

 不思議な……場所だな。

 藁の中に隠れ、盾を上にして不意打ちに警戒しつつ、俺は廃屋で眠る事にしたのだった。



 翌日。

 正確には翌日なのかよくわからない。

 寝て起きたと言う所だ。

 リーゼの視線で見る限り翌日だった。


『また失敗……』


 ずっと俺を召喚しようと必死に魔法を唱えていたリーゼをロザリーが止めて休ませたのは夜深かった。

 目が覚めるとまたリーゼは魔法を唱える。

 なんか薬みたいのを飲んでいた。魔力を無理やり回復させて、召喚しようとしているのかもしれない。

 早く帰らねばいけないのに、手段が思い浮かばない。

 焦ると危険だと本能が囁く。


「よし! 出発だ!」


 廃屋を後にして、俺は道を進んで行った。

 そこで新しい魔物、橙河童と言う瓢箪水筒を持ったオレンジ色のカッパと遭遇!

 うん。河童だと思う……。

 なんかずんぐりむっくりの一頭身っぽいファンシーな生物にしか見えないカッパだけど、皿と甲羅を背負ってる。


「クエエエエエエエ!」

「ほ!」


 橙河童は口を大きく開いて何かを吐きだした。

 だから咄嗟に盾を構えた。

 これが正解だった。高圧縮された水の刃が放たれたのだ。

 ガツンと盾にぶつかった。


「うお!」


 盾が弾き飛ばされる。その後、橙河童は水筒に口を付けた。

 やべ! 第二射が来たら耐えきれない。

 どうの剣を強く握りしめて近づく。


「クエエエ!」


 接近された事により、橙河童がツメの生えた水かきで俺に切りかかる。


「ぐ……」


 右肩を袈裟懸けにされる。

 辛うじて銀の胸当てが抑えてくれたけどヒビが入って今にも壊れそうだ。


「だりゃああああああああああ!」


 ガツンと橙河童の頭の皿にどうの剣で打ちつける。


「くああああああああ!?」


 橙河童は目を回したかのように一回転して倒れた。

 さすがに頭を割られたら致命傷だろう。


「いててて……」


 リュックに入っている、拾った『ヒールLv4』残弾3を使用してみる。

 使用する相手を誰にするかの項目がアナライズリングに表示されたので自分を選択。

 するとみるみる傷が治って行った。


「ふう……」


 便利だなと思う反面。損失を考える。

 くそ……銀の胸当てまで破壊されてしまった。

 ダメージを受けなきゃ良いとかを考えるが、こう言う事態が遭った時に同じ事が言えるのか?


 ポロっと橙河童が何か落とす。

 確認すると、箱だった。

 開けてみるけど何も入っていない。


「なんだこれ?」


 アナライズリングで確認する。


『河童の箱』★★★


 今はいらない。完全にゴミだ。

 くそー……ドロップもゴミとかどうするんだよ。

 そう思いながら、河童の甲羅を剣で突く。

 コツンコツンと良い音がした。

 ……うん。やるしかないだろ。



「さてと」


 河童を解体して、甲羅を外し、近くに生えている頑丈な草を紐にして銀の胸当ての割れた銀の部分に宛がった。

 後は昨日調理したパープルオウルの羽毛を巻きつける。

 応急修理だけどどうにかなった。

 アナライズリングで確認すると変化が起こっている。


『羽毛付き甲羅の胸当て』★★★ 付与効果 重量軽減 防御アップ


 星が増えている。これは運が良い。

 というか、応急で作った装備とかも反映されるんだ。


 幸運にも戦えているお陰か大分強くなった錯覚を覚えているけど……さっきの怪我と胸当ての破損が頭に過る。

 一対一で戦えているからどうにかなるんだ。

 これで複数来たら間違いなく摘む。


 と思ったところで咄嗟に隠れる。

 橙河童が三匹、遠くを歩いているのを見つけた。

 ……やっぱりそうか。

 細心の注意を払わねば危険だ。

 橙河童から奪った水筒をリュックに入れて、俺は探索を続ける。



 翌日。

 橙河童との戦い方もある程度慣れてきた。

 こちらに気付いていないなら河童の皿目掛けて落ちている石でも割れた皿の欠片でも良いから投げつけて皿を割り、目を回している隙に、柔らかい腹部に剣を突き刺す。

 それだけで大分戦闘が楽になった。


 後、甲羅が何個か調達できたので、接近まで盾にするのも効果的だった。

 やはり同族だからか、あの水の刃への耐性が高い。

 スケイルシールドでは跳ね飛ばされてしまうけど、甲羅を盾にしていると耐えきれた。

 しかも甲羅を持っていると恐れて逃げてくれる奴もいる。


 この辺りはやはり現実だ。

 魔物だって馬鹿じゃない。

 同族を殺している証拠を見せつけられれば恐怖を抱く。

 逃げることが出来るなら逃げるだろ。

 報復されるのが怖いけどさ。


 後は橙河童が落とした道具と言うと。


 『河童の腕輪』★★★ 付与効果 水耐性

 『河童の槍』★★★ 付与効果 水弾発射


 腕輪であの水の刃に耐えられるなら良いのだけど、試す度胸は無い。

 槍の方は橙河童相手だと、どうの剣に劣る。

 突くと水が飛びだす。定期的に水を補給しないといけないみたいだ。


 最初は物凄く重く感じたけど、Lvが上がったら軽くなってきた。

 現在のLvは14。

 順調とも言えるが……どうなのだろうか。


 イエロースカイニシンやグリーンフロッグにもダメージが期待できない。

 どちらも水属性っぽいから、効かないんだろう。

 幸いなのはパープルオウルにはある程度良いダメージを与えられる所かな。


「しかし……何処まで続くんだ?」


 この場所で出てくる魔物はパープルオウル、イエロースカイニシン、グリーンフロッグ、橙河童の四種類みたいだ。

 どれも対処法がわかったので戦えなくは無い。

 だが、この迷宮自体がどうなっているのか全くよくわからなくなってしまった。

 何せ、マッピングしているのに全貌がわからない。


 同じ道があるので形が変わっている訳ではないのはわかるんだけど。

 場所が広すぎるのだ。

 日本にいた俺の基準で言うのなら、一つの市くらいは歩いた。

 なのに出口らしきものが見当たらない。

 リーゼ達が教えてくれた出口を指し示すオイルタイマーもくるくる回っていて、役に立たないし。

 当ても無く探索するしかない。


 何、戦えているんだ。

 出口さえ見つけられれば帰ることが出来る。

 なんて気楽に思い始めていた。

 そんな俺に迷宮は……。


「ん?」


 辺りに風が吹き、草原が揺れる。

 何が起こっているのかと思って、空を見上げると、夕方に……ってなんだ?

 地平線から光の筋が俺の方へ向かってくる。


「なんだ!?」


 急いで逃げるがあまりにも早い!

 スーっと光の筋が通り過ぎ、乗り物酔いの様な感覚を覚える。

 ふと、足を止めて辺りを確認した。


 俺は……リーゼが教えてくれたことをすっかり忘れていた。

 迷宮内は一定時間毎に……姿を変えるという事を。

 それは、何も迷宮内の迷路の形では無く、その本質からもだ。

 俺が今、立っている場所は……どうやら火山帯のようだった。


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