届かなかった贈り物
それから半月後、突如父宛にシルフェン公爵家から手紙が届いたと、皆の集まるサロンに呼び出された。
内容は『ヴュートとフリージア嬢との婚約について話し合いたい』と言うものだった。
前世には無かった手紙に戸惑う。
そういえばここ半年くらい前からだ。
月に一度交わしていた手紙は、ヴュートから届かなくなり、私の誕生日にも音沙汰も無しだった。
最初は彼の安否を疑ったが、ヴュートの活躍は新聞の誌面を常に賑わせており、彼の無事な様子に安心するも寂しさは拭えなかった。
十四歳になったカルミアが慰問に行ったことにより、彼の思いは既にカルミアにあるのかもしれない。
去年のヴュートの誕生日プレゼントは確かカフスを贈った。今年の贈り物も当然すでに用意されていたけれど、贈らなかった。
何故なら、彼からの返事は来ないと分かっているからだ。
プレゼントを贈らなかったことが『婚約者としてふさわしくない』と私に見切りをつけるきっかけにでもなったのかしら。
そんな些細な事で彼に婚約破棄の理由を与えた?
そもそも聖女であるカルミアに嫉妬をし、いじめているという噂が蔓延しているくらいだ。些細なきっかけでも婚約破棄に転ぶことは容易に想像出来る。
婚約者を私からカルミアに代えたいなら、それで結構だわ。
ヴュートも騎士団から一時領地に帰る時間がもらえたと言うことで翌週、彼らと会うことになったと不機嫌そうに父が言う。
婚約破棄でもなんでも上等だ。むしろ喜んでサインしますとも。
そんなことを考えていると、いつも以上にピリピリしている父に睨みつけられる。
「フリージア。これはどういうことだ? ヴュート殿から何か聞いているか?」
苛立ちを全面に出した父が手紙を見せつけるように私に向かって押し出しす。
「いいえ。存じません」
そう答えると、横からものすごい剣幕で祖母が口を挟む。
「フリージア! 貴方、この結婚がどれだけ大事なことか分かっているの⁉︎」
「もちろんです、理解しております」
ソルト家の商売には欠かせない結婚ですもんね。
そう内心悪態をつくも、もちろんおくびにも出さない。
「ねぇ、お父様、お祖母様。きっと何も心配いらないと思うわよ」
ふふふっと笑いながら、カルミアがのんびりとした声で言った。
「カルミア、何が心配いらないと言うんだ。わざわざ騎士団の任務から一時的といえど帰ってくる程なんだぞ。ただでさえフリージアは悪い噂が出回っているんだ。万が一婚約破棄だなんて話が出たら……」
カルミアが、ふふふと微笑みながら父に言う。
「そうなったら、私がお姉様の代わりに婚約者になればいいのよ。つい最近騎士団に慰問に行った時も、ヴュート様が『カルミア嬢は特別だ』って言ってくれたもの」
そう自分で言っておきながら「キャッ」と頬を染める妹を冷たい目で見つめる。
結構、結構。
やはり、既にそういう関係だったのなら私の出る幕はなく、ひっそりアカデミーに通うのが最良の道だろう。
そう考えながらも、胸の奥に黒く、重たいものが溜まっていく。
カルミアの話を聞いた父も、「そうだな、聖女というだけでなく、こんなにも愛くるしいお前なら誰もが花嫁に迎えたいと思うだろうな」とあっさり自己完結をし、もうこの話は終わりだと私に退室を促した。
ふと時計を見上げると時計は十二時を指していた。
「お父様。今日は王女殿下からお茶会に招待していただいているので今から王宮に行って参ります」
「王女殿下からお前をお茶会に?」
眉根を寄せた父が訝しげに言った。
それもそのはず。カルミアは頻繁にお茶会に誘われて外出するが、私は悪い噂のせいかお声のひとつもかからない。かかっても行く気も無いけれど……。
「え、ずるーい! 私も行きたい! そういえば私、王女殿下のお茶会にまだ行ったことが無かったわ」
カルミアが、当然行けるものだと、メイドに外出の準備をするよう指示を出す。
「でも、招待状は私一人だから。約束も無しに行くなんて無礼なことはできないわ」
「いいじゃない。妹にそんな意地悪をするなんて信じられない。この子は聖女よ。どこに行ったって歓迎されるに決まっているじゃない」
「その通りだ、フリージア。つまらん意地悪などせずカルミアと行ってこい。そんな性根が腐っているからいつまで経っても悪評が消えんのだ」
意地悪じゃないから。
礼儀です。
王族に突撃訪問なんてあり得ない。
そう思いながらも、カルミアが言うことは全て正しいと思っている父や義母に逆らうような真似はしない。
逆らったところで話が通じる相手では無いのだから。
王宮に入れなかったらそれはそれで諦めていただこう。その時私はどうすることもできないのだから。
王宮に着くと、門番が確認のため声をかけてきた。
「本日は、フリージア・ソルト嬢お一人と伺っておりますが」
模範的で真面目そうな騎士がこちらの様子を窺いながら言った。
カルミアは髪飾りのお気に入りのリボンをいつものようにくるくると指で弄びながら笑顔を浮かべる。
「こんにちは、門番さん。急遽私も参加させていただくことになったのよ。私はカルミア・ソルト。聖女のお仕事もしているから入っても問題ないでしょう?」
問題ないわけなかろうが!
何その『聖女のお仕事もしてるから』って紹介。
おかしかろう!
どんな緩い門番でもアポ無しの人間を簡単に通したりする訳ないじゃない!
と心でつっこむも、黙っておく。
「申し訳ございません。王女殿下に確認して参りますのでお時間をいただけますか?」
「何ですって? 私は聖女だって言ってるでしょう? 貴方自分の立場……」
「おやめなさい、カルミア。立場を振りかざすならそれに相応しい振る舞いをなさい」
あまりの子供じみた言葉にこちらが恥ずかしくなる。
「どう言う意味よ」
ジロリとこちらを睨みつけてくるカルミアにため息をつく。
「貴方がここで我儘を通して誰が一番被害を被ると思うの? 門番の騎士様はご自分の責務を全うしていらっしゃるのであって、貴方に意地悪をしているんじゃないわ。ましてやここは王宮よ。特別待遇の貴方を通して首が飛ぶのは彼なのだから。物理的に飛ばないという保証はないわ」
「そんな言い方って無いわ! お姉様ひどい!」
わあっと泣き出した妹に門番が、「カルミア様もご案内させていただけるか聞いて参りますから」と、他の門番に後を任せて去っていった。
その時、私を睨みつけるのを忘れずに。
何で私が睨みつけられるのよ!
今私、貴方を庇わなかった⁉︎
そう腹が立ちながらも、いつものことすぎてどうでも良くなる。
老若男女問わずいつだってこうなのだ。
私が何か言って、カルミアが瞳を潤ませただけで私が全て悪いのだ。
もはや幼い頃からの定番の流れに、何の疑問も浮かばない。
「何を騒いでいるの?」
そこに現れたのは、先ほどの門番を従えた燃えるような赤い髪の女性が立っていた。
その人物こそ、オリヴィア=ウォーデン第一王女だった。
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