消えた取り巻き 2
「なんで、お姉様があそこに天幕を張っているのよ! オリヴィア王女にヴュート様、あのいけ好かない聖女まで一緒に……。いい気になってんじゃないわよ!」
ヴュート様と姉が婚約者である事を見せつけるかのように、明らかに揃いの衣装で来ている。
しかも、欲しかったデザインのドレスで、私が注文したものは納期が間に合わなかった。
近くに有った水差しやカップを、叩きつけるも気分は全く晴れない。
神事に失敗した日から気分は最悪だ。
あの翌日、アカデミーに登校してすぐに神事に一緒に来た令嬢達に神事の手伝いをさせてあげると言ったら、三人が口を揃えて「私達には荷が重すぎる」と断られた。
星見や古代文字のいい教師を紹介すると言ったが、何とも言えない表情で再度断られた。
その後、声をかけてきた侯爵子息達に泣きついてお姉様に失敗の謝罪をさせようとしたけれど、今までにない姉の態度に思わず引き下がってしまった。
「父」に弱いはずなのに、言いつけると言ってもその目の色に怯えがなく、腹立たしい結果に終わった。
姉の側にいつもオリヴィア王女とヴュート様がいるからか、あの侯爵家の子息達だけじゃなく、私の周りの男の子たちももう姉の事を愚痴っても、少し困った顔をするだけで行動してくれない。
それどころか、私が声をかけてあげようとしても、スッと視線を外してどこかに行ってしまう。
誰かに神事の手伝いをさせなくてはと思うも、最近側にいた他の令嬢達はいつの間にか授業の席も遠いとこに座っているし、集まってこない。
極め付けは教師の態度だ。
課題の紋様を姉がやらないから、出せないままでいると、授業の初めに「カルミア嬢だけ提出していない」とみんなの前で言われた。
「聖女の仕事で忙しい」と言っても取り合ってくれない。
それどころか、教室のどこかでクスリと笑われたのも聞こえ、屈辱だった。
周りにやらせようと思ったけど、なんやかんや理由をつけては誰も首を縦に振らない。
仕方なしに自分でやって提出すると、「ふざけてるのか! 五歳児でももっとまともな紋様を描く。冗談はほどほどにしろ」と怒られる始末。
こちらは至って真面目だというのに。
姉の紋様と何が違うのか分からない。
お父様もあれ以来私になんだか冷たいし、それに母も不機嫌だ。
それもこれも全て姉のせいだ。
あの神事の失敗がなければこんなことになる訳がない。
今回の聖女の催しで名誉を挽回しなくては。
いい気になっているあの姉の、悔しさに歪む顔が見たい。
――世界は私を中心に回っているのだ。
✳︎✳︎✳︎
オリヴィアが皆で昼食をしようと言うと、あえて天幕ではなく風通しの良い木陰に昼食の準備がされた。
公爵様と祖母は知り合いに挨拶をと言って天幕を離れている。
「カルミア嬢は浄化魔法を使われたことはありますか?」
シャルティ様が唐突に言った。
「え?」
「今日、彼女と浄化魔法の披露をする予定と伺っていますので」
「あ、そうなんですね。……どうでしょうか。慰問で浄化を行ったことがあるのではないでしょうか」
私の手伝いは神事の手伝いで、単体での浄化魔法を見たことはない。
各地の紋様を発動させるための神事とは違い、浄化魔法に準備はいらない。
ただ、私が神事で準備した浄化の紋様は問題なく反応していたので、使えるはずだ。
チラリとヴュートを見ると、その視線を受けたヴュートが少し考えた後、口を開いた。
「僕はカルミア嬢が騎士団の慰問に来てくれた時に見た記憶はないなぁ。僕の遠征は魔物退治がメインだったから見ていてもおかしくないけど……。魔素溜まりも近くにあることが多かったし。でも、浄化魔法の紋様は聖女でも作れないから、紋様のある場所でしか行えないのでは?」
ヴュートがそう言うと、シャルティ嬢が胸元から金のネックレスを取り出した。
そのペンダントトップは紛れもない浄化の紋様だった。
「これは代々ウィンドブル国の聖女に引き継がれる浄化の紋様です。カルミア嬢はお持ちではないですか?」
私は分からないので、首を捻るとオリヴィアが彼女の問いに答えた。
「当然、我がウォーデン国にもそういった持ち歩ける浄化の紋様はあるわよ。刺繍で刻まれた加護の紋や、金の手鏡の飾りに刻まれた結界紋、シャルティ嬢の持っているようなアクセサリー類の浄化の紋様とかね。ただ、紋様の警備面で常時聖女に渡しているわけではないのだと思うけれど。……聖女が使って初めて紋様は本物と分かるから偽物とすり替えられた事件も過去にあったみたいね……。実際街で売られている紋様はお守りとして売られているだけで、暁の魔女しか作れない紋は、実物と違ったりしてるものね」
「ウィンドブルでも、数年前に結界紋や加護や魅了の紋様などの盗難がありましたね。いくつかは闇ルートで取引されていたのを発見したのですが……。ここ百年暁の魔女が現れていないから、ああいった暁の魔女しか作れない紋様の紛失は国家の存続に関わりますよね」
「そうね、加護や浄化の紋様は各地でも劣化によって本来の力を発揮できなかったり、反応すらしないものもあって、その土地の死活問題よね……」
「そう言えば北のモンテローナ国は……――」
二人の会話を聞きながら食事の手が止まった。
『暁の魔女しか作れない紋様』……?
暁の魔女しか作れないのは『浄化の紋様』だけではない……?
さも常識のように会話する彼女達と、私の知っている常識が異なることに驚く。
今まで祖母の元で学んできただけで、外の世界と遮断されていたことに改めて気付かされる。
仲の良かった令嬢たちは離れていき、神事をする時も神官達との交流もない。
彼らの関心はカルミアだけだ。
勉強漬けとなった私と会話をする人は、祖母ぐらいのもの。
先日読んだ暁の魔女に関する本で気になっていた事を今日は確かめたいと思っていたが……。
チラリとオリヴィアの胸元を見ると、ペンダントトップは見えないが、私が渡したであろうペンダントのチェーンが見えている。
『加護の紋』
あれは紛れもなく本物。
あの紋様を作る時、魔力のほとんどを持って行かれたのだ。
心臓がドクドクと早鐘を打ち、会話が耳に入って来ない。
「シャルティ様。そろそろ浄化のご準備を願いますか?」
神官服に身を包んだ神官長と、数人の神官がいつの間にかそこに立っていた。
「ええ、すぐに参りますわ。それでは皆さん失礼致します」
そう言って席を立ったシャルティ様の後ろに見えるソルト家の天幕から、カルミアが神官を連れ添って歩いているのが視界に入った。
「フリージア、僕たちも行こうか」
ヴュートが席を立ってエスコートしようと手を差し出し、笑顔で言った。
「僕たちは『ショー』の最前列、特等席だよ」
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