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油断

「使い物にならない?」


 そう繰り返すと、オリヴィアが知らなかったのかと少し驚いた顔をした。


「そうよ。王家に保管してある石碑に刻まれた加護の紋が劣化のせいか欠けて、殆ど使い物にならないのよ、それで……」


「――うわぁぁ! 凄い! これ、全部ヴュート様が作ったんですか⁉︎」


 驚きと、歓喜に満ちたマクレンの声が、オリヴィアの話を中断させた。


「な、何……?」


 ただならぬ喜びの声に、オリヴィアの意識は完全にそっちに持っていかれている。


 マクレンはヴュートの持っていたバスケットを覗き込みながら、解説を始めた。

 

「オリヴィア王女、見てよこれ。ベーコン、玉ねぎ、トマトにほうれん草の入ったケークサレなんて完璧な焼き加減だし、一緒に入っているライスサラダもカラフルで眩しいくらいだ。添えられたサラダの玉ねぎのスライスされた厚さも均等で……」


「ねぇ、君、勝手に食べようとしないでくれる? これは僕とフリージアのなんだけど」


 いつもの穏やかで、懐っこい犬のようなヴュートは鳴りを潜め、さっきから半端ない圧を出しているヴュートをとても新鮮に感じる。


「やぁねぇ。減るもんじゃないし、少しくらい分けてあげなさいよ」


「何言ってんだよ! 減るに決まってるだろ。あ、オリヴィア、勝手に食べるなってば!」


「やだ、美味しい。腹立つわね」


「勝手に食べといて勝手に腹立つなよ!」


「ヴュート様、僕の買ったライ麦パンのサンドウィッチで良ければ……」


「自分で食えよ!」


 二人に翻弄されているヴュートは何度見ても笑えてくる。

 

 従妹の前では、英雄も形無しだ。


 けれど、ヴュートの料理をつまみ過ぎたオリヴィアが、彼にバスケット接近禁止命令を出され抗議していたのを見かねて言った。


「オリヴィア、私もパストラミのサンドウィッチ作ってきたから分けて食べよう」


「「「え⁉︎」」」」


「え?」


 あまりに三人の声が揃い過ぎてこちらが驚いてしまう。


「フリージア、貴方自分で作ってきたの?」


 オリヴィアが驚いたように言った。


「ええ、いつもヴュートに作ってもらって申し訳ないと思って。でも挟んだだけだから大したことないのよ? ヴュートみたいに手の込んだものは作れないし」


 そう言いながらヴュートのより幾分か小さい籐でできたボックスを開け、明らかに一人分ではない量のサンドウィッチをテーブルの上に置いた。


 本当はヴュートと二人分と思っていたけれど、当然彼が作ったランチを私が勝手に分けてあげられないので、申し訳ないが、私ので我慢してもらおう。


「凄い! 美味しそうじゃない! 早速……! あ、ちょっと待ってて! ミリヴェン教授だわ! ちょっと渡したいものがあるから行ってくる! すぐ戻ってくるから、私の残しておいてよ!」


 そう言って嵐の如く背の高い黒髪の女性のところへ小走りで駆けて行った。

 真っ白なローブを着ているので、教授と一眼で分かった。


「忙しい子ね……」


 小さくため息をつくと、横からマクレンがサンドウィッチを覗き込んだ。


「いいなー、オリヴィア。こっちも美味しそう」


「良いわよ、マクレン、貴方もひと……つ……」


 顔を上げてそう言った瞬間、しまったと気づく。


 マクレンの後ろに、えも言われぬオーラを纏ったヴュートと目が合った。


 そういえば、さっきからオリヴィアとの会話も『素』だった。


 三人の会話の雰囲気に呑まれて、緊張感の無くなっていた自分を叱咤する。


 回帰前、マクレンとオリヴィア、私たち三人はお互い敬称も、敬語もなく会話していた。


 ついうっかりでは済まされないそのクセがこんなところで出てしまうなんて……。


「ご、ごめんなさい。マクレン様、大変馴れ馴れしくお呼びしてしまって」


「えー? いいよ、いいよ。僕平民だし。気兼ねなく呼び捨てしてくれて。敬語もいらないよー」


 

 いや! それを笑顔で言わないで!


 破談予定の婚約者に、敬称無しの敬語無しをいかに回避するか大変なんです!


「え、何なにー? 何の話?」


「オリヴィア!」


 戻ってくるの早っ! っていうかいなくて良かった!


「フリージア嬢が僕に、敬称、敬語無しで話してって言う話」


 やめい!


「いんじゃない? 気づいてると思うけど、マクレン私に敬語無しだし。ちょいちょい敬称も無くなるし。アカデミーだし問題ないわよ」


 ほら! オリヴィアはこう言うに決まってる!


 チラリと恐る恐るヴュートを見ると、めちゃめちゃ! もんのすごく眩しい笑顔なのに、ブリザードの魔法でも展開しているのかと思うほど冷気が漂っている。

 すごーい、高度魔法を紋様無しだー! なんて思わず現実逃避をしたくなる。


「僕もジアに友達ができるのは良いことだと思うよ! アカデミーなんだから、マクレン殿やオリヴィア当人が許可してるんだし、敬称敬語無しでいんじゃないかな。『ジアと僕』も敬語無しだしね」


 はい、決定!


 只今より、敬語無しの会話決定。


 笑顔の圧で決定したヴュートを憎らしく思いつつも、油断した自分が全て悪いのだ。


 あぁ……。

 敬語無しって……本当、距離が縮まりそうで嫌だ……。


 


 これ以上近づいても、どうせ彼は離れていくのに……。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


面白い、続きが気になると思って頂けたら、励みになりますので、ブックマーク、下の★★★★★評価をしていただけたら嬉しいです。

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