勇者は恐怖する 3
「ははぁ! それでその時ヴュート様があっさりフェンリルを倒してしまったんですね! さすがですね!」
「い……いや、確かにトドメを刺したのは僕かもしれないけれど、それまで団員がフェンリルの体力を削って、僕のところまで追い詰めたって……。君、僕の話ちゃんと聞いてた?」
マクレンに、食堂ではなく、外で食べようと言われ、私とオリヴィア、ヴュートとマクレンの四人でテイクアウト出来るカフェに向かっていた。
カフェまで案内してくれるマクレンは、ヴュートの横を歩きながら、騎士団での武勇伝に想像に想像を膨らませ楽しんでいるようだ。
その反面、グイグイくるマクレンにヴュートが困惑している様子が可笑しくて、隣でオリヴィアがクスクスと笑っている。
そんな二人を見る柔らかな瞳が何故優しいかなんて見るだけで分かる。
「何がハンカチの効果が無いよ」
彼らの後ろを歩きながら、オリヴィアにそっと耳打ちすると、ギョッとしたようにこちらを向く。
「なん……。何が……」
だんだんと顔が赤くなるオリヴィアは、私が以前刺繍してあげた『縁結びのハンカチ』を指している事は分かっているのだろう。
「よかったよかった。昔下手なりに刺繍した甲斐があって良かったわ」
「ちょっと、ちょっと。何決めつけてるの。彼は……平民。私は王女。……そんな事ある訳ないでしょ」
そうね、『平民』ならね。
そう心で付け足す。
オリヴィアはまだ知らないのか、それとも知っていて言っているのか。
マクレン=ヴェルダー。
本名、マクシミリアン=スミリア=ウィンドブル。
隣国、ウィンドブル王国の第二王子だ。
そして、彼の婚約者候補がウィンドブル国の聖女、『シャルティ』様だ。
あくまで候補なのは、第一王子と、第二王子、どちらが王位を継ぐかで揉めており、次期王太子が聖女と結婚することになっている。
ウィンドブルは未だ王太子を決めておらず、『現』正妃であるミラ様の唯一の子である第一王子と、『前』王妃の子である第二王子マクレンの派閥争いが活発化していると聞く。
第一王子は、現王妃が側室である時、マクレンより先に生まれた。
当時王妃であったマクレンの母が亡くなり、第一王子を産んだミラ様が正妃となった。
現王妃、前王妃の実家の派閥争いも活発化し、命の危険を感じたマクレンが、身分を隠し、平民としてこのウォーデン国立アカデミーに留学して来たと、回帰前に本人から聞いていた。
紆余曲折はありつつも、マクレンとオリヴィアが結ばれることは分かっている。
今回は、生きて幸せになってほしいと、ただそれだけを願うばかりだ。
「そっちこそ、何がカルミアと恋に落ちるよ。ヴュートったら、挨拶しながらチラチラ婚約指輪覗かせて、めちゃくちゃマクレンを牽制してたじゃない。……っていうか、貴方の婚約指輪は?」
物思いに耽っていたところに、オリヴィアが反撃に出る。
「……サイズ直し中よ。そもそも彼が牽制してるように見えたとしたら、オリヴィアのせいなんだからね。余計なこと言うから、私が『新しい婚約者』を探してると思われてるのよ。シルフェン公爵家としては、うちと宝石事業の繋がりで拗らせるわけにいかないから、牽制せざるを得ないでしょう」
小さくため息をつく。
……新しい婚約者は探していませんってハッキリ言った方が手っ取り早いかな。いや、奨学金目当てで、家を出るつもりだなんでそれこそ言えない。勘違いしておいてもらったほうがまだマシかもしれない。いや、でも……。
「……そういうことじゃないんだけどね」
オリヴィアが小馬鹿にするように囁いた言葉は。
悶々と頭を抱えている私に届くことはなかった。
カフェでテイクアウトして、景色の良い東屋で食事を摂ることになった。
目の前には綺麗な花が咲き誇り、見たことのない花もたくさんあった。
「すごい、綺麗。珍しい花も沢山あるのね」
「そうよ。ここは農学部が管理していて品種改良をしたり、ウォーデンの気候では育ちにくい植物や薬草なんかも育てているのよ。ほら、あそこ。ピポラの花が見えるでしょう? 七、八年ぐらい前に流行した流行病覚えてる? その時薬草が足らなくて亡くなった人が多くいたの。安定して供給出来るように研究をあれからずっとされていて、野生でしか育たなかったのが、最近では上手く栽培出来ているそうなのよ」
「へぇ……。すごいわね」
「ほら、王家に保管されている『加護の紋』も百年近く『暁の魔女』がいなくて、十何年も前から使い物にならないでしょう? それで今はこういった研究に力を入れているのよ」
「……え?」
オリヴィアのその言葉にただ驚くしかなかった。
「使い物に……ならない?」
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