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英雄は裏切りを知る 3


 コンコンコン。

 

 ぼんやりと昔の思い出に浸っていると、ドアをノックする音で現実に戻された。

 

「ヴュート様」


 カルミア嬢が返事もしていないのにドアを開けたかと思うと、不安げな顔をして部屋に入ってきた。

 

 メイドも連れず一人で来たのだろうか。

 

 彼女が閉めようとしたドアを全開まで開き、外にいたメイドに誰か一人部屋に入るよう声をかけた。

 

「カルミア嬢……。お一人で男性の部屋に入るものではありませんよ」

 

「でも、ヴュート様は女性に無体なことをされる方ではないでしょう?」

 

「そうではなく、噂というものは悪い方に尾鰭をつけて広がっていくものです。それで不利益を被るのは女性ですよ」


 小さくため息をつき、彼女にそう告げる。


「わ、私は……ヴュート様とならどんな噂になっても構いませんわ」


 頬を染めながら発せられるその言葉にさらにため息をつかざるを得ない。


「そういう問題ではありません」


 五つも年下ともなればこんなに幼く感じるものなのだろうか。

 フリージアがこれくらいの歳のころはどうだったのだろうかと考えるが、四年前から会っていないことを思い出し、乾いた笑いがこぼれた。


「ヴュート様。先ほどの私との婚約の話ですが、どうぞ受け入れていただけませんか? お姉様もきっとあちらで喜んでくれると思います」


 その言葉にドス黒い感情が込み上げてくる。


「喜ぶ……?」


「あ……ええと。最後までお姉様はヴュート様にごめんなさいと伝えてと言ってましたから……。きっとヴュート様の幸せを願っているんじゃないかなって……」


 僕の幸せは君との結婚ではない。そう言いたくなるのを堪える。


「カルミア嬢。あなたが犠牲になることはありませんよ。僕を憐れに思う必要も、家の為に嫁ぐ必要もない。結婚などしなくても今後もシルフォン家はソルト家との関係を変えることもないでしょう」


 仕事上の付き合いは確かにソルト家に比べシルフェン家が得る利益は少ないが、他で十分得られる利益を上げているので問題はない。

 父がソルト家にダイヤモンドを卸す際にあまり利益を求めないのは、昔フリージアがトリスタンを、助けてくれたことを知っているからだ。


「犠牲だなんて思っていません……。私……わたしはずっとヴュート様のことが……。私では……ダメでしょうか」


 頬を朱に染めながら、瞳を潤ませ見上げてくる彼女がそう言ったが、暗い心は微動だにしない。

 

 言葉は遠慮がちだが、目が、絡みつく視線が『断るはずなどない』と言っている。

 姉の死を知ったばかりだというのに、そんなことを言う彼女に嫌悪感すら感じ、部屋を出て行く気配のない彼女に苛立ちを覚える。


 思わず彼女に一歩近づき、彼女の耳元に顔を近づけると、彼女の頬が少し赤みを帯びた。


「ヴュートさ……」

 

「……カルミア嬢。君がフリージアだったら喜んで僕の心を、愛を差し出すよ」


「え……」


「彼女と同じ銀の髪色で、彼女と同じ目の紫水晶の瞳で、彼女と同じ柔らかな声で僕の名前を呼んでくれたなら……。僕は君に愛を込めて『フリージア』と呼ぶよ」


 彼女の顔から先ほどまであった赤みが一瞬で引いていく。


「わ、私に……『カルミア嬢は特別』だって……、仰ったじゃないですか……」


「特別だよ。だって君は他でもないフリージアの妹だ。フリージアの家族が特別じゃない訳がないだろう?」


「お……お姉様は、あなたを裏切って他の男と……」


 わなわなと震え始めた彼女の言葉に、冷えていた心はさらに凍てついていく。


「だから? 彼女が裏切ったからといって君と結婚をする理由にはならないだろう? 彼女以外の女性は欲しいとも思わない」


「あ……貴方は公爵家として家を継ぐ義務があるのではないですか?」


「そんなもの僕になんの価値があるんだ。欲しいとすら思ったこともない。家を継ぐなら弟がいるじゃないか」


「でもあなたは聖剣を持つ英雄ではありませんか! 国の為に『聖女』の私と結婚をして国の繁栄の為にあるべきではありませんか⁉︎」


 ヒステリックに叫ぶ彼女に、ため息を吐き、メイドに彼女を退室させるよう視線で促した。

 離しなさいと喚く彼女に、冷ややかな一瞥を送る。


「カルミア嬢。『聖剣』も、『英雄』も、フリージアの為に手にしたものです。国の為なんかじゃない。聖剣を持つ資格がないと言うのなら、喜んで元の場所に戻してきますよ。こんなもの、……足枷にしかならない」


 そう吐き捨てて、ドアを閉めた。


『お姉様は貴方を裏切って他の男と――』

 

 先ほどのカルミア嬢の言葉が脳裏にこびり付いて離れない。


 彼女はあの男の前で昔のように笑っていたのだろうか。

 

 それでも……言ってくれたら良かったんだ。好きな人が出来たと。君の死を引き換えにするくらいなら、婚約者の席を退いたのに。

 ただ、君を見守っていく道を選んだのに。

 


 どうして、僕の手の届かないところで死ぬんだ。


 

 君を守るために最高の騎士になったのに、なんの価値も無い。


 込み上げてくる感情を持て余し、胸に着けた幾つかの騎士の勲章を引きちぎり、床に叩きつけた。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


面白い、続きが気になると思って頂けたら、励みになりますので、ブックマーク、下の★★★★★評価をしていただけたら嬉しいです。

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