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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第3章 メメントモリ
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3.33. グリムリーパキラー

 ログインしたオレが目覚めたのは…宿泊施設ではなかった。ここはどこだろう?

 ベッドサイドに誰かいる…ハインツだ。あれっ、この状況はどこかで経験したことがある。デジャブだろうか、それとも、また予知夢なのか?

 オレが困惑していると、ハインツが口を開いた。

「ルーキー31号、一体どうしたんだ?訓練中に死んで強制ログアウトされた後に、ログインしてきたと思ったら、説明中にログアウトするなんて?」

 ああ、そうか。ハインツの説明中に「廃墟の街の世界」の作成を思いついた。それで、ベッド上にいるのを良いことに、そのままログアウトしてしまったのだった。だからハインツは、再びログインしてきたオレに、説明を続けようとしているのだろう。

 でも、今のオレも、ハインツの説明を悠長に聞いている暇はない。勝手にログアウトしたことを謝ると、困惑するハインツを置き去りにして、訓練施設を出た。


 公園に無人タクシーが到着して降りると、噴水へ向かう。ライフルやマシンガンを背負って歩いている物騒な人達と行き交ったが、もはや見慣れた。と言うより、マシンガンIARを肩に掛けて歩くオレも、既にその1人になっている。

 噴水に着くと、既にシグルドリーヴァが待っていた。

「オレ、遅刻しましたか?もしそうなら、済みません。」

「私が早すぎたのよ。他の人はまだ来ないし…いえ、マクミラン隊長が来たみたいだわ。」

 そう言われて、彼女の目線を辿ると、そのずっと先にマクミラン隊長の姿があった。あとは、グリムリーパだけだ。


 暗くなった噴水の周りは、ライトアップされた中心部分と、その反対側にあるバーの周辺のみが、明るく照らされていた。

 グリムリーパこと川辺のことだ。性懲りも無くバーにいるのではないか?そう思って、マクミラン隊長に目をやると、既にバーへ歩みを進めていた。

 シグルドリーヴァを振り返ると、彼女は頷いて、バーを指差した。どうやら、皆、考えていることは同じようだ。グリムリーパはバーに居る。

 そして、彼は当然のように、そこにいた。やはり、…ナンパ中。だが今度は、マクミラン隊長はグリムリーパを殴らなかった。その代わり、襟首を掴んで引き摺り始めた。

 レベルが高いためか、グリムリーパを引き摺って歩いても、マクミラン隊長の歩みのペースは変わらない。

 彼は、振り向くことも無く、ボソッと言った。

「時間が無い。」

 バーを出ると、マクミラン隊長はグリムリーパを引き摺ったまま、公園の出口へ向かった。オレはどこへ行くのか聞いていないが、無人タクシーで目的地へ向かうつもりなのだろう。


 もう少しで公園の出口というところで、不意に赤く点滅する何かに気づいた。

 じっと見ている内に、それは動いた。あれは…多分ドローンだ。それも大型の。何故こんな所に、あんなドローンが飛んでいるのだろう?

 そう思った瞬間、何故か前にもこんなことがあったような気がした。そうだ、あの現状世界で起こった事件の時に、ムーコの監視用ドローンから大型ドローンが見えたのだった。あの時、犯人グループの司令塔は、オレとムーコの動きを最初から最後まで見ていたハズだ。

 だが、あのドローンは一体何を監視しているのだろうか?


 そう思っていると、公園の出口でマクミラン隊長が皆に告げた。

「ここから先は、安全地帯ではない。気を引き締めて行け。」

 まだ「戦場」は遠いハズなのに、マクミラン隊長は慎重過ぎると理性では思った。しかし、オレの心はもっとざわついた。

「危ない!」

と。

 だが、何が危ないのか知っているような気がするのに、それは意識の闇に埋没して表に出てこない。ゲートによるリアリティのアシストのせいか、冷や汗で背筋が冷たくなったような気がした。

 その時だった。

ドッドッドッドッ

ライフルを連射する音が聞こえた。その音と同時に、マクミラン隊長が叫んだ。

「散れ!」

 だが、遅かった。グリムリーパが目の前で血まみれになり、やがてエフェクトを残して消えた。そう、彼はこの世界で「死んだ」のだ…。

 マクミラン隊長とシグルドリーヴァ、それにオレは、別々な場所に潜んだ。だから、2人の姿は見えなくなったけど、無線機で会話はできる。

 その無線機からマクミラン隊長の声が聞こえてきた。

「スナイパーを見つけた。シグルドリーヴァは分かったか?」

すると、シグルドリーヴァも応えた。

「私も見つけたわ。」

「ワシが狙撃するから、シグルドリーヴァは援護しろ。」

 初心者のオレの入る隙は無く、2人は奇襲に対応しつつある。しかし…オレには懸念があったので、割り込んだ。

「さっきから、ドローンが飛んでます。もしかすると、ずっと監視されていたかもしれません。撃墜許可をください。」

 すると、マクミラン隊長から返事が来た。

「参ったな。ドローンは任せた。」

「訓練の成果を見せてね。」

こちらは、シグルドリーヴァだ。

 その後、オレはドローンの撃墜に成功した。監視のドローンがなくなったので、マクミラン隊長がスナイパーを狙って狙撃すると思ったのに、なかなか銃声が聞こえてこない。

 そのうち、マクミラン隊長の声が聞こえてきた。

「やられた。皆、公園に戻れ。」

「了解。今回はダメみたいね。」

と応えたのはシグルドリーヴァ。

 だが、オレには2人の会話の意味がさっぱりわからず、尋ねた。

「どうしたんですか?」

「スナイパーが視界から消えたのよ。だから、どこから狙われるかわからないわ。」

とシグルドリーヴァ。

 マクミラン隊長は、悔しそうに最後の命令を下した。

「今回は作戦負けだ。このまま出撃しても、こちらの行動は敵に把握されているだろう。勝ち目が無い。撤退だ。」


 翌日の午後4時、時宮研究室に集った。反省会だ。「ウォーインザダークシティ」で早々に殺されてしまった川辺はもちろん、一応最後まで生き残ったオレにも、一体何が起こったのかさっぱりわからなかった。

 そこで、「マクミラン隊長」こと新庄に説明を求めた。新庄の説明はこうだった。

「私も全てがわかったわけじゃ無いけど、大体想像がつく。バサーニオの経営するレストランで働いたグリムリーパは、最初からスパイだと疑われて、ずっと監視されていた。だから、あの安全地帯の外に出た瞬間に、そこで待ち伏せていたスナイパーにやられたんだ。」

 すると、川辺が質問した。

「それじゃ、俺が殺された後、どうなったんだ?」

彼だって、何もしないまま殺されて強制ログアウトになったのだから、納得できないのだろう。

 川辺の質問に小鳥遊が答えた。

「それは多分、敵は移動したと思うわ。きっと他のパーティも監視してて、罠の地点に差し掛かったところでバーン。」

そう言って、銃を撃つ真似をした。

 そこで、オレが小鳥遊に尋ねた。

「それじゃあ、ドローンは?」

「多分、自動運転ね。それも、バレて敵に情報が取られる前に、彼ら自身が撃ち落とす可能性もあったと思うわ。しかも、他にもドローンが飛んでいたか、他の監視手段があったんでしょう。」


 どうも、今回の戦いは、現実世界でオレとムーコが襲われた時とやり方が似ている気がした。特に小鳥遊の言った「罠」という言葉。

 あの時、現実世界のオレとムーコはずっと監視されていて、罠の地点に差し掛かった時に襲撃されたのだろうか?あるいは、オレたちの行動は予測されていたのか…?

 今回の敵と、現実世界の襲撃犯の考え方は良く似ている。スナイパーが考える戦い方としては、これがセオリーなのか?それとも、まさか同一人物なんてことは…?


 そこで、反省会が終わると、今回オレたちがやられたスナイパーの行動をAIに学習させた。そして、そのAIが操作するキャラクター「グリムリーパキラー」を、「廃墟の街の世界」に加えた。


 翌日の午後、時宮研究室に着くと、高木さんが量子ビットのマップと実験データを比較して何やら考え込んでいた。邪魔をしてはいけないと思ったオレは、挨拶もせずに「睡眠学習装置(仮)」に忍び込んだ。そして、「廃墟の街の世界」へ転移すると、戦闘訓練を開始した。

 グリムリーパキラーとの戦いは、ハインツやルーミーよりもずっと困難だった。どうやら、スナイプナビを的確に使って、オレを狙撃地点に誘導しているようだ。それに気づいていても、結局は罠に嵌められてしまう。

 それでも、100回戦った頃にようやく勝利できた。そう、オレもスナイプナビを上手く使ったのだ。

 自称「オタクハッカー」のオレだ。単にスナイプナビのシステムを使っただけでは無い。

 グリムリーパキラーのスナイプナビをハッキングして、奴の見ている映像を把握して、時にはダミー映像を見せた。


 一度勝利したその後も、戦いを繰り返した。やがて、数人のグリムリーパキラーを同時に相手にしても勝てるようになり、そこにハインツとルーミーを加えても負けなくなった。

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