表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第3章 メメントモリ
78/186

3.31. デスペナルティ

 オレは気がつくと、真っ暗でコンソールしかない空間に戻っていた。死んだ時の感覚も微妙に残っている。そうだ、「神々の記憶」で死んだ時もこんな感じだった。多分、「神々の記憶」の時と同じように、「ウォーインザダークシティ」で死んで強制的にログアウトされたらしい。

 この世界では、デスペナルティはどうなるのだろう?そもそも、訓練中に死んだのだから、これでペナルティを喰らうのは納得できないような気がするけど。


 いろいろと気になったオレは、AM世界に戻らずに、すぐに「ウォーインザダークシティ」に再びログインした。すると、目が覚めたのは、訓練施設のベッドの上だった。

 そして、ベッドサイドにいたのは…ハインツだ。

「よう。」

彼は全く悪びれていない。ほとんど闇討ちされたようなものだったのに…。

 色々と思うところはあるが、オレも軽く応えた。

「どうも。」

 

 すると、ハインツは説明を始めた。

 通常「ウォーインザダークシティ」で死ぬと、最低限の金銭以外は死んだ場所に全て残すのだそうだ。だから通常、残された装備品や金銭は、自身を殺した相手か死んだ場所の近くにいた者に奪われ、それがデスペナルティとなる。そして、死後にログインすると、最初にログインした時に出現した噴水の前で蘇るのだ。

 だが、この訓練施設ではそうはならないらしい。「死ぬまで」訓練する施設だから、死んでもペナルティは無い。装備品や金銭は、このベッド上で蘇った訓練生に、全部返還されるのだそうだ。そして、オレのベッドサイドには、IAR、スナイプナビ、それに僅かではあるが所持金が置かれていた。


 オレはホッとした。だけど、少しだけガッカリした。


 実際の戦闘にはルールなんて無い。例えば今回のミッションのような状態ならば、ルーミーとハインツ以外にも敵がいたとか、敵が監視カメラの画像に干渉していたとか…、色々な可能性があるだろう。そんな無数の可能性について対処できるような戦闘経験を、この訓練施設で積み上げるには、時間がかかってしまう。いや、「ウォーインザダークシティ」内の実戦でも同じことだ。現実と同じ時間の進み方で訓練することになる。

 そうだ。先ほどの闘いのデータは、ほとんど全て「リアライズエンジン(改)」に蓄積されている。だから、ルーミーとハインツの行動を、「劉老師の世界」や「上泉先生の世界」を創るときに用いたAIに学習させて、その動きを反映したキャラクターと戦う世界を創る。もちろん、IARやスナイプナビ等の武器のデータも保存されているから、これらを別な世界で再現するのは容易だ。それに、「廃墟の街」の一部のデータも確保されている。これを少し変更して組み合わせれば、もっと巨大な「ダンジョン」が容易に創れる。


 幸いなことに、ここはベッドの上だから、即ログアウト可能だ。そこで、そのままログアウトして時宮研究室を出て自宅に帰ると、早速「廃墟の街の世界」の作成を開始した。と言っても、オレがやったのはいくつかのプロンプトとスクリプトを新たに作ったり、以前に作ったプロンプトを修正したりしただけ。

 あとは、1時間もすればAIの学習が完了し、その後まもなく「廃墟の街の世界」が完成する。完成したら自動的に起動するよう、スクリプトを走らせておいた。うまく「廃墟の街の世界」が起動すれば、「ゲート」からでもログインできるハズだ。


 時刻は間も無く午後1時。オレはまた大学へ向かった。「廃墟の街の世界」が完成し起動するにはまだ時間がかかるので、学食に立ち寄った。すると、そこには川辺と新庄がいたので、声をかけた。

「よう。」

 それに対して、

「桜井か。良いところに来たな。」

と川辺が応えた。すると新庄が、

「グリムリーパがバサーニオの情報を掴んできた。」

と告げた。

 川辺は新庄に、

「ゲームのキャラ名で呼ぶのは止めてくれ。」

と抗議したが、新庄は意に介さず、

「ルーキー31号も聞いてくれ。」

と続けた。新庄は、「マクミラン隊長」であることを、AM世界でも続けるつもりなのか?そんな新庄に、川辺は諦め顔だ。

 「マクミラン隊長」によると、バサーニオが毎週水曜日の午後7時に商人ギルドの集会に参加するとのことだ。そこでは、「ウォーインザダークシティ」の商人トップ10が集って、情報や意見を交換するらしい。

 新庄は言った。

「商人ギルドの集会には、バサーニオの配下だけで無く、商人どもの手練れの手下が集うことになる。その隙をついてバサーニオを暗殺するのは難しい。」

新庄がそう言うなら無理じゃないか?オレと川辺は、顔を見合わせた。

 オレたちの感想を他所に、新庄は続けた。

「だが、ワシは情報屋から別な情報を掴んだ。次回の集会では、違法薬物の取引で商人ギルドの集会が紛糾するらしい、と。」

 すると、川辺が尋ねた。

「それが、俺たちのバサーニオ暗殺と何か関係があるのか?」

新庄の回答は、

「きっと、バトルロイヤルが勃発することになる。」

だった。

 心情の意図が掴めないオレは、思わず言い返した。

「バトルロイヤル?」

新庄は頷きながら言った。

「そう。殺し合いのことだ。」

 すると、10人の商人の配下たちが、それぞれの親分を守りつつ殺し合うということか。そこで、バサーニオの守りにも隙ができて、我々にも彼を暗殺するチャンスが生まれるのだろうか?

 新庄は続けて言った。

「だから、ワシとシグルドリーヴァは今日これから、商人ギルド周辺の暗殺地点を探しに行くのだ。」

だが、きっとバサーニオの配下を含め、商人の配下たちは皆同じようなことを考えているに違いない。

 そこで、オレは新庄に行った。

「このタイミングでデスペナルティを食うと厳しいので、気をつけて。」

 すると、新庄は言った。

「ワシもシグルドリーヴァも、そんなヘマは踏まない。それよりも、グリムリーパとルーキー31号も、少しでも能力を高めておいてほしい。それが、我々の戦いが成功するか失敗するかを、決定づけるかもしれない。」

「任せてくれ、俺は水曜日までには強くなっておくぜ。」

と言ったのは、グリムリーパこと川辺だった。

 

 それにしても、川辺は本当に新庄に気があるのだろうか?新庄も、かなり変わった娘だ。知れば知るほどそう思う。いや、陽キャの川辺も、別な意味でかなり変わったヤツだが…。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ