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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第3章 メメントモリ
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3.30. 訓練

 一度AM世界に戻ると、既に夜の11時を過ぎていた。時宮研には誰もいない。寝たままのムーコに挨拶すると、すぐに帰宅した。

 帰宅後、オレ宛のメールボックスを確認したが、何も連絡は無かった。センチネルが一匹、トラップに捉えられていたが、「高坂和巳」の情報は無かった。

 それと、「スナイプナビ」をどうにかしたかった。ドローンの制御用AIと「リアライズエンジン(改)」用のAIを組み合わせて、ドローンの制御と収集した情報を統合できるようにしたい。そこで、入力を「ウォーインザダークシティ」の「スナイプナビ」とし、出力を「スナイプナビ」のメガネ型ディスプレイとした。これで、とりあえず使えるようになると良いのだが。


 翌朝はいつになく早起きして時宮研に向かうと、早速、「睡眠学習装置(仮)」で「ウォーインザダークシティ」にログインした。ログイン後に現れるのは、昨日泊まった宿屋の部屋だ。

 ロビーの前を通ると、NPCの宿屋のおばさんが、声をかけてきた。

「朝食食べていく?」

「ありがとうございます。」

と答えたが、もう9時まであまり時間が無い。そこで、朝食の代わりにタクシーを呼んでもらうことにした。


 訓練施設についたのは8時50分、営業開始の10分前だった。扉を開けて中に入ると、

「おはようございます。」

って、ハインツではなくて女性の声だ。

「えっと、お、おはようございます。ルーキー31号と申しますが…。き、今日の朝イチに来るように、ハインツさんに言われたのですが…。」

どうせ相手はNPCのハズだから緊張する必要はないのに、予想外の展開に、コミュ障に戻って発言を噛んでしまった。

 すると、

「私はルーミー。ハインツから話は聞いています。今日は、私がルーキー君を指導するようにとのことでした。」

と言ってきたので、普通に答えようとした。だが、

「そ、そうなんなんですか。」

とまあ、やはり噛んでしまった。

 出だしで調子が狂ったせいで、どうもやりづらい。目の前にいるのは、シグルドリーヴァと比べて美形という訳でもなく、どこにでもいるような女性だ。それに、男性のハインツと比べれば厳つい訳でもない。

 だが、単に話の展開が予想外だから、「やりづらい」という訳では無いという気がしてきた。多分、この女性は強い。根拠は無いが、オレの感性がそう言っている。それに、劉老師や上泉先生と違って、隙を見せると殺されてしまうような…オレに対する殺意を感じるのだ。

 そんな彼女は、散歩にでも誘うような口調で言った。

「それでは参りましょうか。」

「えっと、どちらへ?」

「会場に決まってるじゃ無いですか。」

「会場って?」

「今日の訓練の会場ですよ。」

「は、はあ。」

 そんな感じで、少しはオレも「殺意」に耐えて話ができるようになってきた。昨日「来い」って言ってたハインツさんが来なかった理由とか、彼女が何故オレに「殺意」を持っているのかとか。気になることはあるが、とても聞けない。ただ彼女に流されるままだ。


 そして流されるままについて来てしまったが…ここは何処だ?


 気がつくと、廃墟となった街らしいところを歩いていた。ここで何をするんだろう?

 と思っていると、ルーミーが言った。

「それじゃ、そろそろ始めますね?」

「えっ、何を始めるんです?」

「殺し合いよ。」

 そう言って、ルーミーが笑顔のまま、いきなりナイフで襲いかかってきた。が、接近戦なら八極拳を習得したオレが引けをとる相手はまずいない。反射的に、躰を躱して腹に肘を打ち込んだ。

「グェッ」

 ルーミーは苦しげに唸りながらも、躰を捻って打撃力を逸らした。そのまま転がって、オレとの距離をとったルーミーは、即座に体勢を立て直すと拳銃を撃ってきた。

 ヤバい。かろうじてある建物…そこも廃墟になっていたが…に逃げ込んだオレは、すかさず…さらに遠くへ逃げた。ひたすらに。刀も槍もない状況では、八極拳の間合いまで近づかなければ、彼女には勝てそうもない…気がした。

 でも、彼女との戦闘が「訓練」だとすると、死を覚悟しても闘わなければ意味がない。それに、「死」んでも「死」なない…ここはゲームの世界だし。


 気持ちを切り替えたオレは、ある部屋に逃げ込んで内側から鍵をかけた。辺りを見渡すと、何かの残骸が散らばっている。どこかで見覚えがあるような…。そうだ、心電図モニターだ。昔、祖父の病室でよく見かけたヤツ。ってことは、この部屋は病室、この廃墟は病院だったのか。

 背負っていたIARにマガジンを装着して、「スナイプナビ」のメガネ型ディスプレイをかけた。ここからドローンを飛ばせば、こちらの居所を教えるようなものだ。今はドローンを温存して、「スナイプナビ」に入力された他の情報を集約して、ルーミーの居所を探る。

 不意に、ルーミーの姿がディスプレイに映った。一つの監視カメラが、病院のロビーにいる彼女の姿を捉えたのだ。そして、彼女は一部屋ずつ確認しているようだ。そんな彼女の姿が連続して映し出された。

 ここは病院だったから、まだ生き残った監視カメラがいくつかあったらしい。だから彼女を「ロックオン」すると、AIが「スナイプナビ」に入力された全データから彼女の映像を抽出して、ほぼ連続して表示し続けるようになった。

 そうだ。こんなにルーミーの映像が滑らかに映し出されるのなら、彼女がオレの近くの部屋に入った瞬間に部屋を出て、彼女が通路に出たところを狙えば良さそうだ。そう思ったおれは、彼女が近づいて来るのを、息を潜めて待ち構えた。

 そして、ルーミーが一つ部屋を隔てた部屋に飛び込むのを「スナイプナビ」で見たオレは、静かに通路に出た。これでオレの勝ちだ。

 そう思った次の瞬間、後ろから銃声が聞こえた。死亡判定が出るまでのわずかな時間に後ろを振り返ると、そこにいたのは厳つい男の姿。…ハインツだった。


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