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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第3章 メメントモリ
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3.26. ウォーインザダークシティ

 当然のことだが、「ウォーインザダークシティ」はオンラインゲームだ。だから、皆で研究室の機材を借りてログインするより、各自、使い慣れたゲーム機のコントローラーでログインする方が良い。そこで、川辺たちはそれぞれの家へ帰った。

 オレは研究室内の「睡眠学習装置(仮)」を使うので、少し時間がある。そこで、「ウォーインザダークシティ」のアカウントを作り、AM世界のオレに届いたメールなどを全て、ゲームに転移したオレに転送するように設定した。それと、高木さんと木田にも、AM世界で何かあった場合の連絡先を説明しておいた。


 そろそろ、3人もそれぞれの家に着いた頃だろう。仮眠室で眠り続けているムーコに一声かけると、「睡眠学習装置(仮)」のベッドに横たわった。すると、自動化されたオペレーションで「睡眠学習装置(仮)」のシェルが閉じられ、「ゲート」が起動する。

 すると、いつものように真っ暗でコンソールしか見えない世界に意識が転移した。そのコンソールから「ウォーインザダークシティ」にログインすると、さらに意識が転移して行った。


 気がつくと、オレの目の前に噴水があった。噴水の周りには花壇があり、花壇の周りは芝生になっている。良く整えられた公園だ。だが、道を歩く人々の多くはライフルを担ぎ、暗視ゴーグルらしきものを額にかけていたり、手榴弾らしきものをぶら下げていたり…。皆、物騒なモノを装備している。

 噴水の反対側にはバーがあり、かなり多くのキャラクターがいる。恐らくゲーム画面では、バーにキャラクターを留めて、チャットしているのだろう。

 だが、ゲートで転移してきたオレには、あちらこちらで談笑している声が聞こえてくる。この和やかな雰囲気と美しい庭園、それと物騒な装備が相まって、不思議な雰囲気を醸し出している。


 そんな噴水の近くに、迷彩服を来てライフルを背負った男と女が並んで立ったまま動かず、ジーっとこちらを見ている。何をしているのだろう?和やかな雰囲気から隔絶した2人。そこはかとなく、緊張感が伴う。

 でも、ここは攻撃されてもHPが減らない安全地帯と聞いている。そこで、あえて呼びかけてみた。

「オレはルーキー31号、桜井だ。君たちはマクミランとシグルドリーヴァでは無いのか。」

 すると、金髪のゴツイ男が名乗った。

「ワシはマクミランだ。よろしく、ルーキー31号。だが、ワシが君の上官であることは忘れないように。」

オレは思わず敬礼した。

 そうだ、この世界ではマクミラン隊長はもちろん、シグルドリーヴァもレベルはずっと上のハズ。…同じ小隊でも格上、上官と考えるべきだろう。

 しかし、「ワシ」ってなあ…。「マクミラン」のキャラ設定だよな。で、「マクミラン」ってことは…コイツが新庄なのか。新庄が男性のキャラを選んでいたのは意外だ。

 女の方も名乗った。こちらは、大柄で巨乳。美しい銀髪がたなびく美女だ。

「私はシグルドリーヴァよ。実名とか、あまりリアルばれすることは、ここでは言わない方が良いと思うけど。」

 そう、こちらは小鳥遊だ。言われるまでもなく、オンラインゲーム内で実名を言わない方が良いのは分かってる。だけど、オフラインの「作戦会議」で告げたオレのキャラクターネームを、覚えてもらえているのか不安だったのだ。

 で、コイツらはお互いのことがわかっていたのに、ずっと無言だったのか。オレも他人のことは言えないけど、コイツらは「コミュ障」だったかな?

 いや、現実世界やAM世界では、新庄はともかく小鳥遊はそれほどコミュ障ではない。もしかすると、「ウォーインザダークシティ」のキャラである「マクミラン」と「シグルドリーヴァ」は、コミュ障設定されているのだろうか?


 後は、「コミュ障」とは縁遠そうな川辺だ。そのキャラクターである「グリムリーパ」がコミュ障だなんて、ちょっと考えられない。そう言えば、川辺は寮生だったはずだ。すると、自宅生の新庄や小鳥遊よりも早く帰宅してるだろう。オレは「睡眠学習装置(仮)」に入る前に、高木さんや木田と話をしていたから遅くなった。だから、川辺が既にログインしていても不思議ではない。

 ふと、ログインした川辺が何をしているのか判ったような気がした。そこで、「ウォーインザダークシティ」の空気を読んで、新庄…いやマクミラン隊長に具申した。

「マクミラン隊長、グリムリーパはあのバーにいるかも知れません。探しに行きませんか?」

「わかった、ルーキー31号。一緒に行こう。シグルドリーヴァはここで待機。グリムリーパを見かけたら確保しておくように。」

シグルドリーヴァも空気を読んで、敬礼で応えた。

 

 バーの中はごった返していて、熱気を感じた。「ウォーインザダークシティ」自体にはそんな感覚を出力する機能は無いはずだから、これは「リアライズエンジン(改)」が作っている感覚だろう。

 女性キャラが集まっている中心に、そいつはいた。

「俺、グリムリーパって言うんだ。よろしくな。」

細身で手足の長い、スラットした男性キャラクターが、川辺のキャラクターのようだ。

「今ログインしてきたばかりなら、私が色々教えてあ・げ・る。」

「じゃあ、俺も君が知らないことを教えてあげようか?」

 そう言って、女性キャラをお持ち帰りしようとしているように見えた…「ウォーインザダークシティ」の一体どこにお持ち帰りするつもりなんだか…。陽キャというか、何というか…。コイツはどこに行っても変わらない。

 先に口を開いたのは、もちろん上官であるマクミランだ。彼…いや彼女は、少し怒っているような気がしたが、気のせいだろうか?

「グリムリーパ、そこに直れ。」

と言って、いきなりの鉄拳制裁。

 マクミランって新庄のハズだが…まるでキャラが違う。それに、先程マクミランはコムュ障だと思ったが、このキャラはむしろ「口数の少ない仕事人」ではないか。

 いきなり殴られたグリムリーパは、固まった。でも、彼のHPに変化は無いようだ。そう、ここは「安全地帯」だった。

 周りのキャラクターたちは、やれやれと言う感じで散っていった。そう、これは軍隊の上官が、命令を無視した部下に制裁したっていうことだろう。

 前時代的なやり方だが、攻撃が無効になるこの場所では、旧い時代の現実世界のそれとは異なる意味を持つことに気付いた。つまり、現実世界の「暴力」とは違い、痛みを感じず何のペナルティも無い。ただ「誇り」だけが傷つけられる。

 新庄にナンパしている所を見られて不都合だったためか、噴水前で待てという上官・マクミランの命令に従わなかったためか、グリムリーパは素直に敬礼して応えた。

「失礼しました。」

「良し。」

と、マクミラン。

 マクミランはオレの方を向いて命令した。

「噴水で待たせているシグルドリーヴァを、ここに連れて来い。仕事を受けたのだ。その内容と作戦を説明する。」

「ハッ。」


 オレは敬礼すると、噴水へ向かって走り出した。


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