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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第3章 メメントモリ
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3.9. 新たな戦力

 少彦名命の話に感心していると、背中に柔らかい温もりを感じた。

「旦那様、おはようございます!」

どうやら璃凪姫がようやく目覚めて、後ろから抱きついてきた。って結局、この娘…この世界の我が妻は、目が覚めていても寝ぼけていても、やることがあまり変わらないようだ。

 心地良さと照れで顔が赤くなるのと、目の前の少彦名命の冷たいまなざしを同時に感じて、脇汗が出て来た。この「神々の記憶」には、そんな感覚を再現する機能は無いはずだが…。きっと、これも「リアライズエンジン(改)」の働きなのだろうか?


 オレは璃凪姫に尋ねた。

「どうしてこんな時間に寝てたの?」

「それはもう、大変な探検だったんだから、それくらい許してよ!」

あれっ?少彦名命の言っていたこととは、少しニュアンスが違う。

 少彦名命の話では、

「歩き回った地域を、余裕で統一してやったぜ!」

って言う感じだったのだが…。少彦名命をじっと見ると、目線を外された。璃凪姫を救出した時に大風命がいたように、少彦名命と璃凪姫だけでは苦戦する相手もいたのだろう。


 そう言えば、璃凪姫も神の娘だ。どんなスキルを持っているのだろうか?「奇跡の力」を持っていてもおかしくはない。璃凪姫も一応オレの「従者」だからシステムから覗いても良いのだが、そんな面倒なことをせずに直接尋ねてみた。

「璃凪姫は何かスキルは持って無いの?」

すると、璃凪姫はさらっと答えた。

「持ってますよ。」

「どんなスキル?もしかして、『奇跡の力』なの?」

「一応『奇跡の力』らしいわ。」

「何が出来るの?」

「『幻惑』です。」

「『幻惑』って言うと、あの大風命のスキルだったやつ?」

「そうみたいです。旦那様に救われて目覚めた時には、『結婚』の2文字しか気がつかなかったわ。でも、複製体が探検し始めた時に、『幻惑』のスキルが増えてたことに気づいたのよ。」

 すると、少彦名命が話に入って来た。

「恐らくですが、主人殿が大風命を倒した時に、新規の従者に付与可能なスキルとして手に入れられた可能性があります。それで、璃凪姫と主従契約をした時にギフトされたのでしょう。」

「オレは特に設定した記憶は無いが?」

「このスキルの元の持ち主である大風命を倒して、主人殿が璃凪姫を手に入れられたのですから、自動的にそう設定されたのでしょう。ご不満ですか?」

 だから少彦名命は、結婚した後の璃凪姫にオレの従者になるよう勧めたのだろうか?でも、璃凪姫にスキルをギフトできて良かったと、オレも思ったので、

「いやいや、オレはそうなって良かったと思っているよ。」

と答えた。


 すると、

「とっても役に立ちましたよ、『幻惑』。だって、複製体はみんな小人だったでしょう?だから、私が『幻惑』で元の大きさの父を見せないと、集落の長と交渉すら出来なかったのよ。」

と璃凪姫。なるほど。

 でも、少彦名命の複製体が本来の大きさの複製体を作れば良かっただけでは?と思ったのだが、少彦名命が、

「ですが、私も娘も元々の戦闘能力はあまり高くないので、娘の『幻惑』を破られると撤退せざるを得ないケースもありました。」

と言うので理解出来た。

 それはそうだろうな。戦いになって分が悪くなったら、素早い小人の特徴を活かして、何とか逃げ切ったと言うのが本当のところだろう。普通の大きさの少彦名命や璃凪姫がいると、多少の人数の複製体がいても戦いには勝てず、逃げきることも出来なかっただろう。賢い少彦名命には、そうなることが最初からわかっていたのだ。


 さらに、今回の探索の経験を踏まえて、少彦名命から提案があった。

「今後のミュウ様の探索では、他の神を相手にする戦いも増えそうです。出来れば、主人殿の複製体にも加わって頂けると助かるのですが?」

 確かにオレの複製体が加われば、戦闘力はアップするし、璃凪姫も喜んでくれるかもしれない。だが、懸念もある。

「オレがログアウトしている間、複製体はどうなるんだろう?」

と言うことだ。

 この問いに対する少彦名命の回答は、あまりに素直だった。

「正直言って、わかりません。でも、試してみる価値はあると思いますよ。主人殿の複製体を作った後に、主人殿にログアウトしてもらって、複製体達に意識があれば我々と一緒に探索して頂ければ良いのです。」

だが、確かに少彦名命の言う通りだ。

 オレの複製体でも思考速度5倍までは設定できる。それに、新陰流と八極拳のスキルを持つオレの複製体が探索に加わることができれば、かなりの戦力強化になるだろう。

 そこで、少彦名命に言った。

「ミュウのプレイヤーの意識を取り戻すには、ミュウがこの『神々の記憶』にいるならログアウトさせれば良いだろう。でも、ミュウはこの世界にログインしていないかもしれない。その場合どうすれば良いのか、オレには他にも試してみたいことがあるんだ。だから、オレは間も無くログアウトする。だけどその前に、提案してくれたようにオレの複製体も作ってもらって、またミュウの探索を続けてもらえないだろうか?」

 すると、少彦名命が答えた。

「よろしいでしょう。主人殿、私、それに娘の小人の複製体を10人ずつ作成して、ミュウ様の探索を続けましょう。」


 だが、璃凪姫は少し不満なようだ。

「旦那様、もう居なくなっちゃうんですか?それなら、旦那様の普通サイズの複製体1人を追加して欲しいですよー。旦那様がまたログインされる頃には、私たちの可愛い愛の結晶が生まれているかも知れませんよ。」

彼女は顔を紅く染めている。が、父親の少彦名命の表情は固い。何か微妙な修羅場なんですが…。オレは悪く無いぞ。

 それに、プレイヤーとゲーム内のキャラクターとの子供だって?「神々の記憶」では、実際にはどうなるんだろう?少し好奇心を覚えたオレは2人に尋ねた。

「『神々の記憶』…この世界では、オレと璃凪姫との間に子供が出来るだろうか?いや、キスすると結婚することになる位だから、子供だって何かとんでも無いことで出来てしまうのだろうか?」

「えっと、…そんなこと恥ずかしくて言えないわ。」

璃凪姫の顔は真っ赤だ。

 一方、少彦名命の表情は複雑そうだ。それでも真面目に答えてくれた。

「わかりません。」

 あれっ、少彦名命が知らないなんて、そんなこともあるのか?

「璃凪姫は貴方の子供でしょう?だったら…?」

「実は、ある日旅に出て帰宅したら、妻が赤ん坊の璃凪姫を抱いていたんです。」

「それなら、どうして璃凪姫が貴方の子供だって判ったんですか?」

「それは簡単なことです。ステータスに書いてありますから。」

 あっ、そうだった。ここはゲームである「神々の記憶」の世界だから、そういうものなのだろう。

 しかしそれなら、璃凪姫の反応は不思議だ。少彦名命が言う通りなら、この世界の「子作り」は特に何も無い。あんなに恥ずかしがることは無いと思うのだが。彼女のあの反応は、「神々の記憶」のシステムではなく、オレの心にある一種のテンプレに沿っているような気がするが。いや、考えすぎ…だろうか?


 まあ、次回ログインした時には、オレと璃凪姫の子供がいるかもしれない。それは覚悟しておこう。


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