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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第3章 メメントモリ
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3.8. 小人達の冒険

 璃凪姫は、まだ寝ぼけている。

「いけません、旦那様。そんなご無体な…。うにゃ。」

と言いながら、抱きついてきた。

 目はまだ閉じたままだし、意識もあるのか無いのか…。放っておくとベッドから落ちるかも知れないと思うと、別な意味でもドキドキしてきた。だから、寝ぼけた彼女をベッドから落ちないように抱きとめた。…璃凪姫と貫頭衣越しに密着して、さらにドキドキしてしまった。

 だがその時、璃凪姫の肩越しに少彦名命の姿が見えた。普段、あまり表情が出にくい御仁ではあるが、この時はさすがにムッとしているように見えた気がした…少なくともオレには。

「ですよねー。」

そう思ったオレは、心の中で謝罪した。

 成り行きでオレは彼の主人とはなったが、彼はこの世界の神の一柱であるし、オレの舅でもある。オレの意図とは関係無いとはいえ、彼の目の前で彼の娘とイチャついている…ように見えるはずだ。もう、いろんな意味で心臓がバクバクだ。

 璃凪姫を起こすのを諦めて、ベッドに寝かしつけた。そうしておいて、少彦名命が準備してくれたソファーに腰掛けると、出してもらったコーヒーを啜った。


 この3日間、10組の少彦名命と璃凪姫の小人の複製体が、この「神々の記憶」の世界を探索した。そして少彦名命によると、オレがログインする少し前に全ての複製体が帰還し、それぞれの本体に統合されたそうだ。

 複製体達の記憶は、本体に統合されると引き継がれる。だから、今の少彦名命と璃凪姫は、小人達の冒険で何が起きたのか全て知っている。さて、この先の話をどう切り出そうか?


 そう思っていると、対面のソファーに腰掛けた少彦名命が、話を続けて来た。

「それで、今回の探索の結論ですが、『ミュウ』という者は見つけられませんでした。申し訳ありません。」

そう言うと、少彦名命は頭を下げた。

 だが、ムーコが「神々の記憶」にログインしていないことはほぼ確実だと、AM世界での調査から予想していた。そこで、オレは少彦名命に素直に語った。

「いや、申し訳無いのはオレの方だ。ログアウトしてみたら、『ミュウ』となるはずのプレイヤーは意識が無くて、この『神々の記憶』のサーバにアクセス出来て無かったみたいなんだ。」

 あれっ?少彦名命は「神々の記憶」の外の世界のことは、認識できないはずだ。ゲームのキャラクターのAIだから、ゲームに関係のないデータは与えられていないだろう。

「余計なことを言ってしまった。」

と思ったが、仕方がない。

 ところが少彦名命は、

「そうだったんですね。それで、そのプレイヤーの方の意識は、回復できそうなんですか?」

と、普通に応じて来た。こんな風に応えるためには、「神々の記憶」の外の情報を持ち合わせていなければならないが、そんなはずは無い…のか?

 理由は不明だが、オレの記憶や考えが変換されて少彦名命のAIの入力となり、その出力が再度変換されてオレのAMへの入力となっているのだろうか?であれば「リアライズエンジン(改)」の働きなのか?いや、「睡眠学習装置(仮)」のオペレーティングシステムに、何かカラクリがあるのかも知れない。

 …あの現実世界の時宮准教授から来たメールに書かれていた、「時間のループ」に関係する何か。それが、このゲーム内のAIとは思えない、少彦名命の対応を生み出しているのだろうか?

 それでも、ゲーム内のAIでしかない少彦名命は、ムーコの意識を取り戻す方法は知り得ないだろう。少彦名命には彼なりの役割があり、そのAIには限界があるのだ。そこで、オレはこう応えた。

「今のところは、彼女の意識を回復する方法は不明だ。だけど、その方法を今検討している。貴方には貴方が出来ることをお願いしたい。」

「わかりました。それでは、今回の探索の結果を話しましょう。」


 オレが頷くと、少彦名命はコーヒーに口をつけた後、語り出した。

「複製体達は10組に別れる前に、ある集落で家々に入って『ミュウ様』を探しましたが、とても時間がかかってしまいました。この方法では、とても短時間では探せないと気付いたのです。そこで、各地で集落の長を探し出して尋ねる方針に切り替えました。」

「なるほど。確かにそうかも知れない。」

「ところがです。実際に集落の長と会うと、仲間になって協力してもらえるか、敵対されるかの二択になってしまったのです。でも、今回は主人殿にとって重要な探索。敵対された場合には、最初から全力で倒しに行きました。」

「えっ、倒しちゃったんですか?」

少彦名命は涼しい顔で頷く。


 一瞬驚いたオレだったが、冷静に考えるとそれも当然だと思った。何しろ、神である少彦名命があれだけの激戦を戦い抜いて、レベルもかなり上がっていたのだ。

 恐らく、このタイミングではこんなに激闘を重ねて、レベルアップした神は他に無いのでは無かろうか?しかも、今回は少彦名命の本体がこの海の要塞で複製体の材料となる魚を確保しているので、複製体はその数を増やすことができる。その少彦名命が最初から全力で戦ったのならば、負けるはずがなかった。


 ムムッ…ってことは…。オレは、とんでもないことに気付いた。

「そうすると、貴方達が巡って来たところって…。」

「そうです、その内の半分位の集落で長に帰順されて我らの盟下に入り、残りは戦って我らの領地としました。」

やっぱり、そうだったのか。

 確か、「神々の記憶」の設定では、「日本の神々が住まう秋津洲」のマップは大体200km四方。少彦名命達が1日20km程度進んだとすれば、わずか3日で60km四方程度を領地にしてしまったということになる。

 恐らく現時点では、少彦名命は恐らく秋津洲で最有力の神になっているのではないだろう。その少彦名命が隷属するオレは、もしかしたらこの世界の主人に一番近いのかも知れない。

 すると近い将来には、少彦名命はこの世界の王になるのかも知れない。すると、璃凪姫はその王女、そしてオレは2人を従者とし王女を妻とする影の支配者。…なんてね。大学生にもなって、中二病にかかるとは。


 この時は、ムーコが予想通り見つからなかったことに落胆しただけだった。だが、実はAMのオレにとって、少彦名命達の遠征は結果的にとても重要な結果をもたらすことになるのだ。


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