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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第3章 メメントモリ
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3.5. 現実世界の暗雲

 時宮准教授からのメールを読み終えた頃、続いて現実世界のオレからもメールが返信されてきた。フォンノイマンの論文だけでなく、絶版になって久しい著作物も、電子ファイルにして送ってくれた。データ量はネットワーク上のデータと比べるとわずかだが、それでも今は少しでもデータが欲しい。とても助かる。

 現実世界のオレも、AM世界のムーコの状況を心配してくれているようだった。だが、彼にはもっと気になる問題があるようだ。それは、現実世界のムーコについてだった。


 オレがAMになる少し前に、()()()()()()()()()()()との共同開発は終わり、オレがムーコのストーカーではないかと疑っていた八神さんはレゾナンスに帰った。すると、()()()()()()のオフィス前に時々止まっていた不審なワンボックス車の姿は消えて、ムーコへのストーカー行為は終わった…かに見えた。

 ところが、最近、また黒いワンボックス車が現れるようになったと言うのだ。しかも今度は、ワンボックス車が大学付近にまで出没するようになったそうだ。

 そこで現実世界のオレは、最近はなるべくムーコと行動を共にしているらしい。それでもムーコは怯えるし、妹の里奈はやきもちを焼くし…現実世界のオレは頭が痛いのだと言う。しかも、そこまでムーコをガードしても、まだいろいろと不安なのだそうだ。


 あれっ?「リナ」のオリジナルは、こんな字の名前だったのか。「リナ」っていう音もそうだが、「里奈」という字も妙にしっくりくる…というか、何故か懐かしい気がする。それが妹という存在なのだろうか?


 いや、話を戻そう。


 その状況を少しでも改善するために、現実世界のオレが思い付いたのは、ドローンにムーコの監視と護衛をさせること。そして、彼がオレに頼みたいのは、緊急時のドローン制御のサポートだった。

 そう言えば、AMになったばかりの頃に現実世界のオレに頼まれていたことを、今さら思い出した。

「妹の里奈に預けた自己防衛システムの動作が不安だから、何かあったら制御に協力して欲しい。」

と連絡されていたような…。

 今回、現実世界のムーコの護衛に付けたドローンも、それと同じようなものだろう。だが、状況が全く違う。あの時は、

「何かあったら」

だったけど、今の現実世界のムーコが置かれた状況は、ずっと緊迫しているように思える。

 オレは、現実世界のオレからの情報に基づいて、すぐにPCからドローンにアクセスした。ドローンはスリープ中だったが、それでも、設定を確認するためにリモート接続し起動させた。

 やがて、ディスプレイにグラフィカルな設定画面が映し出された。懐かしい。この画面、見覚えがある。と言うより、かなり長い時間この画面と格闘した、という記憶が思い出されて来た。だから、現実世界のオレは設定方法を説明してくれなかったが、見ただけで全てを理解出来た。

 緊急かどうかの判別方法やパラメータ、緊急時の動作モード等を確認したが、オレの考えうる限りパーフェクトな設定だった。まあ、現実世界のオレが設定したのだから、当然だろう。

 ただし、以前にオレが手掛けたのは20機位のドローン編隊による防衛システムだったハズだ。改めて、以前の現実世界のオレからのメールを確認して、彼の妹用のドローンシステムに接続してみると、オレの記憶に間違いが無いことが確認出来た。

 しかし、今回のムーコ用のシステムでは急ごしらえのためか、制御出来るドローンは1機だけだった。だから、護衛よりも監視と通報を主な目的にしているようだ。まあ、クルマで待ち構えるストーカーの攻撃にドローンの編隊を準備しても、あまり役に立ちそうに無いとも思える。

 だから、彼が気にしているのは、あくまで緊急動作時のサポートだろう。あるいは、AMであるオレにも、事の顛末を把握して対応させたいと思ったのだろうか?それなら、オレの役割はそんなに重く無い。…その時はそう思っていた。

 設定を確認した後で、一部の動作を確認する。と言っても、ドローンを飛ばしてしまう訳にはいかない。だから、マイクとカメラだけの動作確認だ。


 マイクをオンにすると、女性の声が聞こえて来た。

「ムーコは、今日もあの桜井君に駅まで送ってもらったの?」

カメラが捉えているのは、ムーコより少しオトナっぽい女性だ。多分ムーコの姉、平山現咲だろう。

「そうだけど、何?」

カメラが音声に反応して向きを変えた。こちらはムーコだ。

「桜井君とは、進展あるの?」

「リア子には関係ないでしょう!」

そうだ、ムーコのお姉さんは、家ではリア子って呼ばれているって、聞いたことがあった。

 それにしても、今は姉妹の仲があまり良く無いのだろうか?以前に、「ビーンストーク@ベイ」で会った時には、仲の良い姉妹だと思ったのだが。ムーコ自身は、姉との関係について、

「今は微妙な隔たりがあります。」

とメールに書いていたが、こういうことか?

 こうしていると、オレ自身がムーコのストーカーになったような気がしてきた。今オレがしていることは、正に、盗聴と盗撮だ。慌てて、カメラとマイクをオフにした。


 さて、こうなったらオレがするべきことは、ムーコ護衛用のドローンが「緊急判定」をしたらAM世界の携帯端末に通知するように設定することだ。さらに、緊急判定後に出力されて来る映像と音声を保存しつつ携帯端末に転送し、逆に携帯端末からドローン操作を可能なように設定した。

 この際だからついでに、彼の妹を護衛するドローンの制御システムについても、同じように設定しておいた。


 現実世界のムーコを護衛するドローンの通知設定をしてはみたものの、役立つ日は来ないと信じていたのだが…。


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