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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第2章 人工意識体の世界
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2.25. ログアウト

 その後、今後どうするか、3人で話し合った。


 まず、璃凪姫がオレとの結婚をどう思っているのか、改めて璃凪姫に尋ねた。すると璃凪姫は、

「私は、命の恩人のシュウ様との結婚に不満など決して…。ショウ様は優しいし私の好みなので…。」

と答えたようだが、声が小さくなっていき、最後の方は聞き取れなかった。モジモジして顔も真っ赤だ。

 璃凪姫の父親である少彦名命とも話した。彼はオレがこの「神々の記憶」でミュウを探していることを知っているので、元々オレがミュウとの結婚を考えていたのではとの推測を述べた。

 オレは彼に対して素直に答えた。

「オレは『神々の記憶』で『結婚』っていう設定があるのは知らなかった。でも、ミュウと結婚するために璃凪姫と離婚しようとは考えていない。」

と。…あれっ、これではドロドロな展開へ一直線なのでは?

 それを聞いた少彦名命は、苦笑しつつ提案して来た。璃凪姫を従者としてオレと主従関係を結ぶこと、それにオレが璃凪姫を嫌っていないのなら婚姻を継続すること。ミュウとトラブった場合には、ミュウを優先すること。

 最後の提案を聞いた璃凪姫はむくれた。でも、少彦名命に何やら耳打ちされた璃凪姫は、急にご機嫌になった。2人が了解して、ミュウにも気を使ってくれた少彦名命の提案に、オレはもちろん乗った。


 その他に、ミュウの探索に2人が最大限協力してくれることが決まった。

 少彦名命としては、他にも解決しなければならないことは沢山あるようだ。だが、それらはミュウを見つけてからだ。もちろんその時は、少彦名命の主人であるオレも協力するつもりだ。


 そうと決まれば、即実行だ。

 まずは、璃凪姫との主従契をしなければ。右手の人差し指を突き出して小さく円を描き、メニューから「主従契約」を選ぶと、璃凪姫を指差す。そして、彼女が「主従契約」を承認すると、契約は完了した。

 次に、少彦名命と璃凪姫の小人の複製体をそれぞれ10人ずつ、少彦名命に作ってもらった。目の前に勢ぞろいした彼等彼女等には、オレがログアウトしている間にミュウの探索をお願いするのだ。

 いかついオッさんの少彦名命ですら、小さいとどこか可愛く見える。まして、小さい璃凪姫は生きた美しい人形のようだ。思わず、璃凪姫の1人の頭を、指で撫でてしまった。そして、

「頼んだよ。」

と言うと、璃凪姫本体より少し高い声で、

「任せてください、旦那様。」

と答えてくれた。あれっ、オレの呼び方が「ショウ様」でも「お兄様」でもなく、いつのまにか旦那様になっている。

 璃凪姫の本体の方をチラッと見ると、少し照れたのか、顔がほんのり赤くなっていた。そして、他の複製体達を見ると、頭を撫でてやった複製体の方を見て、

「いいな。」(笑顔)

「いいな。」(むくれ顔)

「私も撫でて欲しいな。」

「私も!」(手が上がる)

と騒がしい。

 収拾がつかないので、1人ずつ撫でてやると、

「任せて!」

「旦那様、大好き。」

「えへっ。」(笑顔)

などなど、少しずつ違う反応だ。可愛いし面白い。複製体といえども、それぞれ個性があるようだ。

 改めて複製体達に、

「オレは、間も無くログアウトするけど、その間にミュウという女性を探して欲しい。プレイヤーだから、どこかの安全地帯や宿屋に泊まって、そこからログアウトしている可能性もある。」

とお願いした。

 すると、少彦名命の複製体の1人が、

「主人殿のご期待に添えるよう、頑張ります。」

と応えると、一同頭を下げた。

 その後、少彦名命本体が「空間転移」のスキルで複製体達を陸地に送り届けて、すぐに戻って来た。複製体達はそれぞれ、少彦名命と璃凪姫を1組とした10組に分かれて探索して、3日後に散開した場所に戻って来ることになったそうだ。


 その後、少彦名命にベッドを出してもらって横たわると、「神々の記憶」からログアウトした。


 「神々の記憶」で密度の濃い体験をしたためか、「真っ暗でコンソールしか無い空間」に意識が戻って来た時に、どうすれば良いのか忘れてしまっていた。しばらくして、ココからもログアウトすれば良いと思い出してAM世界に戻ると、「睡眠学習装置(仮)」のシェルが自動的に開いた。

 だが、シェルの外も真っ暗だった。手探りでシェルから出ると、研究室の外から街路灯の光が射しているのが見える。もうすっかり日が暮れていたのだ。微かな光を頼りに靴をはき、研究室を手探りで歩いて照明を点けると、時計は午前0時過ぎを指していた。

 ムーコはどうしているのだろう?ムーコがいるはずの仮眠室は真っ暗で、物音一つ聞こえて来ない。ドアをノックしても反応が無いので、ドアノブを回したが、鍵がかかっているのか開けない。

 考えられる可能性は2つある。1つは、ムーコは既にログアウトして帰宅したこと。もう1つは、ムーコがまだ中にいることだ。

 前者ならオレも急いで帰宅すべきだ。「神々の記憶」で会えなかったのに、なかなかログアウトして来ないオレに、気を悪くしているかも知れない。携帯端末に連絡しても反応が無かった。既に寝てしまったのかも知れない。

 だが、後者ならどうしよう?…だが、この仮眠室は鍵が無いと外から開けられず、その鍵は高木さんが持っているのだ。オレの家にいるのと同じくらい安全だ。それに、このAM世界では、体調不良等は基本的には考えられない。だから、明日、高木さんに鍵を借りてこの部屋を開けるまでムーコがここにいても、全く問題ない。


 それなら、オレが取るべき行動は家に帰ることだ…とその時は思った。


 帰宅すると、家は真っ暗だった。家に入って玄関の灯が点っても、そこにムーコのパンプスは無い。ムーコは帰って来ていなかったようだ。すると、まだ大学の仮眠室にいるのだろうか?

 1人では食事を摂る気もせず、シャワーを浴びると、自室に戻った。PCを起動すると、高木さんにメールを送る。状況を説明して、明日、仮眠室の鍵を開けてもらえるように頼んだ。すると、すぐに返事が来て、

「午前10時頃には時宮研に行くつもりだから、その時に一緒に仮眠室を開けて、平山さんの様子を見てみましょう。」

とのことだった。


 他にも2通のメールが来ていた。

 1通は現実世界のオレからだった。その内容は、

「5月になったら、AMを『睡眠学習装置(仮)』から時宮研の新しい量子コンピュータとその制御用コンピュータのシステムに移動したい。」

と言うものだった。当時のオレは、単なるデータの移動だし問題無いと考えて、気軽に了承した。

 後日、別の量子コンピュータへの移動は、AMにとって辛いと体感するのだ。これは、その最初の体験であり、後にオレがAMであり続けるために必要な教訓を得ることになる。


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