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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第2章 人工意識体の世界
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2.6. ゲート

 その翌日の昼過ぎ、枯葉の舞い散る中、ムーコと一緒に時宮研へ向かって歩いていた。直接研究室に行くつもりだったのだが、「印度屋(いんどや)」の前を素通り出来なかった。ムーコがカレーの匂いに釣られて…いやオレもだ。フラフラと入ってしまった。

 そんな訳で、時宮研に着いたのは午後2時頃になってからだった。研究室内では、高木さんが忙しそうにキーボードを叩いていた。他にも2人の学生がいるが、どちらも「のっぺらぼう」さんだ。

 キーボードを叩く音が止まると、高木さんがこちらを振り向いて、言った。

「桜井君と平山さん、いらっしゃい。」

「どうも、こんにちは。」

とオレが言うと、ムーコは高木さんに軽く頭を下げた。

 すると、高木さんから、

「昨日の実験結果、整理しておいたよ。」

と告げられた。さすが高木さん、仕事が早い。そこで、

「ありがとうございます。」

と礼を言うと、高木さんから

「あのね、実験結果を整理していて思ったんだけど、あの刺激反応調査って、五感を網羅していたんだね。」

と感想を告げられた。

 それに興味を持ったムーコが、

「五感って何ですか?」

と言うので、

「それは、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚のことだろう?」

と教えた。すると、高木さんはさらに、

「そうそう。それに、三大欲求のうち、性欲と食欲も網羅しているのよね。」

と言う。

 残りの睡眠欲求は行動を伴う欲求では無いから、刺激反応調査は意外にもバランスの良い実験だったようだ。このデータは、「睡眠学習装置(仮)」をオレの心のインターフェースとするための、良いデータになるだろう。

 

 その後、高木さんにこの世界の「睡眠学習装置(仮)」の操作方法とデータの構成、それに外部とのインターフェースをレクチャーしてもらった。これで、「睡眠学習装置(仮)」をムーコに操作してもらったり、データを自宅から利用することができるようになった。

 色々と説明してもらっている内に、外は暗くなった。すると、ドアの開く音がして、研究室の入り口から顔がはっきり見える男が入って来た。

「よう。みんなで何してるの?」

木田が高木さんを迎えに来たのだった。そのまま、4人でファミレスへ向かった。

 

 「のっぺらぼう」の客と店員の中で食事するのは、まだ慣れたとは言えないが、あまり気にしない。少しお腹が膨れて来た頃に、木田の質問に答え始めた。

「木田は、ここがAMであるオレが構築した世界であることは、知っているよな?」

「もちろん。」

「だから、その本体であるオレ自身の五感は、現実世界のオレを反映して全て揃っているんだ。その一部をゲームプログラムと直結させて、一部は過去のオレ自身の経験で補完させる装置を作ろうと思ったのさ。この間手伝ってもらった実験は、そのデータを集めるためにやったんだ。」

「この間は、ただ『実験するから手伝え』だったもんな。まあ、目的はゲーム好きのお前らしいけど。で、上手(うま)く行きそうか?」

「おかげさまでね。ただ、本当に出来るかどうかは、出来て見ないとわからん。」

「それもそうだな。」

 少し間をおいて、木田がぽつりと言った。

「お前は、この世界を作った張本人だから、現実世界の人間と同様に五感が全部あるのだろう。だが、この世界の俺や高木さん、平山ちゃんの感覚はどうなんだ?多分、現実世界のお前には感知出来ないから、曖昧なんだろう。あの連中の顔のように。」

そう言って指差した先には「のっぺらぼう」の店員がいた。

「感覚が曖昧かどうか、わからないの?」

と皆に問うと、皆首を振った。そして、皆を代表して高木さんが教えてくれた。

「あるシステムが正常かどうか、完全にはそのシステム単独では決定出来ない。桜井君も知ってるでしょう?この場合には各人に感覚があるかどうかだけど、同じことよ。」

何かオレだけ仲間ハズレのような感じもしたが、”Que sera (なるように)sera(なる)”だ。こだわらない。

 その後、いつものように、木田と高木さん、オレとムーコに別れて、ファミレスを出た。


 高木さんが整理してくれたデータを家で確認した。時宮研究室での会話を思い出して、刺激反応調査を「五感」毎にポイントを付けてみた。さらに、刺激毎に整理されていたデータを「五感」毎に整理し直して、対数パラメータセットをディープラーニングで作成した。

 さらに、これをデータベースとして動作する、「睡眠学習装置(仮)」と「リアライズエンジン(改)」のインターフェースプログラムを完成させた。それに思いつきで、「睡眠学習装置(仮)」に意識を接続した時に、外部との接続をコントロールするためのインターフェースも作った。

 この、組み合わせを「ゲート」と呼ぶことにしよう。今後、オレがゲームの世界に「転生」するための、まさにゲートとなるシステムだ。


 翌日の朝、ムーコと二人で時宮研に乗り込むと、まだ誰も来ていなかった。それでも、ここはオレの世界だから構わない。

 早速、ムーコに手伝ってもらって、「ゲート」を試してみる事にした。「睡眠学習装置(仮)」の実験時と同様に、全身を覆うつなぎに着替えて、ヘッドギア、グローブを着用後、ベッドに横たわると、ムーコに合図した。すると、シェルを閉じて「睡眠学習装置(仮)」を起動してくれた。

 それにしても、この世界で、オレと接点が無い時間に、ムーコや木田達は何をしているのだろうか?ひょっとすると、存在していないのかもしれない?

 そんなことを考えていると、程なく、オレは真っ暗な空間でコンソールと向き合っていた。ここまでは、予定通りに動作している。成功だ。


 さてここからは、この「ゲート」を使って、どんなゲームを楽しむかだ。

 もちろん、目星は付けてある。「リアライズエンジン」試用の時に対象とした、「神々の記憶」だ。このゲームでは、プレイヤーは神話時代を生きる一人の人間から神への進化を目指す。歴史時代が来るまでに、他の人や神と同盟や敵対をしつつ眷族と領土を増やして、伝説を創っていくというMMORPGだ。

 通常は、ヘッドセットを装着して3次元画像をヘッドマウントディスプレイで表示しつつ脳波で操作する。バトルシーンでは、素手と武器、それに「奇跡の力」で闘う。それ故に、格闘技の経験が無いと、なかなか生き残れないゲームだと言われていた。だから、これまでは興味があったが、手が出せなかった。

 しかし、「ゲート」を使えば…リアルなだけでなく、反応速度はゲームプログラムで設定された上限となるだろう。オレには格闘技の経験は無いが、それを補って余りある強さでプレイできるはずだ…と思っていた。こんなチートな環境、遊んでみるしかないだろう!


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