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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
6. パズルの絵
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6.22. 洗脳

 そのフォンノイマンのAIに、八神圭伍が言った。

「大丈夫ですよ、フォンノイマン先生。『姫』は計画通り手懐けましたから。桜井君には『女王』と同じ対応で良いでしょう? 」

 「女王」って誰だ? 一般的には、「女王」って「姫」の母親のことだよなあ? 「姫」が里奈だとすると、「女王」はその母…って叔母のことか?

 それで、オレに「叔母と同じ対応」って、どういうことだろう?

 そう言えば、この2日ほど里奈がずっと帰宅していなかったハズなのに、叔母から何の連絡も来なかった。八神圭伍は叔母に何をしたんだろうか…?


 オレが八神圭伍の意図を警戒しながら勘ぐっていると、彼はそのままフォンノイマンのAIに話し続けた。

「僕は実のところ、桜井君が少し怖いんです。彼がこのまま戦闘狂の白銀のおもちゃのままでいてくれると安心なのですが。まあ、フォンノイマン先生が彼をコントロールしてくれるなら、僕は彼と仲良くしていけそうですけど?」

 いつの間にか、八神圭伍の一人称が私から僕に変わっている。一方で、白銀さんのことは名前で呼び捨てだ。この2人、それとフォンノイマンのAIは、どんな関係なのだろう?

 すると、フォンノイマンのAIは八神圭伍に応えた。

「桜井君の扱いについては前にも言った通りだ。繰り返して言うが、桜井君はいずれ私の計画に必要になるんだ。『血に飢えた狼』のおもちゃにするのは止めて欲しい。」

「血に飢えた狼」っていうのは、白銀さんのことだろうな…。

 フォンノイマンのAIは、なおも続けた。

「桜井君をこちらに引き込む前に彼女がここに来ると面倒だから、早く決着をつけて欲しい。」

 えっと、そんな話を本人…オレ…の前で言うか? それに、「決着」って何だ?


 色々気になるので、敢えて2人の話に割り込んでみた。

「えっと、オレが白銀さんと闘うことになっているのは何故です? これ以上…その…『血に飢えた狼』のおもちゃにされると、オレは死んでしまいそうなんですが。」

 オレの問いに応えたのは、八神圭伍だった。

「私としてはその方が良いと思っていたんだけど…いや…その方が楽だったんだけどな。白銀は、闘いたいらしいんだ。桜井君とね。」

 白銀さんがオレと闘いたいって? とても理解できない…。

 そこで、

「どうして?」

と訊き返した。

 すると、八神圭伍は真面目な顔で嘘みたいなことを言った。

「あいつは、強いヤツと本気で闘いたいらしい。」

「いやいや、それなら相手はオレじゃないでしょう?」

 オレの顔を見て、八神圭伍もうなずいた。

 そもそも、オレは一度は彼女に殺されたのだ…事実上。いや、彼女の手下どころか、オレと闘って負ける奴は滅多にいないし…。

 そう思っていたのだが、つい先程、彼女の手下らしき「SWATもどき」2人に勝ってしまった。でもそれは、何故かAM世界で習得した技を、現実の世界で実現できてしまったためだ。つまり、まぐれかもしれない。

 八神圭伍は、彼なりの推測を口にした。

「私もそう思っていたけど、彼女は、どうしてか君が強いと思っていた。…そうだな…現実の戦闘じゃなくても、サバゲーとかゲームとかで白銀と君は闘ったことがあるんじゃないか?」

 …彼の推測が正しいとすれば、サバゲーをしたことの無いオレは、ゲームで戦ったことがある…ということになる。

 では、どのゲームで? …考えてみると、それは「ウォーインザダークシティ」位だろう。やはり、あの「グリムリーパキラー」は白銀さんのキャラクターだったのではないだろうか?

 白銀さん…「狼」の立場なら、「ウォーインザダークシティ」のサーバのログを監視できるだろう。それで、オレが「グリムリーパキラー」をコピーしたらしいことを、「狼」は知っていた…のだろうか?

 オレが「グリムリーパ」の仲間で彼女と敵対していたことも、ログを解析してユーザが誰かわかれば、簡単にばれる。それなら、「グリムリーパキラー」をコピーした理由…訓練相手としてデータを使ってボコボコにした…ことも推測できるだろうし。


 その時、スナイプナビの画面の一部が、突然切り替わった。あの部屋に残してきたドローンからの映像だ。白銀さんと「SWATもどき」が廊下を走っているのを、後ろから追跡しているようだ。

 すると、フォンノイマンのAIが警告を発した。

「八神君、早く決着をつけないと『狼』が来るぞ。」

 それを聞いて八神圭伍がうなずき、リア子が何やらリモコンを操作すると、壁が光りだした。


 やがて映されたのは、端的に言えばオレが里奈を襲っている映像だった…。場所は…正にこの部屋。

 ニタニタ気持ち悪く笑っている男…それがオレの顔をしている。泣き濡れてキモい男から逃げ出した里奈の胸は、はだけていた。彼女はそのまま隣の部屋へ逃げていく。

 そして、里奈を追って隣の部屋へ入っていくオレ。やがて、泣き叫ぶ里奈はオレに捕まって、ベッドに押し倒された…。

 危機一髪の里奈を救ったのは、三笠さんと八神圭伍だ。

「三笠さん、それに圭伍兄さん!」

「圭伍兄さん」だと???

 ディスプレイの中の八神圭伍が、キモい男…オレに叫ぶ。

「このくされ外道が。私の妹に手をかけるとは!」

八神圭伍がオレを牽制している間に、三笠さんが里奈を救出する。


 何だこの歪んだ三文芝居は???


 里奈の様子は…オレを睨みつけている。隣りにいる三笠さんは笑っている。

「まあ、こういうことだ。里奈の記憶にこれが事実として刻み込まれて、私が里奈の恋人になったんだ。」

「だってこれは、あんたらが作った、ただの映像だろう?」

……いい加減、三笠さんたちに敬語を使う気がなくなって来た。

 すると、八神圭伍が言った。

「それがどうした? これは里奈にとっては事実だ。」

「ただの映像がか?」

 八神圭伍は意外な言葉で応えた。

「『ただの映像』を『現実』にするのが、リアライズエンジンではないか?」

「どういうことだ?」

「『ただの映像』を現実のように体感できるようにする。それが『リアライズエンジン』の開発目標だっただろう? 桜井君も随分貢献してくれたじゃないか? それを使ったんだ。里奈の洗脳にね。」

 リアライズエンジンは、3年前に最初のバージョンが開発されて、その後もアップデートされ続けてきた。だけど、それは()()()()()()とレゾナンスという会社がやってきたことで、八神圭伍の個人的な企みでは無かったハズだ。

 しかし、この状況。まさか彼は…。

「八神さん、あなたは最初っから『リアライズエンジン』を里奈の洗脳に使うつもりだったのか?」

「そうだよ、三笠さんもね。」

「でも、何でそんなことを?」

「里奈…彼女を手に入れた者が、()()()()()()を手に入れる。そのためだ。…が、それは君だって解っているんじゃないのか?」


 …八神圭伍が何を言っているのか、オレには理解できなかった。


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