6.18. 厳しい戦い
オレが「城」に突入すると同時に、スナイプナビの画像が切り替わった。屋外モードから屋内モードへ。すると、この「城」の各階のマップと現在位置が表示されるようになった。このマップ情報は不完全で間違いもあるのだろうが、客観的に自分自身の現在位置を知ることができるのは助かる。
一方で、「ウォーインザダークシティ」でのスナイプナビと違って、「城」の各所にあるかもしれない監視カメラの映像は取り込めていない。だから、「彼」、白銀さん、その他の敵、そして里奈がどこにいるのか、全く判らない。
でも、スナイプナビの暗視カメラ機能で、室内は鮮明に見えている。
とりあえず、この部屋のドアを慎重に開けると、ドローンを先行させた。スナイプナビからの情報量が、瞬く間に増えていく。1階の廊下の突き当たりには予想通り「敵」らしき2人の人影があったが、他の「敵」は1階の廊下にはいない。
流石に室内ではドローンのモーター音や風切り音が聞こえてしまうので、ドローンの存在は敵にも察知される可能性がある。だから、これ以上は近寄らないで静かに着地させ、音と映像を送信し続けさせる。
残り2機には階段を通って、他の階へ移動させた。
2階の廊下を飛行したドローンからは、「敵」の情報は得られなかった。少なくとも、廊下にはいない。それに、マイクのゲインを最大にしたが、各部屋も静寂そのもの。
ところが、3階へ向かったドローンは、階段を駆ける何者かの足音を捉えた。さっき、屋上からオレを狙撃しようとしたのは白銀さんだった。すると、この足音は彼女か?
彼女はきっと銃を持っている。オレとムーコが襲われた時には、オレがコントロールを奪った大型ドローンは彼女に撃墜された…のを思い出した。きっと、彼女にドローンが見つかれば、すぐに撃墜されてしまうだろう。
そこで、3階で廊下に出てあたりに人影が無いことを確認すると、静かに着地。階段の方へカメラを向けて待ち構える。
そこへ足音が大きくなって来た。近づいて来ると、足音だけでなくガチャガチャと音をたてていることに気づいた。やがて、ドローンの映像は彼女を捉えた。
見た目は素手だ。でも、より鮮明な映像の彼女の服装は「黒いジャケットとズボン」というよりも、まるで警察の特殊急襲部隊「SAT」だ。きっと、服にも何か武器を装備できるようになっているのではないか?
ここは彼女の「城」だから、彼女が武器を持って彷徨いても見咎められることは無い。そもそも、狙撃用のライフル銃をぶっ放してきた彼女だ。服の中に収まるサイズの武器なら、何を持っていてもおかしくはない。
やがて、映像の中の彼女が後ろ姿になった。
「ふぅー、なんとかやり過ごした。白銀さんに見つかったら、ドローンを1機失うところだった。」
そう安心したのも束の間。最初に変化があったのは1階だった。廊下の突き当たり…本来の入り口前…に待機している「敵」が誰かに話しかけているのを、ドローンのマイクが捉えた。
「我々は、入り口から移動してません。」
「…そうです。」
…会話になっていない。廊下の突き当たりにいる2人が会話しているのではなくて、恐らく、誰かと通信しているのだろう。その相手は、この「城」にいる仲間。それも、白銀さんである可能性が高いか?
すると、マイクのゲインを上げた3階のドローンから、白銀さんの声が聞こえた。
「それなら、1階の2人はそのまま待機。3階は警備2名だけを残して、あとは私と一緒に来い。」
すると、1階のドローンから音声が聞こえてきた。
「了解。」
そして、3階のドローンからは物音が聞こえて、その方向の映像がズームされる。すぐに3人のSATもどき…いや今は「敵」…が映し出された。が、3人もドローンに気付かず、階段を降りて行った。
これでドローンは無傷のまま。
良かった。…気が抜けた…。
ふと、AM世界にいた時に「廃墟の街の世界」で何度もグリムリーパキラー、ハインツそしてルーミーと戦った時のことを思い出した。グリムリーパキラーは、罠を仕掛けてそこにオレを誘い出し、狙撃してきたのだった。
その記憶が、前後の敵に逃げ道をふさがれたオレが突然襲いかかってきた白銀さんに撃ち殺される体験に替わる…白昼夢…?
「廃墟の街の世界」では、オレもグリムリーパキラーも、万全のスナイプナビを利用していた。だけど、今はどうだろう? 白銀さんは、多分、この「城」の各所に設置されているだろう監視カメラの画像を視ることができる。
でも、オレが得られる情報は3台のドローンのみ。武器も銃を持っているのは「敵」だけ。白昼夢は予知夢かもしれない。
この状況を覆すにはどうしたら良いか…?「廃墟の街の世界」ではグリムリーパキラーのスナイプナビをハッキングした。ならば、ここでも同じことが出来無いか?
ここはかつてICPの事務所だったようだ。それなら、セキュリティを考慮して、基幹となる回線は無線では無いだろう。それならば、監視カメラを探す。…それはきっと基幹回線に繋がっているだろうから。
そして、その映像や音が白銀さんが伝えられているのなら、きっと無線の回線で繋がっている。そうでなければ、白銀さんは移動しながらこちらの状況を確認できないからだ。
それなら、ハッキングすべき対象は、監視カメラと有線で繋がっている基幹システムだろう。多分、無線回線は、そこからルータを経由して繋がっている。無線回線から侵入するには、障害がより大きくなる。
そこで、監視カメラを探そう…と思った。が、この部屋には存在しないようだ。だから、この部屋に侵入して早々に強襲されなかったのだろう。運が良かった。いきなりマシンガンをぶっ放して踏み込まれていたら、…そこで詰んでいただろうから。
でも、廊下には…ドローンが飛んで行った時に、確かに映像には監視カメラらしきものが映っていた。早く監視カメラの位置を特定して、そこに携帯端末を繋いでハッキングしたい。
それには、監視カメラを見つけるための「眼」が足りない。下手にこの部屋を出ると、廊下の突き当たりにいる2人に気付かれてしまう。
仕方がないから、3階のドローンを戻すことにした。白銀さんからなるべく離れた所を飛んで、彼女を追い越す…。
次の瞬間、「城」の中を銃声が轟いた。そして、白銀さんを追い越そうとしたドローンからの情報が途絶えた。一撃だった。凄まじい銃の腕前だ。
やはり、白銀さんとやり合うのは無理ゲーなのか…。




