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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
6. パズルの絵
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6.17. 突入

 駅から降りたオレはデジャブを見ているような気がした。昨日と同じように、小さい駅を出ると辺りは既に暗くなっていた。そして、流石に天の川が見えるほどに空は暗くないけれど、周りに目立つ建物は少ない。


 里奈は、ここから徒歩で20分位の場所…かつてICPが所有していた建物の中…にいるはずだ。


 携帯端末の地図情報を見ながら10分ほど歩くと、大きな川にかかった長い橋に至った。その橋を渡って対岸に着くと、土手から橋の下に降りた。ここで、最後の準備をしようと思っていた。

 不要だとは思ったけど、一応、ドローンを飛ばした。そう、電車の中で指示を与えたドローン。「敵」が彼なら…この位は保険をかけておかないと。

 ドローンは一気に上昇すると、真っ暗な夜空に溶けていった。

 そして、メガネ型のディスプレイを装着すると、スナイプナビの電源を入れた。「ウォーインザダークシティ」ではスナイプナビは偵察衛星や無数の監視カメラの画像を次々取り込んで統合していたが、現実世界で新庄が再現したこのシステムで得られる情報はずっと少ない。

 現実世界では、多くの画像情報がハックされないように保護されている。新庄は、クリエイターだけどハッカーでは無い。だから、セキュリティの甘い画像情報だけがディスプレイに映し出されているのだろう。

 だからドローンの情報でカバーする必要がある。

 1機、2機、3機…ドローンが次々と飛び立って行く。バックパックに残ったのはわずか1機。それでも、情報量が増えて、スナイプナビの情報が統合されていく。

 AM世界にいた頃に「ウォーインザダークシティ」で感じた、あの「世界がまるっと見える」感覚がよみがえる。

 でも、この感覚に浸っている時間は無い。「ウォーインザダークシティ」のスナイプナビは、ドローンは常時展開だ。だけど、現実世界では飛び続けるのはせいぜい1時間。それ以上はドローンのバッテリーが持たない。

 だから、時宮准教授から預かった「黒い棒」をバックパックから取り出して手に持つと、里奈と「敵」が待つ、今はレゾナンスが所有する廃屋へと急いだ。


 それから間も無く、スナイプナビのディスプレイに、1機のドローンが捉えた目的地の上空からの映像が映し出された。小さいがビルのようだ。多分、鉄筋コンクリートの3階建。そのビルがフェンスで囲われていて、敷地は小学校の校庭位か? …意外に広い。

 ここに潜入しようとしているオレには、難攻不落の「城」のように感じた。だけど、「敵」はオレの動向を知らず、オレに対して何も準備していないだろう。そう思ったオレは、躊躇せずに、敷地の入り口から歩いて入った。


 その時、スナイプナビが警告音と共に赤外線画像を最前面に表示した。「城」の屋上に誰かいる。そしてそいつは、手に持っていた何かを設置して、腹ばいになって構えた…。

 ヤバい! と思った瞬間、オレは反射的に停めてあったクルマの陰に転がり込んだ。わずかに遅れて銃声が響き、一瞬前にオレがいたところから空気を切り裂く音が聞こえた。

 数秒後、サーチライトが点いて、こちらを照らす。

 それで気付いた。オレが隠れたクルマは、見覚えのある黒いワンボックス車。ナンバーこそ確認していないが、恐らく「彼」のクルマだ。そして、クルマの周りには光の筋が見える。相当、土煙が上がったみたいだ…。

 やがて、屋上の人物の映像が、スナイプナビの最前面に映しだされた。これは…あのドローンが撮影した人物に良く似ている…。

 画像が拡大されると、その人物が黒いジャケットとズボンを纏い髪をひっつめた、女性であることが判った。やはり、オレとムーコが襲われた時、あの大型ドローンを狙撃した女性なのか?

 さらに画像が拡大されると、女性がこちら…ドローン…の方を振り向いた。「彼女」は…白銀さんだった。

 白銀さんが「グリムリーパキラー」かもしれないと思ってはいた。サイバーポリスである銀さんが、ネットワーク上のコンテンツの実情に詳しくなるために、オンラインゲームである「ウォーインザダークシティ」にログインしていてもおかしくは無い。

 だけど、警察官の彼女が、まさかここ…犯罪の現場…に「犯罪者」として存在しているとは…。そして、何の警告もなく、一般市民のオレに銃口を向けた。…いや、それどころか狙撃してきたのだ。

 そういえば、時宮准教授は

「警察は信用しない方が良いだろう。」

と言っていたが…。

 「ウォーインザダークシティ」では、「グリムリーパキラー」の仲間は複数いたようだ。だったら、白銀さんにもきっと仲間がいる。主犯である「彼」以外にも。

 それは、高坂和己の仲間…旧ICPの社員でレゾナンスに恨みを持つ者達? だけど、高坂和己自身はすでに精神を病んだと聞いた。

 それなら、白銀さんには別な系統の仲間がいるのかも知れない。…それは警察関係者…なのだろうか?

 そういう「敵」がいることを想定しつつ、スナイプナビの情報…先ずはこの建物の構造…を確認する。

 ここから一番近い建物の正面には自動ドアがあるが、きっとそこはロックされている。破壊しなければ中には入れまい。しかも、仲間が複数人いるなら、そこで誰かが待ち構えている可能性が高い。

 建物の横に回れば、比較的破壊しやすい大きな窓のある部屋があるようだ。そこに辿り着くにはどうすれば良いか? 「城」の屋上には、まだ白銀さんが狙撃銃…M1500だろうか…を構えている。

 どうやら「彼」のクルマを傷つけたくないのだろう。オレがこのクルマの陰に隠れてからは撃ってこない。…こう着状態だ。だけど、こうしている間にも、白銀さんの仲間がこちらに向かっているのかもしれない。早く次の手を打たなければならないけど、一体どうすれば良いのか…?

 

 その時、携帯端末に電話がかかってきた。とりあえず受信した。

「桜井君、豊島よ。桜井君の状況は、新庄さんからスナイプナビの情報を見せてもらっているから分かるわ。でね、そこで花火大会が間もなく始まるのよ。ちょうどそこで花火を打ち上げる花火師が友人で、カウントダウンするから、うまく利用して。」

豊島からの電話はすぐに切れた。

 オレが心の中でうなずくと、スナイプナビに「了」のサインが表示され、カウントダウンが表示された。

 20秒、19秒、…。オレはこの「城」を囲うように展開していたドローンを、右側の窓付近へ移動した。

 13秒、12秒、…。ドローンの情報では、窓の内側に人の気配は無さそうだ。

 10秒、9秒、8秒、7秒、6秒、5秒、4秒、3秒、2秒、…。辺りが突然明るくなり、直後に大きな音が轟いた。オレはこれに合わせてスナイプナビの光と音に対するゲインを下げていたが、暗視スコープやヘッドホンで周囲の光や音に対する感覚を増幅させていたであろう、白銀さんやその仲間は混乱しているハズ。


 今だ! オレはクルマの陰を飛び出して、右側の窓へ突進して棒を振るって窓を割り、部屋の中へ。…ついに「城」の中へ突入した。


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