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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
6. パズルの絵
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6.15. 時宮准教授の夢

 オレがそんなことを考えていると、時宮准教授はオレに言った。

「桜井君、このセット、何か足りないと思わないか?」

 AM世界でよく使ったスナイプナビを思い出して、

「それは、ドローンですね。『スナイプナビ』は衛星画像を取得したり監視カメラを自動的にハッキングして画像情報を得るだけじゃなくて、ドローンを複数台有効活用することで、情報面でのアドバンテージを得るためのものですから。」

と、つい答えてしまった。

 すると、何故か藤田が会話に入ってきた。

「ドローンなら、5台調達して来ましたよ、昨日。時宮先生のご指示通り。」

奈良が研究室から大きな紙袋を2つ、持ってきた。

 これで、VRゲーム「ウォーインザダークシティ」内でバーチャルに存在するだけだった戦闘システム「スナイプナビ」が、実現してしまうようだ。だけど、時宮准教授はこんなものを本当にサバゲーで使うつもりなのだろうか?。

 藤田が持ってきたドローンを箱から出して眺めていると、時宮准教授は

「これで、準備は整った。それじゃあ、桜井君以外は解散。」

と言った。すると、皆ゾロゾロと准教授室を出て行った。


 後に残されたのは、三木さんが開発した変な帽子と新庄が開発したスナイプナビ、そしてオレと時宮准教授だけ。最後に豊島がオレに手を振って准教授室から出て行くのを見届けると、時宮准教授は珍しく…いや多分初めて…真面目な顔になった。

「それで、これから行くんだろう? 妹さんのところ。」

 そう、昨日は気になりつつも辿り着けなかったが、今日はもちろん里奈の自己防衛システムが示す位置へ向かう。今のところ、里奈の自己防衛システムは、発動…モード変更…していないようだ。里奈の携帯端末は家にあるのに、自己防衛システムの位置情報は昨日から動いていない。そして、叔母とも連絡がつかないまま…。

 こうなったら、なるべく早く自己防衛システムの示す場所へ行ってみるしかない、と思っていた。だけど、その前に時宮准教授の呼び出しに応じて、ここに来た。


 それは何故か?


 そんなことを考えていたら、時宮准教授に尋ねられた。

「桜井君が私の呼び出しに応じてここに来たのは、私が君の敵かどうかを見極めるためだろう。違うかな?」

どうやら時宮准教授は、オレに疑われているのを知っていて呼び出したらしい。

 そこまで気付かれているのなら、是非も無い。オレも本音で行く。

「それは…その通りです。オレがピンチになることを知っていたのに、そのタイミングで席を外したりするから…。先生は玉置由宇や里奈を拐かした犯人…それともその一味なのでは? と疑っているのですが。」

 彼が敵ならば、その企みを探っておかないと、後ろから刺されそうだ。もちろん、本当は味方でいて欲しい。里奈の失踪のことだって、できれば相談に乗って欲しかった。

 すると、

「玉置由宇っていう娘はともかく、桜井君や妹さんの敵になる予定は無いさ。何と言っても師匠のお子さんたちだからなあ。」

と真面目な表情のまま言った。


 言葉は自由だ。だが、それが正しいかどうかを確認する術は無い…。


 それにしても、何故、時宮准教授がオレの考えを見抜いたのか? それを問うと、彼はこう答えた。

「AMの桜井君から、彼が見たっていう夢の内容を私に伝えてきたんだ。AM世界の桜井君は、現実世界の桜井君から、近いうちに連絡が来るってね。その時に彼はこうも言ったんだ。現実世界の桜井君は、妹さんを取り戻しに行くまでは私を敵だと疑っているハズだ、と。」

 AMのオレは、どうしてそんなことを時宮准教授に伝えたのか? このオレ自身よりも成熟して頭の回転も速い彼が、現実世界の時宮准教授を信用している…。その言葉の通りなら、オレは里奈を救出して戻った時、時宮准教授と真に和解することになるのか?

 その疑問は、時宮准教授が続けた言葉ですぐに解消した。

「だけど、現実世界の桜井君は、私が準備したモノを使って、何とか生還できたらしい。それで、私が敵の一味じゃ無いことを信じてもらえたのだと。」

時宮准教授の言葉には、重要な何かが抜けているような気がしていた…。


 それでも、今はその「何か」を確認する時間は無い。話を先に進めることにした。

「それが、三木さんのガジェットとリアル『スナイプナビ』ですか?」

 時宮准教授はうなずいた。

「そう。実は私と桜井君、それに豊島さんが准教授室にいると、三木君と新庄さんが来るという夢を見たのは、君の意識が戻って間もない頃だったんだ。その夢の中で、三木君が帽子型のガジェットを、新庄さんが『スナイプナビ』の端末を持って来ていたんだ。先ほど桜井君も見た通り、私から頼まれたと言ってね。その時の私は、未来の自分が何で三木君たちにそんなモノを頼んだのか、サッパリ分からなかったんだ。」

 オレには時宮准教授が言っていることの方が、謎だった。

「それは変ですね。例えば三木さんの試作品は、時宮先生の指示で開発したんじゃないんですか? 先生ご本人がちゃんと意図を持って指示しなければ、三木さんもPECも動かないと思いますが?」

 すると、時宮准教授はわざとらしく咳払いをして言った。

「それはもちろんだよ。あの試作品は、研究成果をわかりやすく示せるモノとして作ることになったんだ。精神状態を制御するなんていう難しい概念を説明するより、素晴らしい音楽が不快に聞こえるアレはわかりやすいだろう?」

 その説明も試作品も、どこか時宮准教授らしいボケを感じた。…ので、一応突っ込んでみる。

「逆に、不快な音を心地良く聞こえるガジェットにしようとは思わなかったんですか?」

 すると、彼は一瞬、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情を浮かべた。…そして、やや間をおいて、早口で捲し立てた。

「人はね、不快な音には割と短時間で慣れてしまうんだ。だから、あの試作品は良い所を突いていると思うし、PEC側も同意したんだ。…あの打ち合わせで、咄嗟に思いついたモノだったけど…三木君の不満も解る。」

言い訳がましい。前半は堂々としていたが、後半は声が小さかった。

 それじゃあ、あの「スナイプナビ」は何なのだろう? それを尋ねると、

「ああ、あれはAMの桜井君からのレポートを読んだが、『スナイプナビ』がどんなものか理解できなかったんだ。それで、卒業間近だった新庄君に尋ねたら、リアルに再現して見せてくれると言われたんだ。それならと思って、私のポケットマネーで依頼した。」

と応じた。

 新庄の説明とは少し違うけど、時宮准教授から新庄がそう言われれば、新庄なら彼女が言ったように解釈しても不思議では無い。AM世界の新庄以上に、現実世界の彼女は「ウォーインザダークシティ」にどっぷり浸かっていたようだし。ゲーマーとしてハマっていたのは知っていたけど、開発者としても関わっていたとは…。


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