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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
6. パズルの絵
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6.14. サバゲー?

 すると、そんなオレの様子を見た時宮准教授が、三木さんに言った。

「君の研究…PECとの共同開発は、どうやら実用段階に到達したみたいだね。」

 時宮准教授の言葉を聞いた三木さんは、微妙な表情を浮かべた。

「ですね。量子コンピュータのエラー訂正技術を応用して、推定した脳の量子状態の変化に対して逆位相の強制力を与えて干渉する僕の研究。それを応用して指示された試作品の開発には成功しましたけど…副作用と言って良いのか。素晴らしい音楽を聴いて幸福感のある状態で干渉されると、不幸感がマシマシになって気分が悪くなってしまいます。こんなものを、何に使うのかわかりませんが…趣味が悪いというか…。」

 これって、三木さんの研究成果だったのか。その「成果物」をオレから奪った豊島は、被ったり外したり。…その都度表情が大きく変わるので、見ていると楽しくて飽きない。

 やがて、「帽子みたいな物」は、さらに新庄、奈良、藤田の手を渡って行く。

彼らの表情の変化を楽しく観ながら、時宮准教授と三木さんのシリアスな会話に耳をそばだてた。


 時宮准教授は笑いながら言った。

「三木君は、『素晴らしい音楽を台無しにするガジェット』を開発したんだよ。私が、三木君の研究成果をわかりやすく示すものとして、試作を指示したんだけどね。」

 すると、三木さんは複雑な表情で応えた。

「確かに、この試作品の目的についてはそう仰ってましたね、最初から。実際に、PECで開発していると、興味深そうに質問してきた役員や、技術者の方もいました。開発自体は楽しかったんですが…。」

 三木さんは、このガジェットの試作に「複雑な感情」を持っていたようだが…。時宮准教授はそれを気にする様子もなく、あっさり言った。

「じゃ、これは頂いていいんだよね? 桜井君が必要になるから。」

「もちろんです。PECには時宮研究室で壊れるまで試験すると言って、持ちだしましたから。」


 えっ、この「帽子みたいな物」はオレが使うのか? 何のために?


 時宮准教授はうなずいて言った。

「ははっ、ただの『素晴らしい音楽を台無しにするガジェット』ならば…イグノーベル賞が狙えるかもだ。だけど、この研究には、将来もっと別な応用を考えているんだ。それは、着用者への仮想感覚の付与と、精神状態の制御だ。」

 三木さんもうなずいて言った。

「だけど、その域にはまだ達してません。もう少しで聴覚の他に視覚についても仮想感覚が与えられそうなんですが…。」

 2人の話についていけないけど、知らないうちに、この変なガジェットのユーザー…いや被験者?…にされてしまいそうなオレは尋ねた。

「それで、この『素晴らしい音楽を台無しにするガジェット』は、どうやって素晴らしい音楽を台無しにするんですか? しかも、着脱しても聞こえて来る音楽そのものには変化が無いように感じたんですけど。」

 オレの問いに、三木さんが答えた。

「その帽子自体は、単なるインターフェースなんだよ。それでも、大分小型軽量化したけど。システム本体はもちろん別…PECの研究室にあるのさ。このインターフェースが脳の電磁場を観測して、それをシステム本体で解析する。そして、着用者が意識できない程度の音を感じるように、脳に直接刺激を与えるんだ。」

 そう言われてみれば、そんなシステムについて、三木さんから時宮研の報告会で聞いたような気がする。こんな帽子みたいなインターフェースを使うとは、想像もしなかったけど…。

 すると、今度は新庄が質問した。

「それを一体、何に使うのです?」

 その問いには、時宮准教授が答えた。

「最終的には、例えば宇宙飛行士などに使ってもらうことを考えている。極限状態でもパニックにならずに、正しい判断をしなければならない仕事がある。今まで、そういう仕事はメンタルが強い人がやってきたけどね。でもそんな仕事の最中にパニックになると、当人、あるいは周りの人まで危険に晒してしまう。」

 その答えは、このガジェットについてではなく、三木さんの研究についてだろう。少しはぐらかされているような気がした。

 三木さんもそう思ったのか、時宮准教授の発言を補足しようとしたのだが…

「…と言うことで、その研究をPECと共同で開発していたわけなんだけど…コレは時宮先生に頼まれて作ったその応用品。…で時宮先生、何に使うんですか、コレ? 音楽が微妙に不快に聞こえるようにするなんて? 逆に、不快な音楽が快適に聞こえるようにするガジェットなら、カラオケとかで使えそうですが…。」

…結局、三木さんは説明を投げ出した。

 時宮准教授は笑っていた…いや、苦笑か? それでも、彼にとっては予定通りなのか、平然として三木さんの言葉にできない抗議を無視…。


 そして話題を変えた。

「それじゃあ、次は新庄さん。」

 新庄は一瞬驚いて、自身を指差したが、すぐに気を取り直して応じた。

「ってことは…ここで先生からの依頼品を提出しちゃって、良いんですか?」

時宮准教授はうなずく。

 新庄がゴソゴソとバッグから何かを取り出して、応接テーブルの上に置いた。見た目は普通の携帯端末だが、何だろう…?

 彼女がそれを操作するとアプリが起動した…表示された画面を見て驚いた。これは…AM世界にいた時に体感したゲーム「ウォーインザダークシティ」で見た、あるガジェットの起動画面によく似ている。そして、その疑問は彼女から次にバッグから取り出したメガネ型のディスプレイを見て確信に変わった。…コレは「スナイプナビ」じゃないか。何故こんなものを?

 オレは密かに驚いたが、新庄は説明を始めた。

「コレを時宮准教授から依頼されたのは、卒論提出の翌日。都市で移動しながら、複数の人と戦う時に役に立つガジェットを作って欲しいって。その後、『ウォーインザダークシティ』のアップデートプロジェクトに関わって、次期「スナイプナビ」案を作った。そして、却下された案の一つをこのヒューマンインターフェースとして流用した。採用案よりもこっちの方が機能的だと思うけど、ゲームではユーザ受けするデザインが優先する。」

 移動しながら戦うって…時宮准教授は一体誰と戦うつもりなんだろう? というか、この現実の世界でマジに「戦う」っていうのはヤバい。…そうか、時宮准教授はサバゲーでもやってて、オンラインゲーム「ウォーインザダークシティ」で使われている「スナイプナビ」を投入しようとしているのだろうか?


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