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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
6. パズルの絵
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6.9. ログイン

 オレはアカウント名とパスワードだと信じた文字列を、打ち込んだ。そして、エンターキーを叩きながら、思わず叫んだ。

「Que sera sera!」

 次の瞬間、ログイン画面が消えて、UnixかLinux系OSのCUIらしき画面が現れた。どうやら、オレが確信した通り、現実世界の「フォンノイマンのレクイエム」もAM世界と同じアカウントとパスワードでログインできたらしい。

 気が抜けた…。これでオレたち3人は、この危険な部屋から脱出できるハズだ…。


 しかし、部屋の扉は閉じたまま。ロックが解除されるような音もしない。川辺が焦って、部屋に入ってきた時のように携帯端末をかざしたが、扉は開かない。

 この部屋に入った時、「犯人の仲間」の声は、

「『フォンノイマンのレクイエム』へアクセスできれば、外のドアは開錠される」

と言っていたのだが…。

 あれっ? そういえば、今開けようとしているのは外のドアではなく内側の扉だ…。

 川辺が犯人から指示されて携帯端末をかざした時、扉が開いたのは何故だ? 犯人がそのタイミングでリモートで扉を開けたのだろうか? それとも、犯人は川辺の携帯端末をハッキングしていて、非接触デバイスを介して扉を開けたのか…。

 そこで、川辺に尋ねてみたが、

「この部屋に入った時には、指示された通りに携帯端末をかざしただけだ。俺は携帯端末の操作はしてない。どうして扉が開いたのかなんて、興味もなかったし…さっぱり分からん。」

と断言された。

 元来陽キャな川辺は、情報工学科出身とは思えないくらい、こういうことに疎い。この様子では、川辺の携帯端末にはマルウェアがいろいろ仕込まれていても、不思議では無いが…。


 さて困った。


 だけど、目の前にあるのはコンソール。しかもそれは、「フォンノイマンのレクイエム」…最強の知性を持つシステム…に直結されているハズだ。

 といっても、これがどんなシステムなのか、さっぱり判らない。わかるのは、ディスプレイに映し出されているのが、UnixかLinux系OSのCUIらしいことだけ。

 このシステムを理解して、この部屋のコントロールをハッキングするだけの時間を犯人が与えてくれるかどうか…が問題だ。これは「オタクハッカー」のオレでも馴染みのないシステムだし、この部屋やリモートコンソールのシステムを作った奴は、技術力がありそうだ。そんなシステムをマニュアルでハッキングするのは、難易度がめちゃくちゃ高い。

 それならば、「彼」の協力を仰ぐ他あるまい。「彼」とは、もちろんフォンノイマンだ。UnixかLinux系OSの構造は、子供の頃に祖父からしっかり叩き込まれた。そして、時宮准教授が構築するシステムも、祖父の構築したシステムと配置が似ていた。だから、父も多分…。

 予想したディレクトリに、スクリプトファイルを見つけた。多分これだ。CUIで見つけたスクリプト名を打ち込んで、エンター。


 すると、間も無くディスプレイからCUI画面が消えて真っ暗になった。だが、落胆する間もなく、壮年の男性の顔が浮かび上がった。

「君は桜井さんでも倉橋さんでも無いようだ。一体誰なんだい?」

 それは見覚えのある顔だった…。そう、AM世界の「シュバルツワルドヒュッテ」で会った、フォンノイマンその人だった。彼はオレを認識できているようだった。どこかにカメラがあって、それがシステムに繋がっているのだろう。

 父が創った「フォンノイマン」のAI。その彼と話ができるのは感慨深いが、犯人がこの状況に気付けば、すぐにこのコンソールからのアクセスが切断されてしまうかもしれない。

 そこで、オレは急いで彼に言った。

「オレは桜井俊の息子です。この部屋に閉じ込められてしまいました。ここから出たいので、この部屋の扉を開けてくれませんか?」

 すると、笑みを浮かべて彼は言った。

「お安いご用だ。」

しかし次の瞬間、フォンノイマンの姿は消えて、ディスプレイは真っ暗になった。


 犯人に、コンソールと「フォンノイマンのレクイエム」との接続を切られたらしい。間に合わなかった…とオレは思った。

 だが、オレとフォンノイマンのやり取りを聞いていた川辺が、扉に手をかけて開いていた。…この極めて短い時間に、フォンノイマンのAIはこの部屋のコントロールを奪って、扉のロックを解除してくれたのだろう。確かに、恐ろしいAIだ。


 川辺が玉置由宇を背負っていくと言うので、オレが彼に代わってに扉を押さえていると、急に部屋も扉の向こうの廊下も真っ暗になった。そう言えば、空調の音も聞こえない。

 オレが照らす携帯端末の明かりを頼りに、真っ暗な室内を出て真っ暗な廊下をゆっくり進む。


 だが、今度はオレたちが去った真っ暗な部屋の方から、けたたましくベルが鳴り響いた。そして、

「ここはあと3分で爆発します。急いで退避してください。」

と「犯人の仲間」の声が聞こえてきた。

 オレたちは何とか外側のドアの前までたどり着いたが、開け方が分からない。何故なら、内側にはドアノブが無かったから…。「犯人の仲間」は、ログインできればロックは解除すると言っていたのだが…。

 ここまで来て助からないのか…と思ったが、ドアの外から人の声がするような気がした。

 そうだ、豊島がこの場所を警察に通報したと言っていた。警察は目の前まで来ているかもしれない。そして、警察が突入してこないのは、オレが豊島にそう頼んだからだった。


 そう思いついた時、再び「犯人の仲間」の声が聞こえた。

「あと2分で爆発します。大至急、退避してください。」


 もう時間が無い。豊島に急いで音声通話を発信した。そして豊島が受信すると、

「頼む。今度は今すぐ外のドアを開けて欲しいんだ。ドアの前まで来てるけど、この建物が爆破されるかもしれない。」

と言った…いや絶叫したという方が正しいかもしれない。

 豊島はオレには直ぐに返事をしなかったが、周りにいる誰かに何かを話しているようだった。オレには長い時間に感じられたが、多分それは10秒くらいの沈黙だったと、後から思った。

 やがて、彼女の声が聞こえた。

「ドアから少し離れて。」

 オレと川辺が後退って、

「おう。」

と返事をしたのと、

「あと1分で爆発します。」

という3度目のアナウンスが聞こえたのは、ほぼ同時だった。


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