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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
6. パズルの絵
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6.4. 混乱

 …と思ったけど、良く見ると反応はまちまちだった。


 高木さんは少し困ったような顔をして、木田に小声で何やら話しかけていた。やはり、研究テーマであるハズの「フォンノイマンのレクイエム」へアクセスすると聞いて、困惑したのだろう。夢の中のオレと同じように…。

 一方、木田は落ち着いているように見えた。木田には夢の内容を話してあった。そして夢の通り、高木さんが来た嵐の日に、川辺と女子高生が時宮研究室に突然現れた。だから、川辺の言葉も、彼にとっては唐突のことでは無い。

 豊島と玉置由佳は…混乱しているように見えたが、特に玉置由佳の方だ。彼女は、姉が帰って来ないのは川辺のせいだと思っていたのだろう。ところが、その川辺は時宮研(ここ)にいる。というか、彼女と同時に慌てて研究室に入ってきた変な男が川辺だった…。

 そして川辺。彼のこれまでの軽薄な行動から、玉置由佳からは姉の誘拐犯と疑われ、他の面子からも胡散臭く思われている。でも、彼もある意味被害者のように見える…イマイチ信用できないところもあるけど…。


 その川辺がオレに尋ねてきた。

「『フォンノイマンのレクイエム』って何なんだ? 何か、音楽のような名前だけど…。犯人は、時宮准教授かお前から聞き出せってメールで指示してきた。…ってことは、桜井は犯人に心当たりは無いのか? 少なくとも、犯人はお前を知っているみたいだし。」

「だけど、犯人がオレと面識があるなら、オレに直接聞いてくるんじゃないか?わざわざお前を脅迫して、オレか時宮准教授から聞き出させるなんていう面倒なことはしないだろう。」

 オレの言葉に川辺はうなずいた。そして、質問を続けた。

「それはそうだけど…桜井の妹も拉致したと俺に言ってきた。何で、お前の妹のことをお前に直接ではなくて、俺に言ってくるんだ?」

「オレもそう思う。犯人は一体何を考えているのか。」

とオレは言葉を返した。


 そう言いながら、心の中では2つの可能性について考えていた。


 一つは、犯人が川辺に恨みを持っていて、脅迫したということだ。でも、それなら

「『フォンノイマンのレクイエム』へのアクセス方法を、時宮准教授か桜井から聞き出して、返信しろ。」

なんていう指示をするだろうか?

 もう一つは、犯人が『フォンノイマンのレクイエム』へのアクセス方法を知りたいのに、何らかの理由でオレや時宮准教授とは直接連絡したくない…とか。でも、その理由が分からない。それに、何故川辺を脅迫したのだろう?


 オレがそんなことを考えているうちに、川辺は次の質問をしてきた。

「それじゃあ、『フォンノイマンのレクイエム』って何なんだ?」

 来たか…この質問が。この2週間近く、ずっと悩んできた質問だ。アクセスできる「フォンノイマンのレクイエム」とは…? 未だにその答えは見つかっていない。この謎を解いて、犯人の質問に答えられなければ、玉置由宇は解放されないのだろうか?

 ふと隣の玉置由佳を振り返ると…真剣な表情だ。オレと川辺の話を聞き漏らさないように、耳をそばだてているのだろうか? 手をぎゅっと握りしめているが、強く握りすぎて手が少し白くなっているような気がした。それで、手を取って固く握られた指を開かせると、手のひらは爪で内出血して赤くなっていた。

 何とかしなければ…とは思うけど、すぐに答えが見つかる訳もない。困った。


 オレが固まっていると、高木さんが助け舟を出してくれた。

「どうも桜井君は、『フォンノイマンのレクイエム』のアクセス方法を知らないようだけど?」

「そうなんです。だって…。」

と言いかけて、困ってしまった。

 オレと高木さん、それに木田が知っている「フォンノイマンのレクイエム」とは、時宮准教授がオレの父から引き継いだ研究テーマの名前だ。だから、「アクセス方法」なんて無いし、その研究テーマのことは口止めされている。

 それを知っている高木さんは、軽くうなずいて、

「犯人が何を企んでいるのか分からないけど、何か勘違いしているんじゃ無いかな?」

と言ってごまかそうとしてくれた。

 でも、玉置由佳は無茶なことを言い出した。

「とにかく、お兄ちゃんが思い出してくれないと困ります。そうしないと、お姉ちゃんが…。」

『フォンノイマンのレクイエム』のアクセス方法は、玉置由宇を救出する唯一の手がかりだ。川辺のことは信用していない玉置由佳でも、今は藁にもすがる想いなのだろうが…。

 すると、今度は木田が助け舟を出してくれた。

「それなら、時宮先生に聞いてみれば良いだろう。犯人も、桜井か時宮准教授に尋ねろと言ってきたんだろう? 桜井が分からないなら、時宮先生だ。」


 そう言えば、あのおっさんにはオレが見た夢の内容を説明した。そして、彼は、予知夢かもしれないと言っていた。彼は、こうなることを知っていて、姿を消したのだ。

 何故、川辺たちが来る前にここから去ったのだろうか? ここにいると都合が悪いからなのか? 他に理由があるのか? …例えば、彼が犯人だった…とか?

 

 オレが時宮准教授に疑いを持ち始めた頃、高木さんと時宮研究室の面々は、時宮准教授へのアクセスを試し始めた。高木さんは電話を、木田はPCに向かって何やら作業をしているから、きっとメールでも書いているのだろう。豊島は携帯端末を手にしているから、きっとメッセージでも送っているのだと思った。

 だけど、結局、だれ一人として時宮准教授と連絡がついた者はいなかった。電話は繋がらず、メールもメッセージも既読にならない。「時宮研(ここ)から逃げた」のでは無いとしても、意図的に我々からの連絡を拒否しているように感じた。


 その時だ。


 オレの携帯端末にメッセージが届いた。送信元は…AMのオレ。このタイミングでメッセージが来るのは、悪い予感しかしない。メッセージを開くと、

「お前の妹の里奈が危ない状況にある。だけど、それは本人の意思だ。だから、まだ自己防衛システムは自動発動していないし、オレも手動で発動させていない。」

とのことだ。

 AM世界のオレからのメッセージにしては、意味がよく分からない。里奈本人の意思で、「危ない状況」にある…とは?

 里奈の携帯端末の位置情報は、彼女と叔母の家から動いていないようだ。自己防衛システムが示す里奈の位置はどうだろう? AMのオレからの連絡のように、自己防衛システムは発動していないらしいし、破壊されてもいない。当然、自己防衛システムの位置情報は失われていないのだが、里奈たちの家とはかなり離れた位置を指していた。


 携帯端末で地図情報を見ると、ここは今は廃屋のようだ。だが、この位置情報の履歴を遡ると…かつてあの高坂和巳の会社「ICP」の建物だったらしい。そこで登記情報を調べると、レゾナンスの所有物のようだ。少なくとも現時点で、レゾナンスでは全く使っていないようだが…。どうしてこんな所に里奈がいるんだろう?

 ふと、玉置由宇の位置情報はどうなっているのか気になった。そこで、玉置由佳に尋ねると、

「携帯端末の位置情報では、姉は今でもバイト先(レゾナンス)にいることになっています。」

「それじゃあ…。」

「レゾナンスには連絡してみたんですが、もちろん『居ない』って言われちゃいました。」

 里奈も玉置由宇も、携帯端末を持たずに攫われた…わざわざ置いてきたようだが、何故だろう? それに、2人とも同じ場所に拉致されているのだろうか?


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