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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第1章 プロローグ
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1.16. 侵入

 ()()()()()()には、プロジェクトマネージャーの加賀さんとチーフの三笠さんが公認の、オレ専用で自由に使って良いと言われている非公式PCサーバーがいくつかある。バイトのオレとしては、異常に優遇され、信頼されていると感じる。これは、二人とも何も言わないが、亡き祖父のおかげなのかも知れない。祖父が元気だった頃に相談しにやって来た人達の中に、今よりずっと若かった加賀さんの姿があった事を、オレは覚えている。

 その内、IDS(侵入検知システム)を動作させていたシステムが、異常を告げていた。偽装されてはいるが、レゾナンスからの侵入で間違い無さそうだ。()()()()()()内でその様な情報は聞こえて来ないので、社内の正式なセキュリティシステムでは検知されていないのだろう。

 オレのIDSは、オープンソースのソフトウェアにAIを組み込んで、ネット上の情報から勝手に学習して検知能力を向上させる独自仕様だ。偽情報を検知した可能性は、勿論否定出来ない。それでも一応、プログラミングチーフの三笠さんに、検出状況とこのIDSの仕組みを報告した。


 その翌日、三笠さんに呼び出されて、オフィスには行かず、駅から離れた行ったことのない喫茶店に入った。すると、そこにはプロジェクトマネージャーの加賀さんも待っていた。

「一体、こんな所に呼び出して、どうしたんですか?それも、()()()()()()の屋台骨、プログラミングのトップ2が揃って。」

「いいや、桜井君も含めてトップ3だ。」

と加賀さん。

 オレは、まだチーフだった頃の加賀さんも知っているが、今は実力も実績も統率力もナンバー1だと思う。その加賀さんにそう言われて悪い気はしないので、

「その言葉は嬉しいですけど、今は不穏な感じしかしませんが…。」

と言うと、三笠さんが言った。

「さすが桜井君、勘が良いね。」

ありゃ。昨日の件、ヤバかったかな?

 三笠さんが話を続ける。

「加賀さんには今報告し始めた所だったけど、桜井君が来たから最初から説明しよう。昨日、桜井君の話を聞いた後に、セキュリティマネージャーの佐藤さんと一緒に社内のIDSのログを確認したんだ。すると、異常とは検出されないけど、不自然なパケットがあった。でも、サーバーにはそれらしいログが無い。」

「まあ、侵入されてルートキットを仕込まれたと思うべきだろうな。ウチに入って来るとは、多分相手はプロ。それもかなりのレベルって事だな。」

と、加賀さん。

 それに対して、三笠さんが答えた。

「ロキネットを使ってネットワーク経路を誤魔化していたみたいだけど、ウチもいろんな手を打ってあるから、侵入経路は確認出来ました。」

「それで、侵入者は誰だ?」

「さすがに侵入者までは特定できませんが、桜井君のIDSが推定した通り、レゾナンスのネットワークから入って来ている事は間違いなさそうです。」

「レゾナンス絡みだと、厄介だな。とりあえず、データをバックアップサーバーに移して、本チャンのサーバーにはダミーデータを突っ込んでおけ。あと、他のシステムも挙動をチェックして、本チャンサーバーの信頼を下げておく必要があるな。」

 そこに、恐る恐る発言した。

「八神さんはどうしますか?能力は高いと思いますので、彼が関わっていると厄介だと思いますが。」

「八神か。確かにスキルはあるな。でも、彼は直接的には多分関係無いだろう。」

「何故ですか?」

「あれだけの能力だ。その気があれば、さっさと欲しい情報を盗んで証拠を隠滅し、とんずらするだろうよ。」

「なるほど。」

「でも、北山社長にも話を通しておく必要があるな。まあ、彼女は技術面では口を出さないんだけど。」

 加賀さんが続けてオレに言った。

「後はだな、桜井君。サイバーポリスに知り合いいたよな?」

「ええ、警察庁の白銀(しろがね)さんです。」

「一応、情報交換しておいてくれないかな?()()()にさ。」

「わかりました。」


 喫茶店を出た後、()()()()()()のオフィスへは行かずに家に帰ると、久しぶりにサイバーポリスの白銀さんに電話をかけた。

「先駆科学大学の桜井です。ご無沙汰してます。」

「桜井君か。どうしたの?君から電話して来るなんて、あまり良くない事があったのかな?」

 白銀さんとは一度だけ、直接会った事がある。高木さんとは違う方向のメガネキャラだ。30代半ば位で、美しいけど威圧感のある、バリバリのキャリアウーマンって感じだった。頭の回転も早く、今回も電話してまだ何も言わない内に、何かに気づいた様だ。

 オレは話を続けた。

「実は、バイト先のネットワークが侵入されて、ルートキットを仕込まれたかもです。」

「桜井君のアルバイトって、()()()()()()だったかな?」

「そうです。」

「あそこはセキュリティ堅そうだけど、そんな所に侵入してきたの?」

「ええ。どうやら、入られてしまったようです。」

 電話口の白銀さんが、一瞬静かになった。電話向こうの白銀さんが、頭脳をフル回転させているに違いない。

「それで、どうしたいの?」

「バイトのオレが連絡したのは、今のところは()()()にお知らせしたかったのと、似たような事件が無いかを教えて欲しい、という事です。」

「そうね。ここ最近、量子コンピュータ用のソフト開発をしているベンチャーがやられているわ。名前は出せないけど。どこも、ロキネットを使ってネットワーク経路を隠蔽して、ルートキットを仕込まれて…。」

「ウチも正にそうでした。」

「それで、良く侵入されたのが分かったわね。他の所は皆、データを根こそぎ持って行かれて全消去されて、その後で初めて気付いているのよ。結構、セキュリティがしっかりしている所でもね。」

 情報を頂けたし、白銀さんにはこちらの状況をもう少し説明しても構わないか。

「はは…。ちょっと変わったIDSで検出しました。」

「まあ、良いわ。そのIDSがどんなものか、あとで教えて?」

「はい。」

とは言ったものの、オレの個人的な趣味で()()()()()()内に設置したIDSとは、説明しにくい…。

「ここからは憶測だから、他言無用よ。こちらで確認できたルートキットは普通に出回っているものじゃ無かったのよ。恐らく、某国のスパイ組織かその末端が関与しているかもって事になってるわ。」

 いやはや、本当にヤバいことになっているのかも知れない。

()()()()()()が、()()に連絡する気になったら、また連絡してね。」

という言葉と共に、電話が切られた。いつも忙しい白銀さんだ。


 白銀さんの話から推測すると、レゾナンスが攻撃してきた可能性は低そうだ。むしろ、狙われているのはレゾナンスで、()()()()()()はとばっちりの可能性が高い。白銀さんとの話は、明日、三笠さんに直接口頭で伝える事にした。

 それにしても。レゾナンス自体が侵入者で無いとすると、一体何者なんだろう?それに、ストーカーかも知れない八神さんは、味方なのか敵なのか?このネットワークの不正侵入と関係あるのかどうか?レゾナンスにはわからない事が多い。


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