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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第5章 その先へ
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5.24. 川辺の言い分

 玉置由佳から聞き出せたことは、玉置由宇が昨日から家に戻らず警察に失踪届を出した、ということだけだった。


 後は、川辺に話を聞いてみるしかないか?


 「フォンノイマンのレクイエム」が玉置由宇の失踪と関係しているような話ぶりだったけど、どうして彼はそう思ったのか? それに、そもそも、どうして彼が「フォンノイマンのレクイエム」を知っているのか?

 オレは、玉置由佳に言った。

「それじゃあ、時宮研に戻ろう。川辺が、お姉さんの行方について、何か情報を持っているかもしれない。」

 今度は、玉置由佳は落ち着いて応えた。

「わかったわ。」

オレが歩き始めると、玉置由佳も後ろからついてきた。


 時宮研のドアを開けると、室内が明るくて驚いた。停電は終わったのか? …そういえば、さっき自販機でコーヒー買ったっけ? 研究棟のロビーや廊下が暗かったのは、停電のせいではなくて、省エネのせいだったのかもしれない。時宮准教授も、大学の運営費が足りてないとか言ってたが…。

 研究室の中に入ると、コーヒーの香りが漂ってくる。皆の姿を探すと、応接テーブル近くに集っていた。肝心の川辺は、叫んだり騒いだりすることもなく、ただうなだれていた。

 その周りにいた木田、高木さん、それに豊島も、口を閉じたままで、表情は硬い。こんな時でも、一番冷静なのは木田だろう。そこで、木田に尋ねた。

「何があったんだ?」

 すると、木田が答えた。

「川辺が付き合っている女性が何者かに拉致されて、連絡が取れなくなっているらしいんだ。」

 それを聞いた玉置由佳がオレの顔を見て、何か言いたそうだったが、オレはそれを手で押し留めて、今度は川辺に尋ねた。

「その女性っていうのは、『倉橋里奈』だろ?」

 すると高木さんが、口元を手で覆って叫びかけた。

「えーっ、『里奈ちゃん』って…まさか桜井君の妹の?」

豊島も驚いて、オレの顔を見て言った。

「桜井君の妹と川辺君は付き合っていたの?」

 川辺はオレから顔を背けて、ボソッと言った。

「あいつは『倉橋里奈』を名乗っているけど…多分違う。もちろん、桜井の妹じゃない。彼女の名前は恐らく『玉置由宇』。桜井の妹の友達だと思う。」

 それを聞いた玉置由佳は、イライラしたのか貧乏ゆすりを始めたが、オレはまた彼女を制止した。…こういう時は、こちらが必要な情報を得るのが先だ。

 特に、今、川辺をどこまで信用して良いのかわからない。玉置由佳が言ったように、川辺こそが玉置由宇を拉致している可能性だってある。…だけど、それなら川辺が時宮研に来た理由は何だろう?

 オレは再び川辺に尋ねた。

「お前は、どうして彼女の名前を『恐らく玉置由宇』だなんて言ったんだ?」

すると川辺は、今度はオレの方を向いて答えた。

「それは、彼女が名前を教えてくれないからだ…俺が悪かったんだけど。」

 続けて川辺は、こんな話をした。


 きっかけは『倉橋里奈』…桜井の妹…を名乗る偽物に、偽名を使っていることをネタに、言い寄ったことだった。最初はかなり強引にデートに誘ったつもりだったのに、彼女はとても楽しそうだった。

 やがて、『倉橋里奈』の方から誘ってくるようになった。それでも、彼女が本名を教えてくれることはなかった。彼女は、レゾナンス社内でも『倉橋里奈』と呼ばれている。その理由は分からないけど…。

 そんなある日、待ち合わせたレストランで、携帯端末を操作する彼女の後ろを通った。声をかけようとした時、不意にディスプレイに映った『玉置由宇』の4文字が目についた。…どうやら彼女の名前は『玉置由宇』というらしい…。

 ところが、昼休みが終わろうとしていた時のことだ。『倉橋里奈』からメールが届いた。彼女はメッセージのアカウントを教えてくれないので、もっぱらメールで連絡していたから、今朝も何も考えずメールアプリを開いた。

 すると、突然、動画の再生が始まった。真っ暗な画面が突然明るくなると、そこに映し出されたのは、ベッドに横たえられたまま手錠で拘束された彼女らしき女性の姿だった。

 だが、数秒後には画面が暗転し、白い文字が表示された。そこには、こんなことが書かれていた。

「フォンノイマンのレクイエムへのアクセス方法を調べておけ。時宮良路か桜井祥太あたりが知っているだろう。追って指示するが、こちらの指示通りに動かないと、その時は覚悟するんだな。」

 …そして、そのメールは消えてしまった。狐につままれたような心地だったが、会議が間も無く始まる。こんな画像は、誰でもAIで生成できるし、イタズラの可能性が高い…とも思った。

 一応こちらからメールを出したが、反応が無いし、彼女の連絡先はメールアドレス以外は知らない。そこで、彼女がアルバイトで働いているデザイン部門に事情を話して、彼女が予定通りに出勤しなければ教えてくれるように頼んだ。

 そうしておいて会議室に駆け込んだが、1時間ほどして、受付から呼び出された。警察官が来ていると言う。結局、任意ということで警察署に連れて行かれて、経緯を聞かれた。

 事情聴取が終わって警察署を出た俺は、レゾナンスの所属部門に電話で状況を説明すると、今日は帰って良いと言われた。それで、そのままここに来たのだ。…「フォンノイマンのレクイエムへのアクセス方法」を知っておくために。


 川辺の話が終わると、皆の視線はオレに集まった。川辺が

「フォンノイマンのレクイエムへのアクセス方法を知っているのは、時宮准教授か桜井だ」

というのだから、それも仕方の無いことだ。

 しかし、オレは途方に暮れた。オレは、「フォンノイマンのレクイエムへのアクセス方法」なんて知らない。第一、オレと高木さんが時宮准教授から聞いた「フォンノイマンのレクイエム」は、アクセス出来る何かでは無い。それは…父が時宮准教授に受け継がせた未完の研究テーマだったハズなのだが…。


 …今回の夢は、ここで終わった。


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