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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第5章 その先へ
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5.22. 危険人物

 オレは少しガッカリしつつ、種明かしをした。

「これは、オレとムーコが襲われた日に、襲撃された場所に近い建物の屋上に設置されたカメラが捉えた映像らしいのですが…あまり鮮明ではなくて。」

 事実を少し脚色して話した。この2人に、ムーコのことが心配で監視用のドローンを仕掛けていたなんて、オレには言えない。そのドローンの映像ではあるが、撮影した時にはどこかの家の屋根の上に着地していたハズだ。だから、オレの言葉は嘘では無い。

 すると、2人の目の色が変わった。そしてハモった。

「もう一度、再生して!」

 そこで、オレはループ再生モードにしてPCのディスプレイを2人に向けると、2人の様子をジーっと見た。今度は、2人とも真剣に眼を見開いている。


 そのうち、八神圭吾がディスプレイの一部を指差して、何やら小声でリア子に話しかけた。すると、リア子はうなずいたが、リア子の肩が小さく震えだしたように見えた。

 八神圭吾も、震えた声でつぶやいた。

「あの事件の時に桜井君とムーコちゃんの様子を探っていたドローンは、何らかのトラブルが起こって、証拠隠滅のために犯人グループが銃撃で破壊したらしい…。そう警察の知り合いから内々に聞いたことがある…話半分に聞いていたが…。それが本当なら、ドローンのトラブルを把握できる場所にいて銃を持っているらしい、この映像の人物こそが主犯なのだろうか?」

 やがて、八神圭吾がリア子の手を握ると、リア子の震えが鎮まっていった。

 八神圭吾がリア子が落ち着いたことを確認するように彼女の顔を見つめると、リア子は軽くうなずきかえした。リア子が落ち着いたのを確認すると、彼は口を開いた。

「申し訳ないけど、この映像の女性らしき人物が何者なのか、僕達にも心当たりは無い。だけど、この映像をもらえないだろうか? こちらでも調べてみようと思う。」

 オレはもちろん、映像を八神圭吾たちに渡すつもりだった。だけど、こんな映像をネットワークでやり取りするのは危険だと思っていた。

 そこで、バッグから外付けメモリを取り出すと、八神圭吾に渡して言った。

「こちらでも調べているんですが、今のところ手がかりがありません。お互いに、何か分かったら情報を共有しましょう。」

 すると、八神圭吾も応えて言った。

「わかったよ。こちらでも何か分かれば連絡する。」

 オレがうなずくと、彼はさらに加えて言った。

「それにしても、この女性が持っているのは銃だろう? 本当に犯人グループに銃を持つ人物がいるとは…。だけどそれなら、彼女が日本人だとすると、自衛隊か警察の関係者である可能性が高いだろうね。」

と。

 この情報はリア子、八神圭吾、それにオレにとって、身の安全を左右する重要な情報なのだ。八神圭吾には何か情報のあてがあるのだろうか?


 リア子も高坂和己に襲われたことのある1人だ。その高坂和己は気が狂って逮捕されたが、彼には銃を扱う物騒な仲間がいて、まだその辺りを彷徨いている。それを再認識してしまったのだから、リア子も、彼女を守ろうとして当事者になった八神圭吾もショックだっただろう。

 リア子のケーキはまだ残っていたが、彼女の顔色は悪くなったままだ。八神圭吾は、そんなリア子の手を引いて、去って行った。


 後には、オレと里奈が残された。オレは、期待したような情報が得られず、少しガッカリしていた。一方、里奈は駅で待ち合わせた時よりは、大分血色が良くなったように見える。

 駅からここまで歩いてきた時には、里奈は顔を真っ赤にしてボーッとしていた。少し熱中症かもしれないと思っていたけど、それ以前に体調があまり良く無かったのか?

 忙しく過ごしているとは思うけど、叔母と同居しているから安心していた。だけど、里奈は本当に、ちゃんと食べてしっかり眠れているのだろうか?

 里奈に、いろいろと尋ねてみなければ…。

 そこで、

「里奈は忙しそうだけど、ちゃんと食べてる?」

と尋ねると、

「前に話したように、今はとっても忙しいわ。経済学部の経営学科はレポートも多いし、デザイン学科の授業もしっかり課題もこなしているから…。それに…いや、でも食事は摂ってるよ。」

と耳たぶを触れながら答えた。


 オレと暮らしていた頃の里奈は、毎日腕を振るって手料理を作ってくれた。里奈は料理は得意だ。だけど、課外授業などで数日家を空けて帰ると、即席麺のカップでゴミ箱はあふれかえっていた。里奈自身のためには、里奈はきっと動かない…。

 だから、里奈の言う

「食事は摂ってる」

は、栄養面では信用できない。

 そこで、切り口を変えて

「いつも叔母さんと一緒に食事しているの?」

と尋ねると、

「叔母さんはとても忙しくて、ほとんど外で食べてるわ。」

と言う。

 やっぱり。これでは、里奈は栄養が足りていないかもしれない。

 それと、里奈がチラッと言った

「それに…いや」

って何だろう? 里奈が耳たぶを触りながら話す時は、大抵、何か隠し事がある…オレの経験では。そして、その隠し事を追求しようとしても、話してくれる可能性はゼロだ。気にはなるけど、その言葉は聞かなかったことにする。


 それじゃあ、オレがなんとかしてあげないと。そう思って口を開きかけたら、里奈が先に口を開いた。

「さっきの由宇ちゃんの話、私は何となくわかる気がするの。」

 オレが話そうと思っていたことと違うけど、里奈がオレに話したいことがあるようなので、先を促した。

「どういうこと?」

 すると、里奈はモヤモヤを吐き出すように、話し出した。

「彼女は、川辺さんのことが気になっているのかもしれないわ。」

「気になっているって?」

「由宇ちゃんは、あまり恋愛経験が無いみたいなの。それで…その、川辺さんにアタックされて、それを嫌っていない…みたいな?」


 里奈の言葉を聞いて、オレは少し驚いた。理由は分からないけど、川辺と玉置由宇はまさかの相思相愛? それで里奈に尋ねた。

「それって、恋愛感情じゃ無いの?」

「多分そうだわ。だけど由宇ちゃんには、彼女自身の感情が何なのか分からなくて、戸惑っているように見えるんだけど…。」

 そんな状態の玉置由宇が、あの川辺に近づくのは、ちょっと危険な気がした。そこで、

「川辺は女好きで、いつもあちこちで女性に声をかけまくっているんだけど…。」

と忠告した。

 しかし、里奈はすこし早口で言った。

「それは由宇ちゃんにも伝えているわ。だけど、由宇ちゃんの態度は変わらない。それなのに、由佳ちゃんは川辺さんに対してはもちろん、そんな由宇ちゃんにもイライラしているみたい。」

玉置由佳の感情と言いつつ、里奈もイライラしているみたいだ。

 しかし、里奈の推測とはいえ、玉木由佳と川辺の関係は何となくわかった気がした。


 里奈はさらにこう言った。

「それと、映像の女性、私もどこかで見たことがあるような気がするんだけど…思い出せない。」

と。

 里奈の記憶が正しければ、あの映像の人物の正体は更に絞られる。少なくとも、オレと里奈が会った可能性がある人物と言うことになるからだ。


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