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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第5章 その先へ
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5.21. 川辺と玉置姉妹

 里奈にもう少しいろいろと尋ねてみたい…と思った。


 だがその時、リア子と八神圭吾が現れた。オレは、

「お久しぶりです。」

と声をかけて、頭を下げる。

 オレが現実世界に復帰してから、この2人にはとても世話になった。この2人が声をかけてくれなければ、コールドスリープする前にムーコを見舞うこともできなかったし。

 里奈のことは気になるけど、先ずは情報収集だ。再び、「殺される」ようなことが起こらないように。危険を回避する。…もちろん、それはオレだけで無い。里奈もムーコのような目に遭わされるようなことがあれば、オレは気が狂ってしまうだろう。


 2人はオレと里奈の前に並んで座ると、ケーキセットを頼んだ。話が長くなりそうだから、オレたちも腹ごしらえをした方が良いかもしれない。

 それで里奈に尋ねた。

「オレはパンケーキを頼むけど、里奈はどうする?」

「それじゃあ、私はチーズケーキ欲しいな。祥太さんのおごりでね。」

そう言った里奈は笑顔だった。

 ケーキ1つで元気になるのなら、オレも嬉しい。オレはうなずくと、パンケーキとチーズケーキに加えて、オレと里奈の飲み物のおかわりを注文した。


 だけど、オーダーしたものが来るのを待たずに、早速話を切り出した。先ずは割と無難な話から…

「川辺はちゃんと仕事してますか?」

と尋ねた。

 だけど、2人はオレをジーッと見て固まっている…。何故だ? オレには、2人が何故固まっているのか分からない。

 その時、里奈が横から声をかけてきた。

「川辺さんって、祥太さんと同じ時宮研究室の出身の人ですよね?」

って、里奈もそのことを知っているハズだけど?

 困惑したオレに、里奈はウインクした。そうか、里奈は八神圭吾とリア子に川辺を思い出すきっかけを作ったんだ。…オレは里奈の顔を見て小さくうなずいた。

 すると、八神圭吾が言った。

「そうか、思い出したよ。川辺君っていう新入社員がいたっけ。彼、桜井君と同じ研究室の出身だったのか。彼は、頭は悪く無いし真面目なところもあるんだけど、ノリが軽くて…。僕はあまり話したこと無いよ。僕もだけど、桜井君とも違うタイプだよね?」

 そう言われてオレは苦笑した。それと、

「あまり話したこと無い」

と言いつつ、川辺の本性をしっかり見抜いている。…八神圭吾の眼力に、密かに脱帽した。

 リア子の川辺に対する印象は、もっと悪かった。

「ウチで里奈ちゃんの名前を名乗っている玉置由宇ちゃんに、彼は盛んにアプローチしてるみたいだけど…。印象は良くないわね。」

と言って、ため息をついた。


 そのタイミングで、注文したケーキセット、それにパンケーキとチーズケーキが運ばれてきた。メープルシロップとコーヒーの香りが、食欲をそそった。

 早速4人とも、目の前のスイーツに手をつけた。


 パンケーキを味わいながら、オレは考えた。予想していた以上に、2人とも川辺との接点は無い。それなのに、彼に対してあまり良い印象は持っていないようだ。

 それなら、玉置由佳についてはどうだろう? と思いつつ、

「それなら、お2人は玉置由佳さんをご存知ですか?」

と尋ねたが、2人はまた固まった。

 あれっ、メッセージでは彼女を見かけたことはあるような返信だったけど…。

 すると、里奈がまた助け舟を出してくれた。

「レゾナンスのエントランスで、いつもお姉さんの由宇ちゃんを待ってる女子高生ですよ。」

「ああ、あの『出待ち女子高生』ね。あの娘、玉置由佳ちゃんって言うんだっけ?」

と、リア子。

 里奈は、リア子の疑問に答えてくれた。

「ええ、そうです。玉置由宇ちゃんの妹ですよ。」

 「玉木由佳」を認識したリア子は、自身の彼女に対する印象を語った。

「『出待ち女子高生』となら、話したことがあるわ。彼女は礼儀正しいし、機転も効くのよ。ちょっと前に、エントランスで急病の来客に対応してくれたこともあったらしいし…。そのうち、レゾナンスに来てくれないかしら?」

 う〜む、リア子の、玉置由佳に対しての印象はかなり良いらしい。オレにとっては、ちょっとうざい存在だけど…。ふと、八神圭吾の表情を見ると、少し引き攣ったような笑みを浮かべていた。

 彼は、玉置由佳の本性に気づいているのかも知れない。それに、川辺のことも良く見抜いていた。多分、リア子よりも川辺と玉置姉妹のことを理解している。…彼には独特の物事の本質を捉える能力があるようだ。

 そこで、八神圭吾に尋ねた。

「玉置由佳さんは、川辺のことを知っているんでしょうか?」

「名前は姉の玉置由宇さんから聞いて、知っているかもしれない。だけど、川辺君と玉置由佳さんは、直接会ったことは無いだろう。少なくとも、レゾナンスではね。」

 名前もよく知らない川辺と玉置由佳が直接会っていないと断定するなんて、オレには不思議に思えたので理由を尋ねた。

「どうしてですか?」

「『出待ち女子高生』が来る時間帯は、新人研修の時間でね。エンジニアの新入社員は全員参加だ。川辺君は、女子社員に声を掛けまくっているらしいけど、研修をサボったことは無いと思うよ。」

「なるほど。」

 オレはそう言いながら、あの夢の記憶を辿っていた。あの夢の中で2人は、同時に時宮研に入ってきたくせに、お互いを無視して各々自分の話を捲し立てていた。…あの時あの2人は、お互いに見知っていなかったのだろうか?

 以前に「フレッチャー」で玉置姉妹から聞いたことを思い出した。「倉橋里奈」としてアルバイトをしていたのが川辺にバレて、それをネタに川辺が玉置由宇に言い寄っているとか。だから、少なくとも玉置由佳は川辺のことを「知」ってはいるハズだ。

 あの夢が予知夢なら、あの場面の川辺と玉置由佳は険悪な関係で、話し合うつもりが無いから互いに無視した…のだろうか?さすがに、そんなことをこの場で、八神圭吾とリア子に話すつもりは無い。


 オレが八神圭吾と話している間に、里奈とリア子も話し続けていた。その里奈の言葉のカケラを、オレの耳が捉えた。

「…じゃあ、由宇ちゃんは、まだ私の名前で働き続けるつもりなんですね?」

「そうなのよ。彼女は、『もう少しだけこのままにしてください』って言うのよ。理由を尋ねても、黙ってしまって。何かこう、恥ずかしそうに顔を赤くして、顔を背けてしまう感じで…。」

と言ったリア子は、少し困っているように見えた。

 そんなリア子を見た里奈も、困惑して言った。

「不思議ですね…。今度会ったら、話してみます。」

「そうね、お願いするわ。」

「いいえ。悪いのは私です。元はと言えば、私が現咲さんにお願いしたことですから。それにしても、由宇ちゃんがそんなこと言うなんて…。何か事情があるのかな…?」

 「無難な話から」なんて思っていたのに、意外に重たい話になってしまったようだ。


 でも、そろそろ本当に重い話をしなければなるまい。そう思って、バッグからノートPCを取り出して起動すると、ファイルを開いた。

 そして、

「ところで、今日来ていただいたのは、この画像を見て欲しかったからです。」

と言って、3人にあの画像を見せた。

 だけど、目の前の2人…八神圭吾とリア子…の反応は鈍い。

「これは女性? 良くわからないけど、僕に何か関係あるの?」

と八神圭吾。

 リア子も、

「これはどこかの屋上かしら? この人影は一体誰なの? それに、この人が手にしているのは何でしょう?」

と言ってきた。

 残念ながら、2人とも映像の人物に見覚えがないみたいだ…。


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