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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第5章 その先へ
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5.19. 闇から浮かび上がった人影

 翌日、眠りから覚めると…何も夢を覚えていなかった。予知夢どころか、夢を全く見なかったのか? 次の木曜日まで、あと4日。やはり、4日以内に予知夢を見て夢の中で川辺の反応を見るなんて、正に「夢物語」だ。

 とはいえ、情報は集めておかなければならないだろう。朝食を食べ終わると、オレは早速あちこちへ連絡を取り始めた。


 最初は里奈。里奈はフレッチャーで言っていた通り、玉置由宇として()()()()()()で働くのを辞めていた。だから、メッセージを送りあったり、時々電話で話をしている。

 今、この時間なら授業があるだろうから、メッセージを送った。「玉置由宇と川辺が付き合ってる『予知夢?』を見た」とは書けずに、

「里奈は最近、玉置由宇と会った? 彼女は今でも『倉橋里奈』としてレゾナンスでアルバイトしてるの? 最近時宮研で、川辺が玉置由宇と付き合っている、っていう噂を聞いたよ。川辺はチャラい奴だから、彼女の妹の由佳はどう思っているのかな?」

と。

 オレの「夢」の中では、明らかに玉置由佳は川辺を嫌っているようだった。「玉置由宇が川辺のせいで危い目にあっていた」からなのか? それとも、単に川辺が気に入らないだけなのか? …軽薄な奴だから、それも仕方がないとは思うけど…。


 そうだ、玉置由佳にもメッセージを送ってみよう。…あの娘は少し苦手なんだけど。

 あの夢の中での慌てぶりから察すると、単純に川辺が嫌いなだけでなく、あのタイミングで姉に何か問題が起こったことに気づいたのではないだろうか?

 でも、今の彼女は…多分その「問題」に気づいていない。だから、彼女には

「ご無沙汰だけど元気かな? お姉ちゃんも相変わらずかな?」

と、何気無いメッセージを送ってみる。もしかすると、あの日の「問題」の前兆がつかめる…かもしれない。


 そうやってヒントを探るべくあちこちへ連絡している内に、重要な連絡先を忘れていたことに気がついた。それはAM世界のオレだ。もしかすると、オレ自身よりもむしろAM世界のオレの方が予知夢を見る能力に長けていて、オレはその能力を分け与えられただけなのかもしれない。

 それならば…。オレは思い出した。ムーコとオレが襲われた時に、上空から監視していたドローンを、どこかの屋根の上に退避させていた。それが、あの突風の日、突然目の前に現れて拾い上げたことを。

 AMだったオレが、あの事件を知ることができたのは、あのドローンで「事件」を観測していたからだ。いずれ来るかもしれない嵐の日の時宮研の様子を、AM世界のオレが夢で予知するためには、それを観測できるようにしておく必要がある。


 そこでオレはまだ誰も来ていない時宮研に行くと、AM世界のオレがオレのPCに接続したカメラとマイクにアクセスできるようにした。そうしておいて、玉置由宇が危険に晒されているかもしれないあの嵐の日の夢の内容や、その後の時宮准教授との話し合いについてメールで伝えた。

 さらに、川辺と玉置由佳が現れる夢を見たら内容を教えてもらえるように頼んだ。これで、オレ自身が予知夢を見れなくても、AM世界のオレが予知夢を見て内容を教えてくれるかもしれない。


 これで、オレにできることはやった。…本当か? 何かを忘れているような気がした。だが、オレはその「忘れていた何か」の一つをすぐに手にすることになった。


 AM世界のオレへメールを送った直後に、入れ違いで暗号化されたメールが来たのだ。メールを複合してみると、1枚の動画が添付されていた。

 AM世界のオレのことだ。AIで可能な限りノイズを消したのだろうが、それでもなお不鮮明な動画。その動画を、比較的大きいPCのディスプレイで表示して目を凝らして眺めた。すると、映し出されていたのは、どうやらどこかの建物の屋上に立つ人の姿らしい。

 闇に同化していたその姿は、時折雲間に射す月の光に淡く照らされて、一瞬だけ微かに浮かび上がった。しかし、その人物の顔は全く判別できない。それでも良く見ると、髪を後ろにまとめていて、細身だが胸が膨らんでいる…ように見える。どうやら、女性のようだ。

 確かに、闇の中どこかの建物の屋上にいる女性らしき人影は、怪しい。だが、そんな動画を、AM世界のオレがわざわざ送ってくるだろうか?

 そう思って動画を見続けると…分かった。…問題は彼女自身の姿ではなく、彼女が持っていたモノだった。名称や型番は分からないけど、どうやら狙撃用のライフル銃のようだ。

 オレに銃の知識はあまり無い。だが、AM世界で過ごしていた時に、「ウォーインザダークシティ」でスナイパーの「マクミラン隊長」が手にしていた銃を覚えている。動画の女性が手にしている銃は、これと良く似ていたのだ。

 動画に注目してしまったが、メールにはちゃんと本文も書かれていた。

「君から依頼された、ドローンのデータ解析が一部終了した。君が、ムーコの監視に使っていたドローンかもしれないと言っていたものから、サルベージしたデータだ。そのデータから抽出できた画像の中から、特に怪しいものをピックアップして送った。マンションの屋上でライフル銃らしきものを持って立っている女性、明らかに怪しい。ただ、写真の人物は、知っている誰かに似ているような気がするけど、思い出せない。」

だそうだ。

 言われてみれば、オレも動画の人物をどこかで見たことがあるような気がする。それに、これがムーコの監視に使っていたドローンから抽出された画像だとすると、オレとムーコが襲われた時に大型ドローンを破壊して証拠を隠滅したのはこの女性なのだろうか?

 そうだとすると、オレとムーコを襲撃した犯行グループの黒幕は彼女なのかも知れない。気が狂ってしまった高坂和巳は、実行犯の駒の一つに過ぎない…のだろうか?


 ならば、オレは、この動画を見せなければならない相手が2人いることを思い出した。それは、ムーコの姉のリア子とその恋人の八神圭吾だ。

 そこで、2人に

「見て欲しいものがある。」

とメッセージを送った。単にこの動画を見せたいのではなく、2人の反応も見たい。

 

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