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フォンノイマンのレクイエム  作者: 加茂晶
第1章 プロローグ
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1.11. ダブルデート

 三日後、オレ達4人は海辺の街に来ていた。ムーコはいつも通りのリラックスした表情だが、高木さんはオレと木田がいるせいで少し緊張気味、木田は研究室から離れて高木さんと一緒に過ごせると言うのでガチガチ。オレは…人付き合いが苦手なはずなのに、余裕があるみたいだ。この面子だと馴染みがあって、気が楽なのだろう。それにしても、どうしてこうなったのか…?


 オレが「睡眠学習装置(仮)」で眠っている間に、今日の事は全て決まっていた。後からムーコに聞いた話によると、ムーコの姉の平山現咲(ひらやまありさ)の誕生日が近いので、彼氏であるオレと一緒に誕生日プレゼントを探しに行く、と高木さんと木田に言ったらしい。

 それで、高木さんには、

「高木さんはお姉ちゃんと同い年だから、プレゼント探しに一緒に来てくれるとメッチャ助かるんですけど、いかがですか?」

なんて言って、お願いしたらしい。

 木田には、

「女性二人に男性一人だと桜井先輩が萎縮すると思うんで、木田さんも一緒に来てもらえませんか?」

と誘ったんだそうだ。

 その結果、見事に二人とも釣りあげたので、オレには、

「ご褒美、期待してますよ。私の彼氏さん。」

だって。オレがムーコに頼んだはずなのに、オレも釣られた気がする。ムーコに釣られるのならそれも良し。”Que sera(なるように) sera(なる)”だ。それにしても、ムーコの手際はいつもながら凄い。


 だが、その無茶振りに対する副作用も大きかった。第二回目の実験終了直後の時点で、勝手にムーコと付き合っている事にされていたのに何も知らされてなかったオレは、講義前に木田から、

「平山ちゃんと、いつから付き合ってるんだ?」

と聞かれても、呆気に取られて口が開いたまま。更に、木田に誤解されたまま、

「少し前までは付き合って無いとか言ってたくせに、お前ら、どうして付き合う事になった?」

なんて突っ込まれても何も答えられないうちに、「歩くスピーカー」こと川辺がやって来た。

やや興奮気味の木田は川辺に、当事者である一年生の平山美夢から、彼女とオレが付き合っていると聞いたと言ってしまった。それからその情報が、どの位のスピードで何処まで伝わったのか、オレは知らない。

 しかし、一昨日の夜、時宮准教授から来た第三回目以降の実験スケジュールの連絡メールには、追伸に、

「平山さんとうまくいって良かったね。でも、避妊はしっかりした方が良いよ。」

と書かれていた。実際には付き合ってもいないのに、何が避妊か!

 昨日は、()()()()()()で三笠さんから、

「平山さんとの事、良かったね、でも、社内では程々にね。」

と言われてしまった。確かに()()()()()()でも、気のおけない友人としてはムーコと親しくしていたが…。そこで、どうしてそう言われたのか尋ねてみると、

「何かを聞きつけた訳じゃ無いけど、君たちが付き合っているのは、みんな知ってるよ。」

と答えられて、頭を抱えた。

 トドメは、外出直前の事だ。寝不足なのか、目の下に隈を作った里奈が現れた。そして、ムスッとした表情で、

「これからあの女とデート行くんでしょ?せいぜい楽しんでくれば?」

と送り出された。里奈のあんな怖い顔は、初めて見た。里奈には今日の外出について何も話してなかったのだが、一体どこから、何を聞いたのだろうか?清く正しい兄妹であるために、里奈とは少し距離を置く必要があるとは思っていたが、これでは信頼関係も壊れてしまうかも知れない。帰宅後に、しっかり説明しなければなるまい。


 さて、海辺の街には大型のショッピングモールも、デパートも、オシャレなお店も皆揃っている。確かに、ムーコのお姉さんの誕生日プレゼントを探すには良い所だと思う。さすが、ムーコに抜かりは無い。それに、実は里奈の誕生日もあと一ヶ月ちょっとでやって来る。オレも便乗して、里奈の誕生日プレゼントを探そうと思っていた。

 紅葉にはまだ早いが、秋晴れの中、心地よい浜風が吹いていた。ショッピングモールやデパートでは、プレゼント探しよりもイベントを楽しんだりジェラートを味わったりしてしまった。高木さんと木田の表情も和らぎ、楽しそうにしている。良い感じだ。

 しかし、陽が傾き始めると、皆少し焦りだした。そろそろ、マジメにプレゼントを探そうという事になり、今度はオシャレなお店を巡りプレゼントを探し回った。しかし、なかなかムーコは決められない。ただし、様子を伺っていると、高木さんとムーコの趣味はわかった。高木さんのおススメは、ガーリッシュで里奈が好んで身につけているものに近い。それに対して、ムーコが手に取るものは、実用的なものが多いのだ。

 オレはふと閃いて、三人がトイレへ行っている内に、高木さんがオススメしていた小さなバッグを購入した。里奈へのプレゼントの素材用にと考えたが、三人に説明するのも面倒なので、こっそりバックパックに収めた。里奈へのプレゼントは、治安が悪くなって来た昨今、オレの眼が届かない所でも里奈を守ってくれる自己防衛システムをバッグに組み込んで渡す予定だ。でも、その事を里奈にも説明する気は無く、あくまでバッグとしてプレゼントするつもりだ。

 午後6時近くになり、ようやくムーコはプレゼントを決めた。陽が沈み、まだ夕焼けの名残りを残す街で、どこからか風に乗って美味しそうな匂いがして来た。こうなると、皆、胃袋に支配されてしまう。もう、匂いの元を犬になった様な気分で辿って行った。


 すると、辿り着いたのは海辺の公園。何かのイベントが開催されているらしく、キッチンカーが多数並んでいる。オレはカレーの匂いに惹かれて、タンドリーチキンの列に並んだら、ムーコもついて来た。木田と高木さんは、どうやらケバブ屋に並んだようだった。

 ムーコがオレの袖を引っぱって、小声で言った。

「どうやらチャンスです。」

「えっ、何の?」

「もちろん、木田さんと高木さんを二人っきりにするチャンスですってば。」

「そうだな。じゃあ、タンドリーチキンをゲットしたら、二人でバックレるか?」

ムーコはニッコリして言った。

「OKです。」


 ようやく順番が来て、タンドリーチキンを買った頃には、辺りは闇に包まれ始めていた。木田と高木さんの姿は、既に闇に隠れて見えなくなっていた。オレは、一応木田に「頑張れよ」とメッセージを送って、ムーコと二人でその場を離れた。


 歩きながら食べる。

「あの二人、うまく行くと良いですね。」

と、口をモグモグさせながらムーコが言うので、

「ここから先は、本人同士の問題だから。木田に頑張ってもらうしか無いね。」

と返す。すると、

「私たちはどうです?周りからカップルに見えるかなあ?」

と、ムーコは楽しそうに言った。

 ふと空を見上げると、秋の澄み切った空にいくらか星が見えた。

「そう言えば、秋はペルセウスとアンドロメダって言う、ギリシャ神話の一大カップルの星座が見えるはずだけど…。」

「あっ、知ってますよ。アンドロメダってアンドロメダ星雲のある星座ですよね?」

「そうそう。でも、空が明るくてよく見えないね。」

「それなら、星の代わりに、高い建物の上から夜景を眺めるなんてどうですか?」

こうして、オレとムーコは夜景を見に行く事にした。


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