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FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
序章『フライハイトオンライン―全ての始まり―』
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(7)『投閃』

 唸る豪腕。轟く暴嵐。力こそ全てと言わんばかりの膨大な力が、友を止めるため友を薙ぎ払う。加減など利かないが加減など必要ない。それが彼らの、友としてのあり方。

 戦闘系ユニークスキル【剛力武装(カーム・バイオレンス)

 最近は使うほどの相手もいなかったため見るのも久しぶりだが、リュウの得意な――特異な超重量級の戦闘スタイルだ。

 このスキルは剛大剣(パニッシャー)大剣(スラッシャー)戦斧(アクス)戦鎚(ハンマー)双剣(ツインソード)剛双剣(ツインブレード)の熟練度をMAXまで上げると得られるもので、効果としては『腕力を初めとする身体能力の一時的向上』なのだが、例えレベルをMAXまであげても腕力が足りないため不可能な戦い方を一時的とはいえ解禁することができる。

 馬鹿げた話だが、全武器の中でもトップクラスの破壊力と重量を持つ剛大剣(パニッシャー)を、全武器中でも攻撃力が低く攻撃回数を稼ぐような戦い方をする双剣と同じように扱える。

 つまり『高攻撃力の連続攻撃』を体現しているのだ。正直、あの時のリュウには勝てる気がしない。

 リュウが野次馬の一画を退けたところで、俺はふと思い出してリュウの元に駆け寄って、肩を叩いた。


「ん?」

「リュウ、王剣(エタキン)に【未必の故意アクシデンタル・ペイン】かけてくれ。そっちにもかけなきゃダメだぞ」

「あぁ、そうだな」

「忘れてたのかよ……」


 【未必の故意アクシデンタル・ペイン】は、武器にかければ相手のライフにダメージを与えなくなる戦闘スキルだ。痛みのフィードバックはあるものの模擬戦やこういう時には重宝する。

 ある意味、生かさず殺さずになるのだが。

 俺の肩越しに背中の王剣(エタキン)に触れ、「【未必の故意アクシデンタル・ペイン】」とスキルを唱える。


「シイナ、俺が先に言ってとにかくあの二人を引き離すから、お前は刹那を頼むぞ。各個対戦(ワン・オン・ワン)だ」

「俺がシンじゃダメなのか? 正直この武器で刹那はきついんだけど」

「ダメだ」


 ≪アルカナクラウン≫の現リーダーなのに、ギルド内で一番発言力がないように思うのは俺だけか。

 リュウは背中の宝剣(クライノート)鷹爪剣(ファルシオン)を抜いた。剛大剣(パニッシャー)の特徴はその下位武器である大剣(スラッシャー)より重く長いこと。

 リーチも稼げるため、対ボス・対プレイヤー戦ではかなり有利な戦闘スタイルだと俺は思っている。


(そういや、熟練度は見てなかったな……)


 リュウが走り出すのを見送り、さっとメニューウィンドウを開く。

 他のステータスと違って、熟練度は武器を装備しないと見れないため、完全に忘れていたのだ。


「よかった……」


 熟練度にはどうやら影響していないようだった。魔弾銃(ヘックス)魔刀(イーヴィル)の二つが上限まで振り切った俺のステータスだ。


「シイナッ!」


 ハッと気づくと、ちょうどリュウが二人の間に割り入り、二本の剛大剣(パニッシャー)を振り回して引き剥がしたところだった。

 俺は素早く走り込み、刹那の前に飛び出す。観衆のヒートアップが気になるが、戦っているメンツがメンツだけに仕方ないだろう。


「あぁ? ナニ? 邪魔しに来たってわけね、へぇ。どかないとアカウントも削除するわよ、馬鹿シイナぁ!」

「どんな権限だよ、お前!? しかも“も”って何だよ、“も”って!」

「っさいわねッ」


 刹那もシンも、俺とリュウが間に入ったところで決闘(ケンカ)をやめるつもりは無さそうで、刹那は俺に向かって〈*フェンリルファング・ダガー〉を腰だめに低く構える。

 刹那は強いが、戦闘用のスキルは自分の使う分しか基本的に取得していない。今のスキルがない俺でも止めるくらいはできるだろう。

 さっきまで、身長等の理由から半分引きずるように背負っていた王剣(エタキン)を力一杯持ち上げて中段に構える。

 相変わらずコレ重いな。


「武器交換の時間ぐらい上げるわよ?」

「リュウがこれしか持ってなかったからこれでいいさ」

「ハンデがあろうが、負けは負けだからねッ……!」


 一瞬の隙を突かれ、刹那が間合いに迫ってくる。

 そもそもでかい剣ってのは相手が近すぎると、振りにくい。ましてさらに大きい剛大剣(パニッシャー)になると、こんなもん慣れの問題だ。


「くっ……! でえぇぇぇっ!」


 刹那の通ってくるだろう軌道に思い切り王剣(エタキン)を振り抜こうとする。


「甘いッ。らしくないわよ、シイナ!」

「わかってるよ!」


 大振りしすぎた。

 剛大剣(パニッシャー)なんて随分と久しぶりだから、やっぱり感覚を取り戻すには相当の時間がかかりそうだ。

 刹那はしゃがむことで巨大な剣身を軽々と避けて見せ、続いて跳ね上げるような短剣の一撃を俺の顔面へ――。


「……とッ!」


 後ろに下がり、ぎりぎりで刃をかわす。

 がしかし、バランスを崩した。


「そこぉぉぉ――ッ」


 受身も取れないうちに、刹那は体勢を低くして俺の股間を蹴り上げた。


「あれ? あ、しまった。今のコイツにはアレがなかったわね!」

「お前、今何の躊躇いもなく狙ったか!?」


 それに女の身体でも痛いことに変わりはねえんだからな!?


「弱点ぶら下げてんだから狙うのは当たり前でしょ!?」

「逆ギレのくせに、女子とは思えねえほど清々しく悪党だな、お前!」


 王剣(エタキン)を振り、刹那の脇腹を狙う。


「遅いって言ってんのよ!」


 後ろに飛んでかわした刹那は、続いて懐から小さいダガーを取り出した。


「【投閃(とうせん)】!」


 短剣系武器用投擲スキル【投閃(とうせん)】。

 よほど慣れてなければ避けられない速度で微々たるダメージを確実に与える技だ。刹那が好んで多用する技だが、高レベルプレイヤーになるとそれだけにとどまらない。

 一つのダガーにさらに他のスキルも重ねがけして威力を高めてくる。

 むしろこの戦い方こそが刹那の本領発揮なのだ。


「【練気(れんき)】、【包爆(ほうばく)】、【鋭尖(えいせん)】、【貫通(かんつう)】、【轟雷(ごうらい)】、【痺毒(ひどく)】……」

「ちょ、ちょっと待った刹那さん!? あなたいったいいくつスキルを重ねるおつもりですか!?」

「【集中(しゅうちゅう)】」

「ちくしょう、人の話聞く気ない上にそんなレアスキルまで持ってらっしゃるなんて聞いてねえよ!」


 前までなかったはずなのに!


「【強転同地(グランド・プレス)】」

「まだ付けんのかよ! くそっ、こうなったら先手必勝!」


 さらにスキルを付加できないか考えている様子の刹那に猛突する。

 あとさっきから『胸でけー』とか『揺れてる』とか言ってる野次馬ども、後で殺すから遺書書いとけ。

 俺が走りながら王剣(エタキン)を横に構えると、刹那はヒュンッとダガーを横に振り、


「【黒一刻印(ブラック・ジョーク)】でおーわりっ。覚悟はいいよね、シイナ」


 彼女の手の中にある投擲用短剣〈*サバイバル・クッカー〉に視線を遣り、ぎょっとした。


(げっ、な、なんだありゃ……)


 彼女の手に握られたモノのシルエットは既に見えなくなっている。黒い(もや)のようなエフェクトが彼女の手ごと覆い隠しているのだ。

 見えているのはそれに加えてパリパリと嫌な音をたてて刹那の手を這う青い電気のエフェクト、そしてポタポタと滴る謎の液体。

 ここで補足しておこう。

 攻撃力強化スキル【錬気(れんき)】。着弾時に爆発を起こすスキル【包爆(ほうばく)】。切れ味と初速を高める【鋭尖(えいせん)】。貫通性能を与える【貫通(かんつう)】はその名の通りで、スタン付与スキル【轟雷(ごうらい)】と麻痺毒スキル【痺毒(ひどく)】はどちらも麻痺で敵の戦闘能力を奪う。命中率上昇スキル【集中(しゅうちゅう)】に、相手を転倒させる【強転同地(グランド・プレス)】。最後の【黒一刻印(ブラック・ジョーク)】は投擲したダガーを闇で包み、同時に同じ姿の幻影を作り出す。

 どれもこれも彼女の性格の悪さを嫌というほど体現していて、執拗に俺の戦闘不能を狙う組み合わせだ。

 しかし、スキルの重ねがけは天賦の才に依るところが大きい。

 二つ三つなら誰でもできるが、それ以上はフィーリング。勘でバランスをとらなければならないのだ。

 ましてや短剣の投擲時だけとはいえ十個もできる奴なんか俺は彼女以外には見たことがない。なんだかんだ言っても、彼女は≪アルカナクラウン≫に入れるだけの実力者なのだ――と感心してられる場合じゃない。


「お前、俺になんか恨みでもあんのか!?」


 この前、塔の攻略で巨大なトゲ付きアルマジロのようなボスモンスターと戦った時だって、せいぜい四つだった。

 となると、俺がなにか奴の逆鱗に触れるようなことをしたのだ。

 さっき〈*ハイビキニアーマー〉を貰ってから、今に至るまでの間に。


「戦ってる最中もわざと大振りしてそのだらしない肉を十分に見せつけてくれたお礼参りよ! なにその魅せ装備。ふざけてんの!?」

「お前が渡したヤツだろうがああぁぁぁ!」


 なんて理不尽な逆恨み。

 やっぱコイツ一回痛い目遭った方が世界のためになると思うんだ。

 刹那は左手に危険指定を受けそうなヤバいブツを構え、右手の〈*フェンリルファング・ダガー〉をくるくると回して逆手に構えた。

 どうやらさらに確実性を増すために今すぐは使わないようだ。そっちの方がさらに面倒なのだが、【投閃(とうせん)】の効果時間は二十秒、既に十五秒は経っているから残りは五秒もないはずだ。


「つまりあと五秒間気をつけていればいい……、って思ったよね、シイナ」

背後(うしろ)……!?)

「そっちは【音鏡装置(ミラーミラージュ)】の幻聴よ」


 再び前方から聞こえた刹那の声に振り返った瞬間、目の前に黒く尾を引く五本のダガーが視界に入る。


「うぉっ……!」


 回避行動を最優先で、全力回避したのだが――――ザクッ。

 肉に食い込む音が耳に届き、ダメだったか、と身体の力を……。


(あれ……?)


 何処となく戸惑っている様子の刹那に、何故か無傷の俺が振り返ると、ちょうどそのタイミングでいつのまにか位置取りが逆転していたらしいシンがよろけてドサッと転倒した。

 ピクピクと痙攣しながら、ビリビリと痺れて「あぐぇっ……ぅぅぐぇっ……」と妙な声を上げるシンを三人で見下ろしている内に、


『[†新丸†(あらたまる)]はログアウトしました』

『[刹那(せつな)]さんが決闘に勝利しました』


 二つのウィンドウが目の前に現れて、シンの姿が消失した。

Tips:『スキル』


 FOにおける異能力の代表格と言えるシステムであり、基本的にスキル名を発声することで発動し、魔力(MP)を消費してその効果を適用する。主な分類は以下の通り。


スキル

 ┣常時展開(パッシブ)スキル⇒起動プロセスを要しない永続的なスキル。

 ┃┣常在効果(パーペチュアル)スキル⇒常時効果を発揮し続けているスキル。

 ┃┣条件効果(コンディショナル)スキル⇒条件を満たしている間だけ効果を発揮するスキル。

 ┃┗誘発効果(トリガード)スキル⇒条件を満たした瞬間自動的に発動するスキル。

 ┗任意起動(アクティブ)スキル⇒何らかの起動プロセスを要する能動的なスキル。

  ┣固有(ユニーク)スキル⇒例外なく保有者が一人までしか存在しない特殊なスキル。

  ┣基本(エクステンド)スキル⇒独立フィールド内では発動できない、生活面を補佐するスキル。

  ┗戦闘(バトル)スキル⇒場所や時を選ばず発動できる、最も多用される戦闘用のスキル。

   ┣格闘(コンバット)スキル⇒スキル(アーツ)と呼ばれる、身体を自動操作する直接攻撃スキル。

   ┗起動(ブート)スキル⇒戦闘中、一時的に多様な効果を発揮する汎用的なスキル。


 パッシブスキルは全て武器や防具・アクセサリー等の装備品に付属される形でのみ存在し、アクティブスキルは装備品に付属される形かプレイヤーが取得する形で存在する。ユニークスキルは条件を一番最初に満たした一人だけが取得することができる特殊な位置付けのスキルで、その希少性から総じて強力なものが多い。長期間プレイしたプレイヤーでも二つ以上のユニークスキルを持つプレイヤーは極稀。

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