(20)『自己中コンビ』
助けに来たとは言いつつも、少年たちはのんびりしたものだった。
何しろ仲間の力は折り紙付きで、万に一つの心配もない。
その気も緩むというものだ。
「ここってまさかモンスターいないの?」
手にした牙状の刃を持つ短剣〈*フェンリルファング・ダガー〉を抜き身でくるくると手で弄びながら、刹那が脱力気味に呟いた。
クラエスの森の隠し裏フィールド『碧緑色の水没林』に入ってから約一時間。周囲が常に水で満たされているという特殊な環境から、アンダーヒルの提言で〔水蛇妖〕や〔渦禍大蛇〕等の水系擬態魔物モンスターを警戒して武装を展開したまま探索を進めてきて、未だモンスターとのエンカウントが一回もなかったのだ。拍子抜けして当然である。
今は見るからに疲れてるのを隠そうとしていたネアちゃんに配慮して休憩中だが、それなりの人数がひとところに留まっているのにモンスターの襲撃なんてものは影も形も音沙汰なしだった。
「その可能性は低いです。裏フィールドの出現モンスターはその大多数が表と似通った特性を持つモンスターがいるはずですから、少なくとも条件反射の無差別モンスターが存在するはずです」
狙撃銃用の照準器カスタムパーツを望遠鏡代わりに使って遠くを見ていたアンダーヒルが、恐らくネアちゃん向けの解説を交えてそう言った。
「にしてもホント暇ね。水の中じゃ休憩してる気しないし」
「まあ、スタミナの経時回復も微妙に落ちるけど、そうは言ってもここじゃ座れるとこなんて……木の上ぐらいか」
「ま、気が休まるとは思えへんね」
トドロキさんはそう言いつつも、ちゃっかり樹上にうまく座れるところを見つけているわけだが、見た限り他の面子も全員休めるほど周囲の木は大きくない。せめてネアちゃんに、とは思ったものの、そもそもトドロキさんのバランス感覚だからこそああも自然体で座れるのだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら周りに目を遣っていると、不意に背浮きで漂って二重の意味で浮いていたアプリコットがゆったりとした挙動で俺に近付いてきた。
「ところでシイナシイナー、ねーねーシイナ、ちょっといいですー?」
ただ声をかけるだけなのに、その段階から鬱陶しいな、コイツ。
「……何だ?」
「いやいや、地雷口でここに落ちた三人って誰のことなのか聞いとこうかなと」
「……言ってなかったか?」
何処かで言った覚えがあるのだが。
「先程フィールド入りした際に呼んでいましたが、彼女に対する事情説明で明言したことはありません」
隣に立つアンダーヒルが、照準器を覗いたままそう返答してくる。
高度な検索エンジンみたいな奴だな。
「ま、もしかしたら聞いたかもしれませんけど、覚えてないから聞いてないってことで。言ったか言ってないかで責任の所在を追及するよりよほど建設的でしょう?」
「妙に生々しい喩えだな」
「生々しさはリアリティーに則した証ですよ。だから説得力もそれなりでしょう? それはそうと、それで誰なんです?」
アプリコットが珍しく脱線した話を元の路線に修正する。彼女の性格上、逆になることの方が多いから違和感すら覚える。
「シンはお前もよく知ってるだろ。それにリュウと、リコって名前の女の子だ」
「シンって確か変態の……。あぁ、新丸の通称でしたっけ」
凄いな、シン。正式名より変態認識の方が先に思い出されたぞ。
「どうせ古い礼拝堂でも見つけて独断先行したところでゲートに落ちたんでしょう」
「まるで見てたかのような想像力だな」
「ま、あの幽霊拝堂を元にしてギルドハウスを建てましたから何となくはわかりますよ。いやー、調査のために何回アレに落ちたことか」
アプリコットはそう言って、しみじみと記憶に意識を巡らせ始める。
アプリコットの行動に必ずしも意味や目的がないのはよくあるため珍しくないが、明確な目的があるのは逆に珍しいな。
「リュウはそれなりに有名な竜虎で……リコって名前は初めて聞きましたね」
「最近入ったばかりだからな」
アンドロイドだとか戦闘介入型NPCだとか、その辺のことはわざわざ言い触らすことでもないだろうから伏せておく。
「へぇ……」
アプリコットは何か気になっている様子だったが、変に突っついていいことはない。触らぬ神に祟りなし、ということで君子は危うきに近寄らないのだ。
「あ、それともうひとつ」
「ん?」
アプリコットは浮くのをやめて水底に足を衝くと、疑問を示すように俺の前で人差し指を一本立てて見せた。
「水から上がって休むなら、どうして地面を作らないんです? 土属性の物理攻撃魔法でも使えば簡単でしょうに」
「そうですね」
「せやな」
「それもそうね」
俺とアプリコットの話を傍観していたらしいアンダーヒル、トドロキさん、刹那が当たり前のように同意を返す。
ちなみにネアちゃんは『そんなことできるんですか?』と言いたげな疑問顔で“?”を量産していた。
そんな中、俺がアプリコットに言いたいのは一言だけだった。
それを先に言えよ。
「屹立する巨人、不動の玄龍――」
刹那が詠唱を始めると、その足元に直径三メートルほどの魔法陣が現れる。
「――大いなる地母神に賜りし肉体に意志宿す太古より在りし者共よ。眷族たるその身の欠片を我に貸し与え給え。其は鉄槌の如く叩き潰すものなり! 『厳正なる万力祭壇』ッ!」
詠唱の末文を刹那が唱え終えると、足元の魔法陣が回転しながら刹那の手が差し示す方へと移動し、次の瞬間――――どぼんっ、ざっばぁぁぁぁぁぁんっ!
空中に出現した巨大な岩塊が水を周囲に押し退けながら落下した。そして発生した強い波と直後の地面の揺れの影響が退避していた面子に襲いかかって来る。
「ぅわぷ……」
最も近くにいた刹那は逃げる間もなく波に呑まれた。
「わははは……ばばばっ」
何故か愉快そうに笑っていたアプリコットは足元の衝撃にバランスを崩され、泡を吐きながら水没していった。
「おっ、おおぅっ、おッ……」
木ごと揺さぶられたトドロキさんは少しだけ堪えるも、枝から落とされて水面下の泡の中に姿を消した。
「ごぼぼぼぼぼ……」
ネアちゃんは涙目になりながら、波に抗うこともできず流されていった。
「大丈夫ですか、シイナ」
アンダーヒルのそんな声が聞こえた瞬間、ようやく然程影響されない自分の状況への疑問が頭を過る。そして、振り返って初めて状況を正しく理解した。
刹那が魔法を使用する直前まで俺のすぐ後ろに立っていたアンダーヒルが、俺の身体を抱き止めて支えてくれたのだ。
「あ、ありがとう……」
強く抱き締められて必然的に密着しているアンダーヒルの体温や感触に頬が熱くなるのを感じつつ礼を言うと、アンダーヒルは事も無げに「咄嗟に間に合ったのがあなただけでしたので」と言って周囲の水流の乱れが収まるのをじっと待つ。
よく見ると、肩越しに見えるアンダーヒルの背後からは漆黒の枯れ木のようにも思える魔力翼が突き出し、それが大きく歪曲して周囲の木の幹や水底に突き刺さってアンダーヒルの身体をしっかりと支えていた。
「っぷは……」
水没したそのままの位置からアプリコットが顔を出し、髪を撫でて軽く水を切りながら俺とアンダーヒルの方を振り返った。
「……邪魔ならまた沈んでましょうか?」
「余計なお世話だ」
俺がそう返すのとほぼ同時に、もう大丈夫と判断したらしいアンダーヒルがゆっくりと下に下ろしてくれた。どうやら波の影響を抑えるために、支えるだけでなく地面から引き上げてくれていたらしい。
「せめて木に掴まってやるべきだったわ」
「び、びっくりしました……」
続けてアンダーヒルが翼を仕舞って降り立つと、随分流されていたらしい刹那が荒々しく水を掻き分けながら戻ってきた。その後ろにはこわごわと隠れながらもネアちゃんがついてきている。
「後はトドロキさ――」
「ウチはここに、あ」
「――んぎゅ」
何故かいきなり頭頂に降ってきた衝撃に水中に蹴り込まれる。予想だにしていなかったトドロキさんの来襲に反応しきれなかった俺の身体は抵抗なく水底近くまで沈められ、水面から顔を出す頃には当然刹那たちと同様頭から濡れ鼠になっていた。
「……何すんですか」
「あ、あはははは……わざとやないねん。まさかピンポイント爆撃してまうとは思わんかってん。堪忍して」
「…………」
平謝りしてくるトドロキさんの態度からホントにわざとじゃなかったと判断し、これ以上引きずることのないよう溜め息一つ吐いて頭を切り替える。
「何はともあれ、これで休む場所はできたってことでいいじゃないですか♪」
アプリコットが軽々跳躍し、常人ならよじ登らなければいけないような大きさの岩塊の上に着地する。
一度魔法やスキルで生成された一時オブジェクトはフィールド内のプレイヤーが全員出るまでは基本的に消えることはない。休憩に使う程度なら問題はないだろう。
全員がその岩塊の上に上がると、何故か示し合わせたように揃って戸惑ったような表情になった。ただし、包帯で顔の見えないアンダーヒルを除く。
「……上がったら上がったで疲れがどっと来るわね」
「……そこ言っちゃいけないところだったんじゃないか?」
考えてみれば当然の話だ。
水中では浮力が働く分、身体を支える力は少なくて済む。その上、周囲が水で満たされているため、服が水を吸って重くなった増加分の重量があまり気にならないのだ。さっきまでの水中休憩の実質的な回復分が直前の騒動で帳消しになったとすれば、それまでの一時間の運動がそのまま疲労に繋がっている。
普通の運動ならまだしも、水中歩行はかなりのスタミナを消費する。それはゲームの仕様の上でもそうだし、現実の常識に照らし合わせて考えても同じことだろう。
最初に休憩を提案したのは刹那だったが、これは彼女がひ弱というわけでもなく無理もない話だ。実際、元々の気力ゲージが少ないネアちゃんはおろか、無駄に虚勢を張るトドロキさん、調子に乗って泳いでいたアプリコットも、疲労の色は隠せていなかった。
そんな中、さっきから一人だけ常に例外枠――アンダーヒルはずっと同じ歩幅・歩速で平然と歩き通した挙句、まったく疲労の色が見せていない。これは顔が見えないからだけが理由ではなく、ただでさえ水中での抵抗・重さ共にパーティ内トップの古ぼけたローブを着込んでいる癖に、その動きにも一時間前と比べて見てわかる変化がなかったのだ。化け物かと言いたい。
「大丈夫?」
一先ず一番具合が悪そうな――もとい疲労が見て取れるネアちゃんに声をかけると、あまり説得力のない声で「大丈夫です」と返事が返ってきた。
「何も遠慮はいらないからね。…………正直、ネアちゃん一人くらい負担でも何でもないチート級戦力が揃ってるから」
「ありがとうございます、シイナさん……」
何なら俺一人分が更に負担になろうと戦力的には微動だにしない。
彼女はステータスの絶対値が低く、色んな意味で経験の浅い初心者であること。そしてそれ以外のメンバーは程度はどうあれ上位の経験者であることを忘れてはいけない。それを忘れればすべき気遣いを怠ることになるからだ。
それはともかく、ネアちゃんの疲れ具合は数値的なもの――つまり疲労デバフ。しばらくはダルいだろうがそれだけで、時間を置けば簡単に治る程度の軽い症状だ。専用ポーションを使う手もあるが、おそらく疲労デバフに慣れていないことで負担が大きく感じるだけだろう。
随分前の話だが俺にも経験があるが、変にポーションを使うより自然回復に任せた方が気分的に楽だったりする。
「十分……いえ、十五分といったところでしょうか」
不意にそう呟いたアンダーヒルの方を振り返ると、彼女も俺と同様にネアちゃんの方を見つめていた。その後俺の視線に気付いたからか、こっちに振り向いて「回復までの時間の目安です」と補足して説明する。
「わかるのか?」
「残念ですが100%は言い切れません。所詮は経験則です」
「それで充分だろ」
俺の見立てじゃ『三十分くらいかかるかな(自己疑問視)』ぐらいのもんだったし。我ながら自信なんて皆無に等しい当てずっぽうだからな。
「ここで急ぐ必要はないとはいえ、いつまでも三人の捜索を続けている余裕は大局的な現状を鑑みて多くありません。もし運悪く会えなければ自力で帰ってきてもらうことも検討しています」
「だろうな。あの三人だし」
クラエスの森やその裏程度で何とかなるならアルカナクラウンにはいない。リコとはリュウやシンほどの付き合いはないものの、正直なところを言えば戦えばいいとこ互角だと思う。
「ですので、休憩が終わり次第効率的に捜索を始めようと思います。全員が万全であることが最低条件になりますが」
「少なくともネアちゃんが回復するまで待つんだし、全員完全回復できてるだろ、さすがに」
――と素直に思っていた時期が俺にもありました。
アンダーヒルの見立て通り、ネアちゃんのスタミナと気分が回復するまではほぼ十五分ぴったりだったのだが、単純な数値だけでは現実は測れないということを思いっきり実感する事態になったのだ。
と言っても深刻な事態じゃない。何故なら――
「ちょっとシイナ。あと五分くらい時間稼ぎなさいよ……!」
「そーです、そーです……! ここまで付き合わされてんですから、五分くらいいーじゃないですかー……!」
刹那とアプリコットの自己中コンビが五分延長を求めてきているのである。
しかもスタミナは全回復しているから、要するにまだ動きたくないというわがまま――もとい精神的なお話だ。
アンダーヒルがネアちゃんと共に休憩場所である岩塊から降りつつ、出発準備の号令を掛けたにも関わらず、そのアンダーヒルから死角にあたる俺の背後から刹那とアプリコットが主張してきたのだ。
周囲の水の音のせいかアンダーヒルはその主張には気付いていない。だからこそ二人が無理を通そうとしているわけだが。
俺は決まり事のようにため息を吐くとじっと俺の方に視線を向けているアンダーヒルの方に向き直る。
「もう少しだけ待ってくれないか?」
「何かあったのですか?」
後ろで刹那が脅してくるんです。
「右足がちょっと攣ってる感じでさ、あと五分もすれば本調子になると思うから」
「わかりました」
アンダーヒルはまったく疑う様子も見せずにそれだけ言うと、黙り込んだ。
――俺の前で突っ立ったまま。
「……なあ、アンダーヒル。まさかそこで待つ気か?」
アンダーヒルの醸す緊張に堪えきれずそう言うと、アンダーヒルはすっと俺を見上げ、「言われた通りに待っているだけですので、気にしないで下さい」とだけ言ってきた。
ホント嘘吐いてすいませんでした。
そして嘘を吐いた罪悪感でまともにアンダーヒルを直視できず、不自然にならない程度に目を逸らすよう務めていると――
「ひゃッ……」
突然右足のふくらはぎに冷たい何かが触れ、思わず変な声が出てしまった。
咄嗟に視線を落とすと、そこには俺の右足首を左手で掴み、右手でふくらはぎの辺りを撫でるように擦るアンダーヒルの姿がある。
「な、何やってんだよ、アンダーヒルッ」
「攣っているという話でしたので、早めに治るようマッサージをしているのですが……。専門知識があるわけではないので、効果の程はわかりません。不要でしたか?」
「ま、マッサージ……」
変な声上げたせいで恥ずかしいし、後ろでアプリコットが笑いを堪えてる声が聞こえるし。
しかしアンダーヒルの親切心を無下にもできず、大人しく治療を受けることにしたのだが――。
「どうでしょうか?」
――きっかり三十秒毎に訊いてくるのはいかがなものか。
問題はそれだけじゃなかった。マッサージが案外心地よかったのもあってされるがままにしていたのが、アンダーヒルの手が段々太腿の辺りまで上がってくると、突然別の問題が浮上したのだ。
古ぼけた黒のローブ装備〈*物陰の人影〉は、アンダーヒル曰く完全に一枚布から成る構造で仕様上不便なことに腕を通せるような袖はついていない。故に手は開いた前身から外に出すことになるのだが、アンダーヒルがマッサージのために腕を上げるとそのローブの裾が上がり、思いっきり前が開かれてしまっていたのだ。
しかし問題の本質はそこじゃない。
(なんで中に何も着けてないんだ……!?)
思わずフリーズしそうになる自分を律し、ツッコミを内心に留めることに成功する。
中に何も着けていないというとかなり危ない想像をしてしまいそうになる上、事実それが強ち間違いでもないのが困るのだが、正確にはアンダーヒルはローブ以外に何も着けていなかったというわけではない。彼女が顔や腕にぐるぐると巻き付けているアクセサリー〈*ブラック・バンデージ〉が、その延長で身体にも巻き付けてあり、局所的にはしっかりと隠すべき部分を隠していたのだ。。
しかし、それだけだった。
胸や腰などには多少厳重に巻きつけてあるもののそれ以外は一筆書きの文字と文字を繋いでいる線のようなもので、肌の80%ほどは露になってしまっている。
体型がくっきりと表れてしまっているのは言わずもがな、だ。
(落ち着けッ、落ち着け俺ッ! 気にせず自然に目を逸らしつつ、残り時間を待てばいいじゃないか!)
と心に眠る賢者を総招集をかけようとしたその瞬間、アンダーヒルと目が合った。
「どうかしたのですか、シイナ」
平然とした声色。まさかこの子実は露出きょ――いやいや、まさか。
アンダーヒルは気付いていないようだが、下手に前が開いているのを指摘したら至近距離であのアンチマテリアルライフルに射殺されかねない。
だが、目を逸らす、目を閉じるなどの行動をすれば――――如何せんアンダーヒルは鋭い。それによく人のことを観察している。間違いなく俺に見られたことに気付く。
「……?」
「いや、その……」
アンダーヒルは訝しげな表情を浮かべるも、今の状況には察しがつかないようだった。
「ユ、ユウちゃん……前、前ですっ」
その瞬間、横からサッと手を伸ばしたネアちゃんが頬を朱に染めつつも、アンダーヒルのローブの裾を掴んで前身を閉じた。一瞬思考停止したように首を傾げたアンダーヒルもさらに一拍置けばさすがに理解したようで、アンダーヒルは瞬く間にローブの形を整えた。
「あ、あなたが悪いわけではないのですから……普通にし、指摘してくれればいいのです……」
そしてうつむきつつそう言うと、恥ずかしさを紛らわすためか少し距離を開けてそっぽを向いた。
よかった、わけではないけれど正直ホッとしている。刹那とかは何でも俺のせいにするからな。
「お前が常識人でよかったよ……」
「なぜこの状況でそのような台詞が出るのかはわかりませんが、あまり褒められている気はしませんね」
驚くことに、むっとしたようにそう言ったアンダーヒルの声色は平静さを取り戻していた。
アンドロイドみたいなコイツでも、やっぱり恥ずかしいって感情はあるんだな。冷静さを取り戻すのは異常な早さだけど。
「何か失礼なことを考えていませんか?」
「い、いやそんなことは……」
勘が鋭いな、コイツ。
「……先程から思考の一部が唇に表出しているのですが」
「読唇術ってそこまで高度なものじゃないですよね!?」
Tips:『疲労デバフ』
一般的には疲労を発生させる“疲労”デバフのこと。気力の自然回復速度が減少し、気力の数値に応じた疲労感を感じるようになる。何らかの効果で付与されることもあるが、長時間の運動や急激な運動等で自然と付与されることが多く、プレイヤーにとっては非常に身近なデバフの一つ。状況によっては“脱力”デバフや“困憊”デバフに変化することもあり、それらを纏めて『疲労デバフ』と称することもある。




