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FreiheitOnline‐フライハイトオンライン‐  作者: 立花詩歌
第七章『巡り合せの一悶着順争―集いし力―』
324/351

(43)『何処にでも』

 クラエスの森中心部某所――――通称竜流泉(ドラゴスプリング)


「お疲れさま、皆~」


 マップの警告(アラート)機能を使って協力体制を敷く全員を召集したシャノンは、にこにこと屈託のない笑顔で全員の顔を見回してそう言った。


「前置きはいいから早く本題に入ってくれないかしらぁ、死神のお嬢ちゃん」


 ほぼ寝ずにギルドを探していた≪地獄の厳冬インヴェルノ・インフェルノ≫のGL[ルチアル]は欠伸(あくび)を噛み殺しながらそう言った。


「その死神って言うのやめてくれないかな~? やっぱり聞こえは良くないし~?」

「事実外聞悪いんだから、仕方ないじゃなあい。死 神 の お 嬢 ち ゃ ん ?」


 寝不足で機嫌の悪いルチアルが挑発するようにそう言った途端サーッと瞬く間に空気が冷え、シャノンとルチアルを除く六人全員がさりげなく一歩ずつ後退(あとずさ)って安全圏へ避難する。


「あはは~。年の割りに元気だね、お ば さ ん。寝ないとまたシワが増えるよ?」


 シャノンがむにむにと自分の頬を撫でながらそう言うと、ピシピシと周囲の空気が凍りつき、≪螺旋風(トルネイダー)≫の二人――ロンバルドとギブリは寒気で微かに震え始める。


「ふふふふふ、喧嘩売ってるつもりなら買ってやってもいいわよぉ?」

「それはこっちの台詞かな。勿論今すぐ始めてもいいよ、あはははは」


 口元を引き攣らせながら傍目(はため)怖い笑顔で挑発し合う二人に、シャノンのパートナー[ルーク]と旧知の友人[(ディー)]はこめかみに手を遣って深く溜め息をこぼす。ルチアルのパートナー[ロキ]に至っては「これはこれは、怖や怖や」と静観の構えだが、怪しげな風体に(たが)わず元々から出来た人物ではないため仲裁を期待したところで無駄だった。


「それで、結局どうして私たちを集めたのか、シャノンから聞いてる?」


 双方武装展開から手加減なしの近接戦(インファイト)に発展したシャノンとルチアルを後目(しりめ)に、(ディー)がルークに問い掛けた。

 シャノンが最初に合流したのは、マップ上のシャノンの動きを不審に思い心配になって様子を見に来ていた折、不運にも刹那の裁滅の流殲群ストライク・スウォームに巻き込まれていたルークだったため、妥当な判断と言えるだろう。


「僕から説明してもいいのかってのは正直微妙っすけど、シャノンさんがあれじゃ説明責任もあったもんじゃないっすからね。まあ、ディーだからこそ話せるんすけど」

「それはうちが特別ってこと?」


 (ディー)がからかい混じりに言うと、ルークは苦笑して目を泳がせる。


「変な意味じゃないっすよ。もう長い付き合いっすし、第一そんなつもりでディーにこんなこと言ったら後が怖いっす」

「ごちそうさま、って言えばいいかな♪ 昨晩も仲良くしてたみたいだし、ねぇ?」

「っ!? ……そ、それはとりあえず置いといてくださいっす」


 ルークは『霊梟種(アウル)夜間(ナイト)スキルマジパネェ』などと昨晩の迂闊な自分を責めつつ、にやにやと笑みを堪えられない様子の(ディー)から意図的に目を逸らして平静を装う。

 その様子に『これ以上踏み込むのは野暮だ』と考えた(ディー)はくすくすと笑みを溢すと、話を元の路線に修正する。


「それでそれで何があったの?」

「ん……シャノンさん曰く、“クラエスの森にギルドはない”ってことらしいっすね」

「何ソレ。ギルド見つけたってこと?」

「まだそこまではいってないみたいっすね。シャノンさんの今朝の情報収集した結果、クラエスの森にはギルドはない、って結論になったらしいっす」

「どんな情報収集したらマップ一面分の捜索エリアを網羅できるっての……?」


 樹上や空中を行ったり来たりしながらルチアルと激しい格闘戦を繰り広げる(くだん)の情報屋に呆れたようなジト目を向ける(ディー)は、誤魔化すような曖昧な笑みを浮かべるルークに軽く拳を打ち付ける。特別と言っておきながら明らかに隠し事をしている様子のルークを見れば仕方がないことなのだが、アプリコットやシイナとの遭遇までは聞かされていないルークがシャノンを情報屋たらしめている所以(ゆえん)のスキル【千羽烏(センバガラス)】を用いたと考えたなら、切り札でもあるユニークスキルの存在を隠そうとするのも容易に想像しうる。

 そして、すぐにその可能性を行き着いた(ディー)もそれ以上の詮索をすることはない。同じくユニークスキル持ちの彼女もその辺りの勝手は知っているのだ。

 勿論、種族特性上スキルを保有できないシャノンの場合は、伝説級装具レジェンダリーアクセサリーのスキル付加により実質的な単一(ユニーク)スキルを得ているだけなのだが。


「クラエスの森じゃないってことは、じゃあ地下(した)にあるってこと?」

「そこまでは聞いてないっすけど、順当に考えればそうなんじゃないっすか? シャノンさんは別に嘘吐いたりしないっすし」


 実際には竜流泉(ドラゴスプリング)内部の隠し水路を辿った先にあるため正確にはクラエスの森の一部に当たるのだが、少なくとも地上から直接行く方法がないことを考えると、ある意味どちらにも属さないと言う方が正しいかもしれない。


「やっぱりシャノンとこと組んでよかったかもね。ルーくんもなかなか面白――優しい好青年だったし」

「今面白いって言おうとしてなかったっすか、ぺったん娘先輩」

「誰がぺったん娘先輩じゃ、誰が! いきなり前言撤回さすな、このエロ助ッ!」


 思いがけないピンポイント攻撃に(ディー)は牙を剥いて憤慨する。


「まあまあ。まな板にもちゃんと需要あるっすから安心するっす」

「ほっほーう。それは貴様、うちに喧嘩を吹っ掛けてるってわけだな。上等じゃねーか、表出ろ優男ォッ!」

「ディーってキレると言葉遣いから丸っきり変わるんすね。あとここ表っす」


 自分で怒らせておいて、どうどうと宥め始めるという典型的なマッチポンプで(ディー)と戯れるルークに羨ましそうな目を向けるロンバルドとギブリの心中は察することもできるというものだ。


「……」

「何よ、テラ」


 何か言いたげな目でその遣り取りを見つめていた(テラ)に不機嫌モードの(ディー)の矛先が向けられる。


「……」

「あのね。そんなんじゃないってば」

「以心伝心ってこう言うのを言うんすかね。アイコンタクトだけでコミュニケーションが成立するとか、仲がいいどころのレベルじゃないと思うんすけどね」


 アンダーヒルのような理路整然とした思考予測ができない限り、よほど付き合いが長く互いのことを知り尽くしていなければまず不可能な芸当だった。


「言っとくけど、うちとテラはシャノンと君みたいな関係じゃないからね」

「……」

「いや、僕にそんな目で語られても、何言いたいのかさっぱりっす」

「“そろそろシャノンさんとルチアルさんを止めないと、大変なことになるかも”って言ってるよ」

「通訳どうも、法則性がさっぱりわからん新言語っすね。まあその進言はありがたいっすけど、マジでアレ止めるんすか?」


 爆音と共にその場の声はまとめてかき消され、立ち尽くす傍観者六人の間を熱風が吹き抜けていく。


「気が済むまでやらせておこ。シャノンからちゃんと話も聞きたいし、個人的にはあのルチアルが御せる程度の相手かを見ておきたいしね」


 最早交戦中の二人に言葉はない。そもそも傍から見ていても売り言葉に買い言葉で始まった争いに意味など見出だせるわけもなく、樹上から地上へ、また樹上へと次々場所を変えながら戦い続ける二人に周りはただただ呆れた視線を送るのみだった。


「外野からアレコレってのはシャノンさんの得意分野なんすけどね。残念ながら、内野で本人が無意味な戦闘してるんすけど」

「ある意味シャノンらしいけどね。器用なのか不器用なのかわかんない辺り」

「違いないっす」


 無意味な戦闘――――ルークがそう思うのは当然だった。

 ルークがシャノンから聞いたのは話の核であるという点では間違っていない。情報収集の結果、クラエスの森に≪シャルフ・フリューゲル≫のギルドハウスは存在しないと結論付けたのは確かだし、この竜流泉(ドラゴスプリング)に全員を集めたのも少なくともここが()()()に繋がっていると確信を持てたからこそだ。そこに至ったのは、この竜流泉(ドラゴスプリング)と帰還中だったアプリコットたちの進路とシイナの進路との交点に近いところに位置しているからという、シャノンから言わせれば誰にでも辿り着ける答えなのだが、そこまで漕ぎ着けるにはシャノンならではの行動力と運が一因となっているのは否めない。

 しかしルークはその状況における違和感に気付いていなかった。いくら“死神”と呼ばれることをよく思っていないにしても、既に決定的手がかりを得ている今ルチアルの軽口に大局を忘れるなんてシャノンらしくないということに。


「お、終わったっすかね」

「え?」


 ルークの呟きに反応し、(ディー)も樹上を見上げる。その瞬間、その視線と入れ違うようにシャノンとルチアルが開戦時と同じ場所に飛び降りてきた。


「腹立つ蛇……。こんな連中と共闘なんて土台無理だったんだねえ。行くよ、ロキ」

「何処にでも行っちゃえバーカバーカ!」

「「「「「「……」」」」」」


 ただの喧嘩かと思いきや、仲違いからのパーティ離脱まで発展していたらしい事態に他の六人は一様に押し黙り、呆れたような視線を二人に向ける。


「ロキッ!」

「いやいや、困った困った」


 こめかみに血管を浮き立たせるルチアルの剣幕に圧されたロキはため息混じりに一言呟き、それ以上は何も言わずに黙ってルチアルの後ろをついて歩き始める。


「シャノンさん、あれいいんすか?」


 二人の後ろ姿にべーと舌を出しているシャノンに『子供かっ』とツッコみそうになる自分を抑え、シャノンに最後の確認を問いかける。少なからず協力の意思があった相手をここで失って、後々後悔しないようにするための予防策だ。


「別にいいよ、あんなのっ。それよりこれから潜るけど大丈夫? 特に鳥組」

「幼稚園の年少組みたいに言わんといてくださいっす」

「このくらいの水溜まりなら問題ないし」


 水中機動に若干の負荷がかかる鳥系種族のルークと(ディー)の答えに「オッケー」とジェスチャーを交えて返したシャノンは特に水着装備に着替えるでもなく、自分から竜流泉(ドラゴスプリング)に――水中に飛び込んだ。


「うちらも行くよ、テラ」

「……」


 スポーツタイプの水着に一式換装した(ディー)は無言でこくりと頷く(テラ)の手を握って同時に飛び込む。


「十分それっぽく見えるっすけどね。とりまテラに先越されたっすけど野郎勢もさっさと行くっすよ、ロンバルド、ギブリ」

「ああ……ってギブリ。お前その頭で水泳帽被る意味あるのか」

「頭を保護するための水泳帽にスキンヘッドも何もあるかよ。防御200上がるし」

「驚きの上昇幅っすね」


 そんな他愛もない会話を交わしながら水着に着替えた三人は大きく息を吸うと、間髪入れず竜流泉(ドラゴスプリング)に飛び込み、先行した三人を追いかけ始めた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 “巡り合せの一悶着順争トラブルスポット・トラベリングツアー”――


 現在の脱落ギルド。


 «ソロモンズ・シンクタンク»

 «ロードウォーカー»

 «黄金羊(ゴールデンシープ)»


 ――タイムリミットまで残り五十時間二十七分。

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